ぴくし〜のーと あどばんす

物語

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凍結[1241] 西遊記

ゆりりん☆ ★2014.06/01(日)15:25
現代より時を遡る事、九百年―即ち、十二世紀。
当時、現代で言うホウエン地方は「豊艶国」と呼ばれていた。
そして各町や場所の地名は、殆どの物が現代のものと全く異なっていた。
その一つに該当するのが、華火山(かかざん)―現代のえんとつやまだった。
炎が盛んに噴き出す火山で、現代と大した変わりはないが、一つ現代と異なっている点といえば、
現代ではもうめっきり見掛けなくなった、野生のヒコザルやモウカザルが棲み付いている事位であろう。

ゴロゴロ…
空が黒い雲に覆われ、雨が降り出した。
ヒコザルやモウカザルは岩の穴に逃げ込み、心配そうに空を眺めていた。
そして、五百年前に頂上に落ちてきて以来、ずっとそのまま放置されている、金色の巨大な卵をじっと見つめていた。
この卵は、猿達が突いたり、転がしてみたり、とにかく色々しようとしても、重すぎて微動だにしなかったのだ。
仕方が無いのでそのまま放置していたが、まさか五百年も変化が無いとは。

ピカッ!!
やがて空が一瞬光り、激しい雨と共に、稲妻がこの華火山を直撃した。
猿達は恐怖心から目を瞑り、それから自分に危害が無い事を確認し、恐る恐る目を開いた。
すると、ある異変が彼等の視界に飛び込んできた。
猿達はざわめき始めた。
そう、五百年間、何ら変化の無かった金の卵に、皹が入っていたのだ。
皹は次第に広がり、猿達は息を呑んで、その光景を見守っていた。
そして―
「ムキーッ!!」
まるで猿のような声を上げたが、猿ではなく、人間のような姿をした男児が勢いよく飛び出してきた。
この男児は目付きが鋭く、うっすらと生えた真紅の髪、そして尖った耳が実に印象的である。
男児は卵から飛び出ると、頂上に着地し、呆然と眺めていた猿達を見回すと、

「俺様は悟空(ごくう)、今日からここの頭領だ!!お前達は俺の命令に従え!!」

誕生してから間もないにも拘らず、見下したような口調で猿達に向かって声を上げた。
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ゆりりん☆ ★2009.10/04(日)22:17
さて、この悟空という男児、生まれたばかりであるにも関わらず、相当な野蛮人であった。
華火山に住む猿達は、何時しか悟空には敬語を使い、表面では崇めるようになっていた。
悟空はそれをいい事に、猿達を扱き使い、野生的な生活を送っていた。
腹が減れば山の木の実を口にし、眠くなれば穴で眠る。
自分の本能のままに生活する、まさに『野生児』であった。
そうして、彼が誕生して後、十一年が過ぎ去った。

「やっぱり旨いなあ、柿は。」
柿の実をむしゃむしゃと食い散らす悟空。
野生児らしく、器用に果実の部分を素手で取り出している。
『本当に、柿の実がお好きなのですね…慌てなくても、残りはたくさんありますよ。』
一匹のモウカザルが彼の横で微笑んだ。
「う、うぐっ!!」
飲み込もうとして、彼は右手で胸を押さえ、左手で口を押さえた。
どうやら、柿の種を飲み込もうとしたようだ。
『大丈夫ですか!?』
「ゲホッ、ゲホッ…あー、何でこんなでっかい種が入ってんだよ、食いにくいだろうが!!」
『それは仕方ありません。…種があるから、次の実がなるのです。』
「にしても、食いにくいだろ!?大体、何で種が無きゃ実がならないんだ…ん?」
柿の種ごときで怒りを露にしていた彼は、向こう側で異変が起きているのに気付いた。
「何だ…?」
それまで頬張っていた食べ掛けの柿を放り出すと、素早い動きで猿達の集まりの中に割り込んだ。
すると、一匹のモウカザルが寿命を終え、眼を閉じて静かに横になっていた。
「おい、じーさん…どーしたんだよ?」
猿達を押し退け、死んだモウカザルの傍へ向かう。
『死んだのですよ。彼は…もう老衰でした。ご冥福をお祈りしましょう。』
悲しみに包まれた空気の中、
「え、な、何だよ、『死ぬ』…って…こーやって、寝てるみたいにする事なのか!?」
『いいえ…死んだ彼はもう、二度と目を覚ましません。生き物は何時か、必ず死ぬのです。』
近くにいたモウカザルが、泣き崩れるヒコザルを抱き上げて、彼に説明した。
「死」すらも知らなかった悟空は、驚きを露にした。
「…じ、じゃあ、俺も何時かは死ぬ、そういう事か!?」
『ええ…きっと、何時かは…』
「何だよそれ、ずっとこの山で、柿食って、寝て、楽しく過ごせないのか!?俺はそんなのやだぜ!!」
意味のない駄々をこねる事は、彼には決して珍しい事ではないが、その我侭により、
モウカザルの死による沈痛な空気は、大変かき乱されてしまった。
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ゆりりん☆ ☆2009.09/29(火)05:35
駄々をこねる少年。困り果てる猿達。
困惑の雰囲気の中、年長且つ博学で知られる一匹のモウカザルが冷静に一言を放った。
『…悟空様、年を取って死なずに済む方法ならあります。』
「え…?」
全員の視点が、彼に集中する。
『雲の上に存在するという桃源郷―そこで、仙人になるのだ。』
「センニン?」
聞きなれない言葉に首を傾げる少年。
モウカザルはコクンと頷くと、
『仙人の弟子になり、七年間の修行を積む事で、不老の仙人になれると言う。だがしかし…』
「分かった!!その『センニン』になればいいんだな!?分かった分かった、ありがとよ、じーさん!!」
…全く、人の話を最後まで聞かず、思い立ったら行動するのが彼の性分だ。
地を蹴り上げ、その尋常ではない跳躍力で雲を突き抜け、あっという間に桃源郷まで飛び立ってしまった。
『ああ、行っちゃった…』
『…仙人は不老というだけで、決して不死ではない。それを理解しているのか…』
『いいや、悟空様の事よ、不死と勘違いしているに違いないよ。』
猿達はあっという間に少年が突き抜けていった雲を見上げて、口々に言い合った。

さて、桃源郷。
仙人は悟空の顔をじっと見て、修行は厳しいぞ、とゆっくりめに言った。
しかし悟空は、
(ふふん、七年間なんてあっという間だろ。)
と鷹を括っていた。体力には自信があるのだ。
十一年間岩山で、猿と共に過ごしてきた人間がそうか弱い筈がない。
そして流れるように七年が経ち、悟空は十八歳になっていた。
それと同時に、七年間の仙人のなる為の修行を終える日がやってきた。
修行が終了した事の証である巻物を受け取る悟空。
その手は震えているが、それはこれで死なずに済む、という喜びからくるものであった。何処までも考えが単純だ。
「ははは、これで俺は不死身だ!」
七年間で七十三つの仙術を身に付けた悟空。
『金斗雲』という雲を自在に出し、それに乗って移動する、というのもそのひとつであった。
彼は金斗雲に乗り、仙人に別れを告げると、桃源郷を後にし、故郷の華火山へ一っ飛びで帰って行った。
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ゆりりん☆ ☆2009.09/29(火)22:55
さて、僕達との再会に心を躍らせ、生まれ故郷の華火山へ戻ってきた彼だが、そこである異変に気付いた。
―あれだけ沢山いた、仲間の猿達が見当たらない。
「あいつ等、何処行ったんだよ…?」
声が震える。膝の力が抜ける。彼はガクンと、その場に座り込んだ。
彼の目に映る火口からは相も変わらず炎が噴き出続けている。
と、彼の足元で、カラン、という何かにぶつかるような音がしたのを認識した。
「ん?」
音のした発生源を拾う彼。それは白くて硬い…そう、骨であった。
「まさか…」
―間違いない。仲間が朽ち果てて残った骨だ。気付けば、骨は辺りに結構落ちている。
ガランと骨が落ちた。悟空の身体が震え出した。
―その時だった。

『クク…山の猿達なら、お前が不在の間に私が食い滅ぼしたぞよ。』

何処からともなく不気味な声が聞こえてきた。
「誰だ!?」
身構える悟空。すると目の前に黒い歪が現れ、それは暫く渦巻いていた。
そして歪が段々と姿を変え、一匹の獣へと姿を変えた。
この獣は現代で言う「ザングース」―と似ている。
だがどういう訳か、現代に見られる個体よりも遥かに大きく、目付きは今より凶暴なものであった。
「お前は…」
憎々しげにそれを睨む悟空。ザングースは薄気味悪い笑い声を立て、
『ここの猿達は皆、美味かったぞ。お前も彼等を追って、私の体内へと消えないか?』
こちらに飛び掛ってきた。
彼は身構えた。七年間の修行で身に付けた力の見せ所だ。
相手を目掛けて走り出し、相手の手前で実に素早く跳躍した。
その迅速さは、人間の範囲を明らかに超越している。
『!?』
あまりの速さに、ザングースは一瞬戸惑った。頭上に悟空が飛び上がった事を確認する前に、
「貴様…ただで済むと思うなよ!!」
空中で叫び、腕を高く振り翳し、敵目掛けて飛び降りながら、炎を籠めた突きを繰り出す!
拳は炎を纏いながら垂直に落下し、ザングースの脳天に命中した。
『ぎゃああ!!』
その神速な攻撃を避ける事はできず、ザングースは脳天に炎を灯し、暫くの間悶え苦しんでいた。
そして暫く経つと、頭の先から順に、細かい粒子となり、徐々にその姿は消え始めた。
「…チッ。」
悟空は横目で、粒子となって消えつつある敵を睨むと、舌打ちをした。そして、
「この程度で死ぬとは、格下な奴なんだな。まあ、せめてもの罪滅ぼしだとでも思っとけ!!」
と、荒々しい声で叫んだ。声はすっかりがらんどうになった華火山に、妙に響いた。
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ゆりりん☆ ☆2009.09/29(火)23:02
―サマヨールが消えた後、彼の頭には、現実が蘇ってきた。
敵を倒したのはいいが、もう猿達は戻ってこない。食べられてしまったのだ。
山には今、彼以外に誰もいない。
悟空はしゃがみ込み、火口から噴き出続ける炎をじっと眺めた。
赤く燃える炎の中に、自分が生まれてからの断片的な思い出が幻として現れたような気がした。
猿達と過ごした幼い日の思い出が、次々に炎の中に蘇る。
「あの程度の奴に食われてしまった、か…お前等、俺のいない間に勝手に消えんじゃねえよ…」
もう空には、三日月が浮かんでいた。幼い頃は、こうして皆で断崖に寝転び、夜空を眺めていたものだ。
そんな日々が、つい昨日までの事のように思えてくる。
彼はいつの間にか、たった一人、夜の華火山の断崖の上で眠っていた。
星の輝く、静かな夜の事であった。

そして翌日から彼は、まさに凶暴な暴れ猿へと化していた。
元々喧嘩っ早い性分に加え、今の彼には常人を遥かに超えた能力がある。
という訳で、彼は益々調子に乗る訳である。
とはいえ、僕の死には心を痛める反面、見知らぬ者は平気で殺す、というのも可笑しな話ではあるが。
彼はまだ精神面が未発達である事が、実によく分かる。
「おらおらぁ!!」
『ギャーッ!』
海底の龍宮城にて、海の王である妖怪、ギャラドスが殺された。無論、これは悟空の仕業である。
「見たか、この悟空様の仙術を!」
ギャラドスから奪った一本の棒を拾い上げ、悟空が得意げに言い放った。
なお、この棒は『如意棒(にょいぼう)』という。
(あー、愉快だ!)
長さの変わる不思議な如意棒を最短にし、耳にしまった。
しかしこの様子を、天の王はしかと見ていた。
(ふむ…悟空は少々調子に乗っておるな。)
この後悟空が王によって天上界に呼び出された事は、自明である。

だが彼はこの後も、天の王に世話を任された馬小屋の中のポニータやギャロップを撲殺し、
天の皇子に逆らうという、とんでもない行動を重ね続けていた。
そして遂に怒りを露にした天の皇子と一騎打ちで戦っていた時―
「うわあっ…!?」
一瞬、目の前が白い光に包まれた。いや、光に包まれたのは右目の方―即ち東の方角のみだ。
「な…何なんだ!?」
悟空が相も変わらず喧嘩腰な態度で、誰にでもなく叫ぶ。だが当然、返答はこない。
そして気付けば、自分は誰かの巨大な手のひらの上にいた。
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ゆりりん☆ ★2009.09/29(火)23:14
「な…何だ…?」
足元を眺める。そして手のひら、手首…と目を追っているうちに、巨大な顔を目の当たりにし、
「誰だよ、あんた?」
(私は釈尊だ…人は私を釈迦と呼ぶ。遥か東の孤島、西遊から豊艶国を見守る者だ。)
釈迦の方は口を動かさず、表情ひとつ変えず、悟空を自らの手のひらに乗せ、彼を戒める。
悟空は辺りをキョロキョロし、ここが雲の上だという事だけ、とりあえず認識していた。
(悟空よ、お前がどんなに優れた力を持ち、この世界で威張ったとしても…
私の手のひらから出る事は出来ないのだよ。)
「そんな事、やってみなきゃ分からねーじゃんかよ。」
ニヤリとしながら言うと、釈迦は無表情を保ったまま、
それでは私の手から自力で出てみなさい、と言った。
「簡単だ!容易い御用だぜ!」
金斗雲に乗り、悟空は空高く飛び上がり、地の果てを目指し飛び立った。
そして、金斗雲で出来るだけ長く飛び立つと、そこはひたすら雲の広がる領域に達していた。
此処ならもうとっくに、釈尊の目に付く所じゃないだろう、そんな根拠のない自信より、
「ふふん、やっぱり俺の勝ちじゃないか。…記念に名前でも書いとくか。」
筆で、五本建っている柱に『悟空』と書き記した。
そしてまた金斗雲に乗ると、得意げな表情で、元いた場所まで戻った。
「地の果てで俺の名前を書いてきたぞ。」
勝った気満々で、釈尊に向かって自慢げに言い放つのだが…
(これの事か?)
釈迦が差し出した右手の中指には何と、先程彼が記した『悟空』という字が記されていた。
無論悟空は吃驚仰天したが、釈迦は相も変わらず無表情のまま、断言した。
(お前には少しばかり罰を与えざるを得ないようだな。)
釈迦は無表情で念仏を唱えだした。勿論、口は動いていない。
「…!?」
すると足の先から徐々に、彼の身体は赤い毛むくじゃらのものへと化していた。
やがて頭まで完全に、彼は人間の姿を失い切ってしまった。
そしてその姿はヒコザルでもモウカザルでもない―『ゴウカザル』であった。
「な…何だよこの姿!?」
自分の手や足を眺め、青ざめた悟空が叫ぶ。
(お前の姿を今のお前の心そのものに変化させたまでだ。…これだけでは済まないぞ。)
悟空が驚きのあまり口をパクパクさせて手や足を眺めている間に、釈迦はもう一度念仏を唱えだした。
すると彼の足元の雲に穴が空き、悟空は地上へ向かって落ちた。
あまりにも突然の落下であった為、金斗雲を出す事も不可であった。
「うわああ!!」
雲の下は、ちょうど豊艶の中心に位置する場所であった。
しかしそこは現代と変わらぬ砂漠であった為、吹き荒れる砂嵐が悟空を襲う。
それだけで済むならまだよかった。
「ぐあっ…た、助けて下さい!御釈迦様!謝ります、二度と無礼な真似はしません、だから!!」
悟空は砂嵐の中に聳え立つ岩山に閉じ込められたのだ。
最初とは裏腹の態度で釈迦に助けを求める悟空だが、
(五百年待て。そして五百年未来、三蔵法師(さんぞうほうし)という僧が此処に来る
お前は三蔵法師に仕え、西遊まで到来したその時こそ、私はお前を元の姿に戻そう。)

その伝言を残すと、釈迦は東へ帰ってしまった。
「そ、そんな…うぐっ!!」
力ずくで出ようとしても、とても出る事は叶いそうにない。
「お釈迦様!お釈迦様!許して下さい!!」
悟空は暫くの間叫び続けたが、釈迦が再び姿を現す事は無かった。
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ゆりりん☆ ☆2009.09/29(火)23:24
泣いても喚いても、ここは砂漠。滅多に人は通らない。
遵って、助けの手を自分に差し伸べてくれる人物が現れる確率は皆無に等しい。
「そんな…」
仙術を使おうとするが、釈迦の力には敵わない。岩山はびくともしない。
駄目元々で何かした方がいいという気持ちでもう一度仙術を使い、絶望する。
同じ事を数回繰り返しては、幾らやっても無駄だと思い知らされ、悔しさと惨めさで泣き叫ぶ。
そうしているうちに、五百年はゆっくりと過ぎていった。

五百年後、十七世紀。悟空は岩山から微かに見える外の世界を眺めていた。
西方に目をやると、生まれ育った故郷、華火山が見える。
(相も変わらずすげー炎…)
そう心の中で呟いた。遠くから見ても分かる程、火口からは絶えずに炎が噴き出続けている。
五百年も経ったというのに…全く変わっていない。
(あいつ等…もし生きてて俺のこんな姿見たら、何て言うんだろうな…)
そんな雑念を頭に浮かべていた時、
「…ん?」
華火山の方向から、何やら影が見える。
そしてその影は、見る限り人間の形をしていて、確実にこちらへ向かっている。
「も、もしかしてあれが釈迦の言ってた三蔵法師か!?」
まだそうと分かった訳ではないが、胸が躍る。期待が高まる。
人影は、砂嵐の中、次第にはっきりとその姿を見せた。
その姿は、法衣を身に纏った、法師の姿であった。
「…っおい!」
悟空は咄嗟にその法師を呼び止めた。
法師はまるで悟空を助ける為に此処に来たかのように、真っ直ぐとこちらに歩み寄ってきた。
「私を呼びましたか?」
「そうだ、この俺がお前を呼んだ!お前は三蔵法師だろ、俺を助けに来たんだろ!?」
此処から出たい一心で必死に懇願する悟空だが、これではまるで礼儀がなっていない。
「そうです。…いいですよ、助けましょう。」
三蔵法師は薄く笑みを浮かべたが、それは何処か他意が含まれているようなものであった。
が、悟空がこのような細かい部分を大して気に留める筈はなかった。
「本当か!?ありがとよ、あ、ついでに俺を弟子にしてくれ!頼む!!
俺はな、ほんとはこんな姿じゃないんだ、釈迦にこんな暑苦しい姿にされたんだ、本当だぜ!?」
「はいはい、少し静かにして下さい。まずは貴方を解放しますから。」
三蔵法師が手を合わせ、念仏を唱えると、御符が剥がれた。
そしてその途端、岩山はガラガラと音を立て、跡形も無く、呆気なく崩れ去った。
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ゆりりん☆ ★2009.09/29(火)23:56
「うはー!やっと自由になれたぜ!」
五百年ぶりの開放感に興奮し、飛び回る悟空。そして僧の方を向くと、言った。
「ありがとよ、三蔵法師さん。んじゃ俺はこれからお前の御供になるぜ。」
「どうも。しかし私の弟子になるなら、貴方は…」
そこまで言うと、彼は手を合わせた。
すると天から、金色の輪が飛んできて、悟空の頭に嵌り、頭をきつく締め付けた。
「いってぇぇ!!」
あまりの痛みに頭を押さえ、飛び回る悟空。
「…まず、その言葉遣いから直すべきですね。」
「分かりました分かりました、お願いですから助けて下さい!」
「はい。」
彼がもう一度手を合わせると、緊箍児は緩んだ。
悟空は涙目になりながら、未だ痛みの残っている頭を抱えていた。
「…その輪は緊箍児(きんこじ)といいます。私が旅を終えるまでの間、外れる事はありません。
途中で裏切った場合は緊箍児が発動するので御注意下さい。」
比較的、随分落ち着いた様子の三蔵法師。
悟空は未だに頭を抱えていたが、大分痛みが緩んできた。
「…で、お前の目的って何なんだ?
俺さ、釈迦って奴に、お前と一緒に西遊まで来りゃ俺を元の姿に戻すって言われたんだ。」
その途端、彼の頭には激痛が走った。
「あいででっ!!…分かりました、えっと、も、目的を教えて下さい!!」
「最初からそう言えばいいものを…」
三蔵法師は呆れたように言うと、
「…此処は砂漠です。とりあえず、私の寺院へひとまず帰りましょう。」
それだけ言うと、くるりと背中を向け、元来た方向へ歩き出した。
そして悟空は、もう頭を締め付けられるのは懲り懲りだと思ったのか、大人しく彼の後に続いた。
数分後、一人と一匹は、華火―現在で言うフエンタウンの東側に建つ、小さな寺院の前にいた。
なお、此処は悟空の故郷、華火山のすぐ麓である。
「此処がお前…じゃないない、三蔵法師様の住んでる場所…ですか?」
「はい。私が幼少の頃からずっと此処で育ちました。」
返答すると、三蔵法師は門をゆっくりと開け、
「…失礼の無いようにするのですよ。」
一言、念を押すと、中へ入っていった。
悟空は見慣れない風景を見渡しながら、その後に続いて、内部へと立ち入った。
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ゆりりん☆ ★2009.09/29(火)23:57
寺院の内部は、悟空にとっては見慣れないものばかりで、やたらと彼はキョロキョロしたが、
三蔵法師の一言で大人しく下を向いて彼の後に続く事にした。
そうして階段を上り、二階へ来た後、手前の襖を開き、誰もいない部屋へ到着した。
六畳で、中央には大きな机が置いてあり、こじんまりとした部屋であった。
「…お座りなさい。」
言われたとおり、ぺたんと座り込む悟空。
「手短にお話しましょう。…豊艶国はここ数年間、『妖獣』が民を襲うようになり、脅かされています。」
妖獣―人やポケモンを喰らう、不老不死の人外生物。
人間では妖獣を倒す事が限りなく不可能に近いと言われており、
僧や特別な霊能者が、町に結界を張る、又は妖獣を霊力で封印するのが最大限の抵抗であると言う。
「…そして今、天皇家より、各地の有能な僧へ、遥か東の孤島『西遊』へ旅立ち、
そこで釈尊より、国に平和を齎す経典を持ち帰るという命が下されております。
経典を持ち帰れば、同時に妖獣も消え去ると信じられているのです。
…だけどこの数年間、旅立った僧の中で、西遊へ到着したという報告はありません。
そして前回旅立った僧が途中で死したという連絡が回った今、天皇家は私に命を下したのです。」
「…つまり簡潔に言うと?」
「簡潔に言うと、私達はこれから、西遊への長旅に出るという事です。」
「じゃあ俺は三蔵法師様に着いていけばいーんですね?」
「そういう事です。」
「よっしゃ!俺が三蔵法師様をお守りするぜ!!」
単純な悟空は、この任務にすぐ乗り気になった。
「…それでは明日から改めて出発するので、今日は早めに寝てしまいなさいね。」
そう言い残すと、彼は用を足しに、部屋を後にした。
そして部屋の中で一匹になった悟空は、寝転がって、木製の天井をじっと眺めていると、
(あ、やべぇ…)
睡魔が襲い掛かってきた。
岩山の寝心地しか知らない彼にとっては、畳も気持ちいい。
目をそっと閉じ、うとうとし始める。
畳、という単語は勿論知らない。
そうして、三蔵法師が部屋に戻ってくる頃には、彼はとっくに熟睡していた。
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ゆりりん☆ ☆2009.10/01(木)18:09
さて、翌朝。彼等は寺院で朝食を摂った後、すぐに出発する事となった。
「悟空、まず此処を出発した後、金角(かなずみ)へ向かいますよ。」
三蔵法師は所持していた地図を広げると、悟空に見せた。
そして更に、金角で妖獣を倒した後、船で荷稲(かいな)町へ向かうと言った。
(俺の金斗雲にかかりゃ西遊まで一発なのにな。)
金斗雲は、生身の人間を乗せる事は出来ないのである。
悟空は意味もよく分からずに地図をじっと眺めた。
そして故郷である華火山もきちんと記されているのを見て、得意げに微笑んだ。
「…悟空、妖獣は今や、豊艶国を脅かす存在となっております。
私は貴方の力を見込んでいるので、宜しく頼みますよ。」
「はっはっは…任せて下さい!」
悟空が言った時、尼が朝食を運んできた。

朝食をたっぷり食べた後、一人と一匹は僧や尼に見送られ、寺院を後にしたのだが…
「うーむ…」
蓮麻が森を見上げ、顔を顰める。
金角への最短距離は、この森を通過する事であった。
「森を通らずに向かう方法はないんですかー?」
「いえ、ある事はあるのですが…」
そこを通るには、砂漠を通り抜け、火山灰の降り積もる道を通り、
把持(はじ)こと現在のハジツゲタウン、
そして更に西に存在した村、天尋(てんじん)を越えなければならないという。
「その方法で行けば相当な日にちが掛かりそうですし…何かいい方法はないでしょうかね。」
その時、悟空がニヤリと笑った。
「そーいう事なら任せて下さいよ!」
「え?」
悟空は身軽にジャンプし、手前に聳え立つ森のうち一本の大木に迅速な蹴りを入れた。
大木は呆気なく折られ、轟音と共にその場に倒れた。砂埃が辺りに舞う。
「ゴホッゴホッ…悟空!」
悟空は既に、元の大きさに戻した如意棒を構えていた。
そして身体の毛を抜き、ふう、と息を吐くと、無数の分身―ヒコザルが現れた。
「よし、手分けして森を破壊するぞ!」
何という荒療治。彼らしいと言えば言えなくもないのだが…
「まったく、何て無茶をするのでしょうか…」
悟空と分身であるヒコザル達は炎を吐き、森を燃やして行く。
蓮麻は半ば呆れて、やれやれと首を振り、溜め息を吐きながら、彼等の後に続いた。
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ゆりりん☆ ☆2009.10/01(木)18:18
悟空の良く言えば大胆、悪く言えば野蛮な行動のお陰で、
彼等は太陽がやや西に傾いた頃には、金角町へ到着していた。
金角町は豊艶国の中でも比較的大きな町であり、設備も整っている方だと云われている。
人口も勿論多いのは事実だが、近頃は妖獣の危険性もあり、町の中は閑散としていた。
「へぇ、此処が…『金角』、ですか?」
「そうですよ。」
悟空は立ち並ぶ家々を見て、唖然としている。
仙人になった頃は、自分は世の中の全てを知り尽くしたような思いに浸っていたが、
山の麓の世界は、まだまだ知らない事だらけなのだ。
「まずは寺院へ向かいましょう。」
三蔵法師はそう言うと、町の内部へと足を進め出したのだが、
「危ない!!」
「!?」
悟空の鋭い反射神経が反応した。
彼は彼を抱えてジャンプし、その場を凌いだ。
…もし、彼の反応がほんの一秒遅ければ、諸共に命を失っていただろう。
先程まで彼等が立っていた場所には、鋭い嘴が命中し、高速で回転しながら突っ込んできたのだ。
『中々素早い反射神経だな…』
地面から嘴を離し、声の主は再び宙へ舞い上がった。
それは、鋭い嘴を持つ妖獣―巨大な黒いオニドリルであった。
「妖獣です!」
三蔵法師が叫んだ時、悟空の握り拳に力が漲った。
(俺の手下達も…こいつの仲間に食い滅ぼされた訳か。)
そう思うなり、悟空の赤い毛むくじゃらの拳は怒りで震え出した。
『やっと姿を現したな…猿小僧、覚悟し…グアッ!』
言い終わらないうちに、彼の鋭い且つ狙いを外さない蹴りが、オニドリルに命中した。
「誰が猿小僧だ。」
金斗雲に乗り、オニドリルと同じ高さまで来た悟空が、俯いていた顔を素早く上げた。
「俺は猿じゃねえ!悟空だ!!」
そう叫び、如意棒を構え、空中で攻撃体勢に入っていた。
「悟空…。」
三蔵法師はその様子を地上から見上げていた。
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ゆりりん☆ ☆2009.10/02(金)04:32
猛烈な速度で、オニドリルと悟空の空中戦が繰り広げられていた。
一見、二匹の力は互角であるが、的確に相手の攻撃をかわしているのは悟空だ。
『流石は仙人の力を得ただけの事はあるな…猿よ。』
オニドリルが感心したように、彼の脳裏に声を送り込む。
「俺は猿じゃねえっつってんだろが!!」
悟空が苛立ちを露にし、如意棒でオニドリルの頭を殴った。
『グェッ…!!』
「いいか?今度俺を猿だなんて呼んだら…じゃねえ、
呼ばなくてももう貴様の命は無くなる運命なんだよ!!」
金斗雲で巧みに空中を移動しながら、悟空が声を張り上げ、
「燕石!!」
と叫び、金斗雲から足を離し、一瞬、西に傾いた太陽が二つになった。
たったの一瞬だったが、それは悟空であった。
オニドリルの真上に到達すると、突然猛烈な勢いで地面と垂直に降下した。
地面と、彼の落ちた軌道は、実に美しい垂直角度を為していた。
そのまま、二匹は地上まで落下した。
激しい轟音が閑散としていた金角町に響き渡り、オニドリルは地面に叩きつけられた。
そして、そのまま動く事は無く、暫く経つと細かい粒子に分解され、消滅した。
「…」
静けさが戻ってくると、悟空は手に握っていた如意棒を小さくし、耳にしまうと、
息を荒くしながら立ちずさんでいた。
「…悟空。」
暫く経ち、三蔵法師の声がした。
それで顔を上げ、辺りを見回すと、何時の間にか、彼等は大衆に取り囲まれていた。
そして前に進み出てきた僧が三蔵法師の方を向くと、口を開いた。
「三蔵法師様、町を訪れて頂き、大変有難い事この上ありません!」
「妖獣より町を救ったのは悟空です。彼を賞賛して下さい。
…姿は妖獣ですが、私の弟子なので、御安心下さい。」
僧は悟空の方へ視線を向けたが、その視線は、決して快いものではなかった。
(なんでぇ…折角町を救ってやったってのに。)
人々の関心は、今や豊艶国の希望である三蔵法師の方に向いている。
自分はその弟子に過ぎない。所詮そういう事か。
おまけに傍目から見れば、自分はただの喋る妖獣じゃないか。
「…とりあえず、御二方とも、寺院へおいでなさいませ。今夜は歓迎致します。」
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ゆりりん☆ ☆2009.10/02(金)04:50
「うめぇ!!」
ボリボリと、菓子の砕ける音が、悟空の口の中で繰り返される。
その傍らには、開封済みの菓子の袋が散らばっている。
「全く…行儀が悪いですよ。」
三蔵法師が彼の横で彼を戒めた。
「…それにしても、最近は国全体で妖獣の出没が頻繁になってきましたね。」
僧が茶を一口啜り、本題に入った。
「はい。…妖獣は不老不死、人間が倒す事は不可能ですからね。」
各地の寺院の僧が霊力による結界を張った御蔭で、ある程度は安全なのだが、
強力な妖獣ともなると、結界を簡単に破壊する者も存在する。
先程のオニドリルもその類である。
なお、通常のポケモンは「獣」と称される。
妖獣は人間だけでなく、獣までをも喰らうと言われている。
「妖獣から国を完全に救う方法はただ一つ…」
僧が重苦しい口調で言った。
「はい。」
三蔵法師が頷き、
「西遊で、釈尊による経典を持ち帰る事…」
と、言葉を続けた。
一方の悟空は菓子を頬張る事に夢中であったが、この辺りで手を止めていた。
「今の所、誰一人として、西遊より生還したという報告が無い…」
妖獣が何処からか現れ、国を脅かし始めてからの五百年間、
天皇家の命令により、各地から何人もの高僧が西遊へ旅立った。
が、生きて戻った者は一人も存在しないのだ。
遵って、三蔵法師が国を救う事が出来る可能性は、実の所、非常に低い事が窺える。
それでも民達は、国が妖獣から救われる事を心より望んでいる為、
天皇家に指名された高僧には、絶対的な信頼を寄せるのである。
しかし五百年間、高僧だけでなく、その弟子達までもが、
旅の途中、何らかの形で生涯を終えた事が報告されている。
西遊までの道が、いかに苦難であるかが、よく窺える。
(俺は不死身だから関係無いか。三蔵法師様を殺した妖獣は俺がぶっ殺すからな。)
また一つ、袋を開封し、煎餅を一枚摘むと、悟空が心の中で呟いた。
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ゆりりん☆ ☆2009.10/03(土)06:03
さて、悟空が布団を蹴飛ばして熟睡している頃、三蔵は僧達と共に一服していた。
僧達は、豊艶国の希望である三蔵には、最大限の豪華な持て成しをし、
まるで神か何かのように扱うのであった。
「どうぞ、最高級の緑茶です。」
「有り難う御座います。」
湯呑みの中に、普段は滅多に飲む事が出来ない、最高級の緑茶が渦巻いている。
三蔵は上品な仕草で湯呑みを持ち、美味しそうに飲んだ。
「…ところで三蔵法師様、一体どのような経緯で、あの獣を弟子に迎えたのです?」
僧達の一人が問うた。
三蔵は落ち着いた様子で、湯呑みを机の上に置くと、
「彼の要望です。…それ以上は詳しく話せません。」
最小限に説明を抑えた。
「そうですか…だけどあのような獣を手懐けるとは、流石は豊艶国を救う三蔵法師様。」
「お恐れ致します。」
この時代、人間と獣が触れ合う事はまず無いとされた。
尤も、一部の人間には、獣を手懐け、戦わせる事を業とする者もいたのだが、
本当にそれはごく一部であり、特殊な業とされた。
「妖獣に襲われても、きっと彼が追い払ってくれます。」
「そうですか、それは心強い。」

その後、客室に戻った三蔵は、大の字になって寝ている悟空を見下ろした。
彼のその頭では、緊箍児が黄金の光を放っている。
夜の暗がりの中でも、それは何故か分かった。
三蔵はしゃがみ込み、ゆっくりと、緊箍児に手を伸ばした。

『…僕の秘宝を間近で見るのがそんなに輝かしいですか?』

「!」
頭の中を、穏やかな男の声が過ぎった。
声、口調共に落ち着いているが、何処か貫禄のあるものであった。
(…はい。流石は貴方様です、青龍。)
口には出さず、脳裏で言葉を返す。
『その緊箍児は既に役目を果たし始めている。貴方は僕の指令通りに動くのです。』
「青龍」と呼ばれた、その声の主は、穏やかに話し続ける。
『僕は貴方の実力を見込んだ上で言っているのですよ。それでは検討を祈ります。』
そこで声は聞こえなくなった。
三蔵は悟空の隣に敷かれた布団に入ると、間もなく眠りに落ちた。
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ゆりりん☆ ☆2009.10/03(土)06:31
翌朝、僧や尼の盛大な見送りの中、彼等は金角を後にした。
町の中は昨日よりも多くの人々が歩いており、大分活気に満ちていた。
「よかったです、町に活気が戻って。」
三蔵が言った。無論、妖獣が退治された御蔭である。
「ま、俺の活躍ですね!」
「はいはい。…それではそろそろ出ますよ。」

やがて彼等は森を下り、桃花町ことトウカシティの東部の港へ来た。
「荷稲町行きへの船は三十分後に出発します。船小屋で待っていて下さい。」
体格のいい船乗りの男が三蔵に言った。
「分かりました。」
この船小屋は、現在でも健在である。
当時は海にも妖獣が出没するようになった為、出航は極めて疎遠になっていた。
「…船って何ですか?」
船小屋の中で、悟空が訊ねた。
「船というのは海の上を渡る、そう…貴方の金斗雲のようなものですよ。」
「ふーん…えっ、海?」
悟空は驚いたようにして飛び上がり、後ずさりした。
「海…海…」
炎の属性を持つ彼にとって、海は脅威である。
ガタガタと震え出す悟空だが、
「大丈夫です。貴方が暴れたりしなければ、水を浴びる事はありませんよ。」
三蔵が言うのだが、悟空は震えたままであった。
が、実際船に乗った後はその言葉を理解出来たようで、過ぎていく風景を眺めていた。
「すげぇ!金斗雲に乗った時より、ずっとゆっくり動くんだな!」
「そうですね…。」
だが暫く経つと、風景には飽きてきたようで、正面を向いて座り直した。
「…三蔵法師様、どうして妖獣は人間じゃ倒せないんですか?」
問われた三蔵は少し口篭ったが、落ち着いて返答した。
「それはですね、『妖気』が関係しているのですよ。」
「ヨウキ?」
またも知らない言葉に反応する。
「万物に存在する、目には見えない、魂で感じ取るものです。
物理的な攻撃以外の術は、全てこの妖気を鍛える事で、獲得出来るのです。
一般に、妖獣や獣は強い妖気を持つと言われますが、
妖獣の妖気は人間にはあまりにも強過ぎて、始末が不可能なのです。
人間よりも鍛えられた妖気を持ち、尚且つそれを操る事の可能な一部の僧が、
妖獣から身を護る結界を張るのが関の山なのです。」
三蔵の説明の内容を理解できない悟空は、首を傾げたままだ。
「妖気は、感じ取れる人間と、そうでない人間がいます。
獣や妖獣は、人間よりも遥かに妖気には敏感だと言われていますがね。
…悟空は見えませんか?私の周りに、深緑の光が…。」
その時の彼の笑顔は、何処か意味深であった。
「えっと…ああ!確かに…本当だ!!これが妖気か!!」
どうやら悟空は自覚が無かったようだが、妖気を感じ取る事が出来るらしい。
「ええ…やはり見えるのですね。そうか…。」
何故か三蔵は再び意味深な笑みを浮かべたが、悟空の意中には無かった。
こうしているうちに、船は海の上を進み続けていた。
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ゆりりん☆ ☆2009.10/03(土)06:53
快晴の中、船は無事に、正午になる前に荷稲町へ到着した。
船から下りた一人と一匹は、初めて訪れるこの地を、ゆっくりと見渡した。
辺り一面には、現代でも有名な砂浜が広がっている。
そしてその向こう側に、町並みが見える。
「足の裏が柔らかい…」
足の裏に付いた砂をじっと眺める悟空。
「砂ですからね。…それにしても噂どおり開放感がしますね、この地は…」
荷稲は活気に満ちた港町であり、豊艶国の中でも有名である。
現代も健在の魚市場も、この頃から既に盛んであった。
「…それでは悟空、行きますよ。」
砂を掴んで遊ぶ幼子のような悟空に一言告げると、三蔵は町へ向かって歩き出した。
そして悟空は慌てて立ち上がり、手を払うと、彼に続いて急ぎ足で歩き出した。
そうして砂浜には、町へと続く足跡がくっきり二つ、点々と続いていた。

だが、町の中は、彼等の予想した姿とは違った。
活気に満ちているどころか、町には人っ子一人見当たらない。
「誰もいねーな。」
「…もしかしてこの町も、結界を破った妖獣に支配されているのでしょうか?」
「チッ、人間もヤワだよなあ、あんな雑魚に支配されるなんてよ。」
「貴方にとって雑魚でも、人間からすれば脅威なのです。」
閑散とした町の中に、彼等の声はやたらと響いた。
「まずは寺院を訪ねましょう。」
三蔵の言葉により、一人と一匹が進み出ようとした時であった。
「お待ち下さい、私が案内致しましますわ。」
後ろから、高い女の声がした。一人と一匹は同時に後ろを振り返った。
そこには、長い髪を高く結い上げた少女が一人、立っていた。
「初めまして、三蔵法師様御一行。私は貴方方の来訪を、一週間前より予知しておりましたわ。」
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ゆりりん☆ ☆2009.10/08(木)08:52
「…貴方は?」
少女の姿を訝しげに見る悟空と三蔵。
顔立ちはそこそこ整っており、服装から察するに、日本人ではないようだ。
「私は凛是(りんぜ)と申しますわ。…荷稲は今や、妖獣の支配下に置かれております。
此処にいると危険ですわよ、だから一先ず寺院へ案内致しますわ。」
凛是はそう言うと、くるりと背を向け、歩き出した。
「着いていきましょう。」
三蔵と悟空は凛是に続いて歩き出し、数分後、荷稲寺院に到着した。
大きさや設備などは、金角に比べれば、質素なものであった。
「お帰りなさい、凛是。」
僧達が彼女の帰りを確認し、出迎えた。
「ただいま帰りましたわ。…今日は待望の来客も同伴ですわ、菓子と茶を出して下さいな。」
凛是がそう言うと、数人の尼が慌てて寺院の中へ駆け込んだ。
「お前、此処に住んでんのか?」
悟空が後ろから訊ねた。
「はい。」
凛是はそれだけ返答すると、
「それではお上がり下さい。」
二人と一匹は荷稲寺院の内部へ足を進め、部屋へ向かった。
悟空と三蔵が机の前に腰を下ろし、机を挟んで向かい側に凛是が座り込んだ。
「…では、手短にお話致しましょう。宜しいですか?」
一人と一匹が頷いた。
「一週間前、妖獣が荷稲町へ到来しました。
私と僧達は協力して妖獣を封印しようとしましたが、無駄な足掻きでした。
…しかし私は『一週間後、三蔵法師様御一行がこの町に来訪する』と予測しました。」
「予測…?」
三蔵が形相を煮え滾らせた。
「はい。私の家系は強い妖気を持ち、代々清で風水師を務めております。
しかし私は一族の中でも異例であるほどの妖気を持っております。
この強力な妖気を生かす為、私は早くに親元を離れ、日本へ到来しました。
そして自分なりに修行を重ね、妖獣を倒すとまではいかないものの、
妖獣から身を護る為の結界を張る事程度は可能になりました。」
清―といえば、現在で言う中国か。
確かにこの少女、言われてみれば顔立ちや髪型に中国人の雰囲気を醸し出している。
「…話を戻しましょう。
そして一週間後の今日、私の予測どおり、貴方方が此処においでになりましたわ。」
「それで協力して、妖獣を封印する、そういう事ですか?」
「簡潔に言うと、そういう事ですわね。」
「分かりました。…悟空、貴方の出番ですよ。」
蜜柑を頬張っていた彼に声を掛けた。
「んぐ?」
悟空はそこで初めて顔を上げた。どうやら全く話を聞いていなかったようだ。
「御免なさい凛是さん、彼は精神的に子供なものですから…」
「いえいえ、構いませんわ!…それにしても言葉を話す獣とは珍しいですわね。」
どの人物も、大概は同じような反応をする。
しかし凛是は悟空も三蔵と共に来訪する事まで予測したのか、然程驚いた様子は無かった。
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みんなの感想

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物語のつづきを書きこむ

ここにつづきを書けるのは、作者本人だけです。本人も、本文じゃない フォローのコメントとか、あとがきなんかは、「感想」のほうに書いてね。

物語ジャンルの注目は、長くなりがちなので、いちばんあたらしい1話だけの注目に なります。だから、1回の文章量が少なすぎると、ちょっとカッコわるいかも。


状態(じょうたい)

あんまりにも文字の量が多くなると、 ()み具合によっては エラーが出やすくなることがあるよ。ねんのため、 本文をコピーしてから書きこんでおくと、エラーが出たとき安心だね。

シリーズのお話がすべて終わったら「終了」に、文字数が多すぎるために テーマを分けて連載を続ける場合は「テーマを移動して連載」(次へ)に 状態を切り替えておいてね。この2つの状態の時に、「次の作品に期待」 されて感想が書き込まれると、次のテーマが作れるようになります。

ちなみに「次の作品に期待」をもらって「完結」や「続く」になってる作品を 「次へ」「終了」に変えることもできるけど、その場合、次のテーマを 作るためには、もう一度「次の作品に期待」が必要になります。

しばらくお話の続きが書けなくなりそうな場合は「一時停止」にしておいてね。 長い間「一時停止」のままの物語は、Pixieの 容量確保(ようりょうかくほ) のため消されることがあるので、自分のパソコンに 保存(ほぞん)しておこう。

やむをえず、連載を 途中(とちゅう)で やめる場合は、凍結をえらんでね。ただし、凍結をえらんでも、次の物語が 書けるようにはなりません。感想をくれた人や、次回を楽しみにしてた人に、 感想 で おわびしておこう。


ポケットモンスター(ポケモン)のページ「Pixie(ぴくしぃ)」