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〜プロローグ〜 カンナギには500年に一度、一人だけ壮大な運命を背負って生まれてくる女の子がいた。その子は、創造神に生涯をささげるのだ。
1 再会 「すっげえや…。」
無理やりつれてこられたヨスガシティでのコンテスト。思わず絶句。こんなにレベルが高いとは…「コンテストってただポケモンの見た目を競うだけだろ?たいしたことなさそうだよな」なんて言ってた自分が恥ずかしい。 ここまでオレの考えを変えたコーディネーターは「メイラ」という名だった。そういやアイツもそんな名だったっけな…まさかほんとにアイツ?いや、それはないよな。でもオレはあいつに会いたくなった。なぜだろうか。迷っているうちにメイラ本人が来た。俺は決めた。話ぐらいはしてみよう。そう思って近くに行った。 そこにいたのはまぎれもなく、オレがカンナギにいたころの幼なじみ、メイラだった。
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2 再開2 でもオレはその場で硬直してしまった。アイツがあまりにもきれいだったから。年はオレと同じ15のはず。でももっと大人っぽく、もっと気高く感じられた。
―まるで、何か壮大なものを負っているかのように―
オレはそのイメージをすぐに頭から吹き消した。すると、まるでねらっていたかのようにメイラとかちりと目が合った。こうなると話しかけないわけにはいかないと思い、
「おまえ、あのメイラか?」
と、よくわからない質問をしてしまった。案のじょう、あいつは 「?」といった顔だ。
「オレはカイルだ。5年前までカンナギにいた。」
すると、ちょっと視線を泳がせた後、
「あー、もしかしてあの、超ドジっ子カイルくん〜?」
と、妙に間のびした返事が返ってきた。返事が遅れたのは、オレが銀の長髪を後ろでくくり、耳には多数のピアス、という超大胆なイメチェンをしたからだろう。 それにしても『超ドジっ子』はないだろう。確かにオレはドジだ。でも『超』がつくほどじゃないぞ!
「何してんの?こんなところで。」 「どうもこうもねぇよ。知り合いにつれてこられたんだ。おかげでお前の演技を見る羽目になっちまった。」
これは半分ウソだ。今はメイラの演技を見れてよかったと思ってる。
「やだな〜あれは私じゃなくてキュウコンが演技してるんだよ」
そうだな。とオレが答えると、アイツは笑顔のまま、 「で〜?知り合いって女の子なのぉ?」 と聞いてくるから参ってしまった。ほんと、オンナってこわい。 「男だよ」って答えたら「ほんとに〜?」と聞いてきた。でもそれ以上聞いてこなかった。ちなみに男ときたのは本当だが、女も途中からくっついてきた。だから半分ほんとで半分ウソだ。
二人の間に沈黙が流れた。
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3 楽屋で 「そういえば連れの男はどこにいるの?」
その一言で静寂は打ち破られた。それにしても…『男』をわざとらしく強調するなよ!こっちだってウソつくことに対して心が痛んでるんだぞ! …って、それは大げさだけど。
「もう帰ったよ。用事があるんだとさ。」 「ふ〜ん。じゃ、立ち話もなんだし、アタシの楽屋に来る?」
意外な返事。何をたくらんでいるんだ?と思ったけど一応ついていくことにした。
「すっげえや…」
本日二度目のセリフ。確かにそれぐらいすごかった。何がって楽屋の内装。ちょっとしたホテルの部屋のようだ。白で統一されて洗練された印象。ガラスのテーブルやらソファやらシャンデリアやらで…とても楽屋とは思えない。 「そこらへんに座ってて。着替えるから見ないでね〜」 とアイツが言ってきたけど、脱ぎながら言ってくるもんだから背中が見えてしまった。 「あっ…」 「どしたの?」 いや、なんでもないよ。と言っておいたがなんでもないはずがない!アイツの背中には妙な『マーク』があった。それも背中いっぱいの大きさの!
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4 故郷(ふるさと)へ オレは驚いてひっくり返りそうになってしまった。ま、ソファのおかげでそんなことにはならなかったんだけど。 それにしても…あの『マーク』はなんなんだ?どこかで見たような…。その時、過去の記憶がよみがえってきた。 ―10年前― 「ねぇばっちゃん、これなに?ぽけもん?」 ばっちゃんというのはカンナギの長老のこと。オレは巻物らしきものを手に尋ねていた。それにはポケモンらしきものが描かれていた。
「それはね、神様じゃ。」
と長老は妙にやさしく言葉を返してきた。 で、なぜこの光景が浮かんできたかというと、その『神様』の羽らしき部分と例の『マーク』がそっくりだったから。 なぜだ…?オレの声にならない呟き。ふと気がつくとアイツがこっちを向いていた。
「どしたの?なんか…変!」
まぁたどーでもいいところを強調する。
「俺だって考え事くらいするんだよ!」 「あっそ」と、いかにもどうでもいいという風に肩をヒョイとすくめて言い返してきた。
「ね、今からカンナギに帰るんだけど、一緒に来るよね!」
半ば強制的にカンナギに帰えることになった。
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5 NOERU(ノエル) 「今夜は満月か」 オレの何気ない一言。返事は返ってこなかった。今、オレたちはズイのホテルにいる。夜も遅いしそこらへんのホテルにでも止まろうって急に言い出してきたからだ。大体こいつはいつも勝手に決める。昔からちっとも変わってない! …わけじゃないんだよなぁ。なんか、無理して笑ってるってゆーかなんてゆーか。なんとなく話しかけづらかったし、オレは中庭に出てみた。こんな時間だ。誰もいるわけないだろう。そう思い込んでたもんだから人影にかなり驚いてしまった。
「おわっ!」 「あっ…カイル?なにやってんの?」
ノエルだった。一緒にコンテストを見てたやつ。もう帰ったんじゃなかったか?
「僕もあの娘のファンになっちゃって。思わずついてきちゃった。」 無邪気に話してるけど、それって追っかけだろ?ちょっと引くよな…。
「彼女は?」
もう寝たよ。と返しておいた。 「じゃ、これわたしといてよ。中は読まないでね」
そういってノエルは部屋に戻っていった。その時、俺は手紙を読みたいという衝動にかられ、封を開けた。 「…ッ!」
「メイラへ 僕も『神のしるし』を持っている」
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6 神になりうるしるしを持つ者 「メイラヘ 僕も神のしるしを持っている。その事で話がしたい。明日の5時「ズイのいせき」に来てほしい。」 …どういうこと? メイラは約束どおり遺跡に来ていた。わからないことが多すぎる。だいたい、あの役目は昔から女と決まっているのに…。 そこに、ノエルがやってきた。
「やあ、2年ぶりだね。」 「これ…どういうことよ!」
メイラは手紙をノエルの目の前に突き出した。
「やっぱり知らなかったのか…。」 「どういうこと?」
論より証拠、と言わんばかりにノエルは左手のグローブをはずした。そこには、メイラの背中にあるものと同じしるしがあった。
「…どうして―?」
ノエルの話では、こういうことだった。 ノエルは失くしてしまった自分の記憶を探すため、シンオウに来ていた。そこでメイラと出会い、背中の『しるし』を見て、自分とメイラは何か関係があるんじゃないかと考えた。そしてしばらく一緒に旅をして、ホウエンに戻っていった。
「そして、ぼくはジラーチに会い、記憶を戻してくれるように願ったんだ。」 「でも、昔からあの役目は女と決まってるし…」 「今まであの役目を担ってきたのが、たまたま女だけだったとしたら?だいたい、初代は双子の兄妹だったそうだし」
確かに、ノエルの言ってることが全てうそとは言い切れない。 ―なぜだか、目の前が真っ白になった気がした。
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7 記憶 ノエルは明るい顔で帰っていった。私の顔は暗かった。 とりあえず状況を整理しよう。ノエルはなくした記憶を探しにこっちに来ていた。そしてあたしと出会い、あたしとノエルは関係があるんじゃないか、という疑問の答えを見つけられないままホウエンに帰っていった。そしてジラーチに出会った… にわかには信じられない話だけど、目覚めの時期とは確かに重なっている。でも問題はそれじゃない。 なぜあたしが知らないことをノエルが知ってる?考えられることは1つ。 過去の記憶の中にその情報があったから。
―ノエル、過去に何を見て、何をしてたの…?
悩んでてもしょうがない。ホテルに戻る…か。
ホテルではカイルたちがトレーニングをしていた。
「どうした?元気ないな。」 「わかってるくせに。見たんでしょ?」
カイルは黙り込んだ。やっぱりね。
「聞きたいことは山ほどあると思うけど…ちょっと待ってて。」
あの子に電話してみようかな。信用できるし。 「もしもし?」 「もしも〜し!こちらエリィの情報ラボですぅ!」
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8 電話とツインテール 電話に出たのはツインテールで、目が顔の大きさのわりにバカデカィ女の子(推定10歳)だった。(ちなみにコイッの電話はテレビ電話だった。…金持ちだ。)二人はいくらか言葉を交わしてすぐに電話を終えた。
「行こうか。カイルくん」 「お…、おぅ」
どこへ? そんなオレの顔をみて、メイラは一言
「付いて来ればわかるよ。おバカなカイルくんでもね〜」
と、ひじょ〜うに気になる(腹立つ)セリフをよこしてきた。
「いや、そりゃそうだろうよ…って、聞いてる?」 「さ〜て、ハクリュー、出ておいでよ!」 「聞いてねぇな?聞いていないんだな?」
そしてメイラはゴーグルをつけ、わりとピッチリめの、厚手の飛行服的な服を着て、…ん? 飛行服的な? 飛行、服?
「え?お前何すんの?」 「飛ぶの!この子で」
そう言ってハクリューをぺしぺし叩くメイラ。…若干可愛そうな叩き方だった。 つか、ハクリューって飛べんの?
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9 行先と認識の変更 結局オレはまたメイラにバカにされ、(っていうかハクリューが飛べるとか知るわけねぇだろ!あんな見た目で飛べると思うか!)今はアイツといっしょにハクリューの背中にいる。オレだって飛行用ポケモンくらい持ってるけど、アイツが乗ってけってうるさかった。仲良くお空のデートってことらしい。(アイツ談) まあ、デートかどうかはともかく、アイツはオレに話をするつもりなんだろうと、思う。ノエルとか神とか、色々。ま、オレだってカンナギの生まれなんだ。大方の予想はついてる。でも、やっぱりワケが分かんねぇ。それでも、これからカンナギに帰って、ねーちゃんにでも会えば…はぁ?
「あれ?何で南に向かってるんだ?カンナギは北だろ」 「へ?あぁー…言ってなかったっけ?今向かってるのはエリィちゃんの家だけど」 「(また勝手に決めやがって…)」
メイラは手で大きなバツを作る。
「異論は認めません。ぶぶー」 「ぶぶーって、子供か」 「…」
妙な間があった。ため息の音がする。
「…そうだね。いつまでも子供じゃいられないし、いつまでもこんなムダ話はしてられない。」 「…メイラ?」 「改めて、カイルくん」
メイラはオレに向き直った。
「始まりの巫女の子孫として、貴方にお話と、正式な依頼があります」 「…」 「聞いて、頂けますね?」 「またオレに拒否権も異論も認めてくれないのな」
ー誰だよ、コイツはー
「あーあ、ここは寒くて敵わねぇ。早く実家に帰りてぇや」
自分の声がこんなに白々しく聞こえたのは、これが初めてだった。
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