ぴくし〜のーと あどばんす

物語

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完結[1269] Snow

こっけ ★2011.01/05(水)06:35
そう。はじめて彼に会ったのは、初雪の舞う夜だったっけ。
灯台のアカリちゃんが体調をくずし、私もジムリーダーのかたわら、交代でアカリちゃんの看病をしてたの。
彼はその時たまたま この街に滞在してただけなんだけど、さすがブリーダーの勉強してるだけあって、薬効のある木の実をポケモンフーズに混ぜたり、手持ちのベイリーフにアロマセラピーさせたりして、懸命にアカリちゃんの看病をしていた。
その後、タンバから薬が届き、アカリちゃんは次第に元気を取り戻した。なつかしいな。みんなでお祝いしたっけ。
何の見返りもないのに一生懸命だった彼に、お礼の気持ちも込めて、アサギシティ滞在中は、私の家へ泊まってく事をすすめたの。幸い、家には住み込みジムトレーナー用の部屋の空きもあったしね。

あ、でも。
すすめてしまった…と言うべきなのかな…。
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こっけ ☆2011.01/06(木)18:32
ブロンズお兄ちゃんがうちに来たのは、ちょうどクリスマスイブ。
ホントは最初、なんかあんまりパっとしない人が来たなぁ…なんて思ったりしたんだけど、とってもやさしい人で、ポケモンたちの世話をしながら、旅のお話をしてくれたり、遊んでくれたり、小さなギターで曲をひいてくれたり。楽しくて楽しくて、時間の流れるのがすっごく はやく感じちゃった。

あたしが特に気に入った曲は、あした…何だっけ?タイトル忘れちゃったけど、ポッチャマってポケモンの歌。すっごくかわいいの。
しかも、ポッチャマって進化すると はがねタイプがつくんだって!やっぱり私は根っからのアサギジム トレーナーなんだって思っちゃった。
ちょっとジムトレーナーとしてのトレーニングに行きづってた時だったから、ステキなプレゼントありがとう!ってサンタさんに感謝したよ。
ま、私は10歳でもうオトナだから、サンタさんからはプレゼントもらえないんだけどね。

ブロンズお兄ちゃんにみてもらった私のコイルも、前より元気になったみたいで、「ありがとう!」って言ったら、
「ううん。特製ポケモンフーズを食べたイワークはまだしも、コイルにはまだ何もしてあげてないよ。コイルが元気になったのは、コナツちゃんが笑顔になったせいじゃない?」
だって。
あたし、そんなに落ち込んでたっけ? すっかり忘れちゃってたよ。
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こっけ ☆2011.01/09(日)23:13
お客さんが来たことで、年末年始は、にぎやかに過ぎていった。
コナツもすっかり彼になついて、はしゃぎ回ったり、膝の上に座りたがったりと、何かと彼を困らせてたけど、彼はそんなコナツにいつも優しく接していた。
もともとしっかり者で、がんばり屋さんな子だったから、まだ10歳の子どもだなんて忘れかけてたけど、やっぱりまだ遊びたい盛りの子どもだったのね。当たり前か。

でも、彼が旅先で出会ったポケモンの話を聞いたりしてるうちに、最初にこのジムに来た時のような気持ちを思い出したみたい。
そう言えば、コナツは最初にポケモンをもらってから、すぐにこのジムのトレーナーになったから、旅らしい旅なんて、あんまりしてないのよね。
まあ、私も小さい頃からジムリーダーになるためのトレーニングばっかりだったから、似たようなものだけど…。

今、ジムは私のほかに、トレーナーはコナツだけ。だから、いなくなられちゃうと、とっても困るんだけど、本当は、いろんな世界を旅して、さまざまな経験をつむほうが、コナツにとって大きな成長になるんだろうな…。なんて、思ったりもしながら。
楽しそうにしてるコナツを見て、つい てっぺきガードを忘れちゃってた。
私も、彼の奏でる音楽を聴き、すっかり心も体もリフレッシュさせてもらった。
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こっけ ★2011.01/12(水)18:09
「えー、いいじゃん!」
正月もあけたころ、あんまりおジャマしても悪いから…と、船のチケットをとりに行こうとしてたブロンズお兄ちゃんに、ミカン姉ちゃんが、正式に ここのジムトレーナーにならないかって誘った。
もちろん、あたしも大賛成!
「でも、アサギジムって はがねタイプのジムでしょ?まだ、はがねタイプのポケモンは育てたことなくって…。さすがに、はがねタイプのポケモンを1匹も持たずに、ジムのトレーナーを名乗るわけにはいかないでしょ?」
痛恨だった。

でも、ミカン姉ちゃんは、はがねタイプのポケモンだったら手配するし、何だったら私のポケモンを交換してもいいって…。
えー!私の時は「ダメ!」って取り合ってくれなかったのに、えらいちがい…。
ううん。わかってる。強いポケモンをもらって勝ったところで、それはトレーナーの実力じゃなくて、もらったポケモンが強いだけ。一緒に努力して、苦労して困難をのりこえることで、ポケモンとも通じあえるようになるし、トレーナーとしての実力が伸びるんだって。
それに、ブロンズ兄ちゃんは、ポケモン育てる事に関してはもうプロみたいなもんだもん。あたしとは ちがう。
…わかってるんだけど…やっぱり くやしかった。

でもね。ブロンズお兄ちゃんは、バトルするなら自分で育てたポケモンでバトルしたいって。さすがブリーダー志望だよね。かっこいい。かっこいい…とは思うんだけど。
…それはつまり、ブロンズお兄ちゃんは やっぱり旅立ってしまうって事。

理解しちゃった胸がぎゅってなってきちゃって、思わず「あ、いけない!」なんて言って、自分の部屋に走りこんじゃった。
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こっけ ☆2011.01/16(日)17:34
ジムトレーナーへの勧誘は断られちゃったけど、急に走り去っていったコナツを察してくれたみたいで、しばらく彼にはジムのポケモンたちのコンディションを整えるお手伝いをしてもらうことになった。
正直、ジム戦ばかりに追われ、私のポケモンたちも、このことろコンディションがイマイチのまま戦わざるをえなかったりする事も多かったし、しっかり育成もできてない事も気になってたので、これはとても助かった。
このまま、ずっとジム専属スタッフとしてお手伝いしてくれれば…なんて思ったりもしたけど、彼もまた、夢にむかって修行の旅の途中。あんまり無理は言えないわよね。

コナツもまた元気にはなったけど、やたら「おにーちゃん♪おにーちゃん♪」と、まとわりつくようになったのは、やっぱり彼がずっとここにいる訳じゃないって事を気にしてるからかも。
彼はいつも笑顔だから、可愛がってるのか、困ってるのか、よくわからないけど…。

お正月の短い休みも終わり、ジムを開くと、さすがジョウトリーグの開催が迫ってることもあり、ジムリーダーとして忙しい日々が戻ってきた。
でも、ハガネールたちのコンディションがいいせいか、私がリフレッシュしたせいなのか、勝っても負けても、ジムリーダーとして理想的なバトルができた。
彼に感謝しないと。
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こっけ ★2011.01/23(日)21:47
ミカン姉ちゃんはこのところルンルン♪
そりゃそうだよね。このところのジムバトルは、チャレンジャーが実力を伸ばせるように心くばりしつつも、決めるところはきっちり決める、かっこいいバトルばっかり!
さすがジムリーダーだよね。あたしも、あんなバトルができたらなぁ…。

でも、まだ「シャキーン!」は ちょっと恥ずかしいみたい。
地味なアサギジムにインパクトをもたせるために、私が3日も頭ひねって考えたんだから、思い切ってやってほしいな〜。

でもでも。アサギジム インパクト大作戦のおかげか、このところチャレンジャーがたくさん♪ ジムを閉める時間をすぎても、なかなか試合がおわらないの。こんなに忙しいのは久しぶり。
あたしも審判とかしなくちゃいけないから抜けられなくって、夕ご飯のお買い物に行くころには、すっかり暗くなっちゃってた。おまけに雪までふりだして。
今日はカンタンにできる料理にしなくちゃ〜なんて考えながら、家を飛び出したら、ブロンズお兄ちゃんが後ろから走ってきて、「ちょうどポケモンセンターにも用事あるから一緒に行こう。」だって。

ぱぱっと買い物を済ませて、ポケモンセンターによったんだけど、ブロンズお兄ちゃん、ポケモンを回復してもらったりするワケでもなく、ポケモンを転送するワケでもなく、ちょちょっとパソコンいじってすぐ帰ってきちゃった。
…あれ? 何の用事だったんだろ?

しばらく雪道を歩いて、ブロンズお兄ちゃんの横顔を見てるうちに、わかっちゃった。
…そっか。本当はポケモンセンターに用事があったワケじゃなくて、暗いから心配してついてきてくれたんだ…。
やっぱり優しいなぁ♪
「ねえ、ブロンズお兄ちゃん♪」
「ん?」
あたしは、今の気持ちを素直に表現したの。
「ありがと♪ 大好き!」
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こっけ ☆2011.01/25(火)20:42
ジムの片付けも終わり、家の前でふと雪の積もりはじめた通りのほうを見ると、ちょうどコナツたちが楽しそうに買い物から帰ってくるのが遠くに見えた。
おかえりー!と言おうとして、手をふりあげた瞬間…。
…え?

私は、時間が止まったのを、はっきりと感じた。
コナツが彼の首に手をまわし、顔を近づけ…

私の頭は、急にフル回転で、今見えたものを、説明づけようとしてた。
い、今のは…あれはたぶん、熱がないか、おでこをくっつけて確かめてるの。
いや、きっと「ずつき」って技を実演してみせたところ。
ううん、ちがう。あれは雪でコナツがすべって、彼につかまろうとして、たまたま事故で…そう、事故で…唇と唇がぶつかっただけ…。

頭でそんな事を必死に考えてるうちに、頬をひとつぶの雫が流れた。
…雪だよね。雪が解けて頬を伝ってるの。それ以外の理由なんてないもの。
振り上げた手が何をしたらいいのかわからず、空をつかんでゆっくり降りてくると、ふたたび時間が動き始めた。
私は、とっさに家の中に入ってしまった。別に、コナツたちに見つかって困ることはない筈なのに。
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こっけ ☆2011.01/27(木)23:23
「き…今日はたくさんジムバトルをして疲れたから、ちょっと休ませてもらうね。」
そう言って、ミカン姉ちゃんは、自分の部屋に入ったきり出てこなくなっちゃった。
夕ごはんも食べずに寝ちゃったのかな? せっかく急いで作ったのに。

大盛りに盛ったミカン姉ちゃんの夕ごはんにラップをかけながら、ふと窓の外を見ると、雪がかなり強くなってきてた。
これは朝までにはかなり積もってそう。去年までだったら、大よろこびで雪だるま作ったりしてたころだけど、明日は早く起きてジムの前を雪かきしないとかも〜。
炊飯器のタイマーをセットして、あたしも早めにベッドに入ることにした。
今夜はステキな夢を見れそう♪
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こっけ ☆2011.01/28(金)20:39
「11月は季節外れの台風の影響で、運行ができなかった日がありましたが、なんとかタンバの祭りの当日には運行も間に合い、人・ポケモンとも、10月よりやや多めの乗船となって…」
何年ぶりかの大雪になった朝、私はアサギポケモン協会の会議に出るために、ポケモンセンターに来ていた。
「ポケモンセンターも、タンバのお祭りの行き帰りにトレーナーが多く利用した事もあり、回復・宿泊ともかなりの稼働率になりました。ただ台風で船が出ず、足止めになってしまったトレーナーで宿泊用の部屋があふれて、ロビーで一夜を過ごすことになったトレーナーが…」
ジムリーダーなんて一見、華やかな職業に見えるけど、意外とこんな地味な仕事も多い。
「うーん、やはり、旅の人には気持ちよくこの街に滞在してもらいたいものですな。ポケモンセンターの宿泊煉について、もう少し予算を何とか…」
昨日は早くベッドに入ったものの、なかなか寝付けず、目をつぶれば焼きついてしまったシーンが何度も回想されるばかり。
「しかし、いくら投資してもそこで利益を出せるわけではないですからねぇ。ここ数年、観光客も減少傾向ですし…」
小さい頃からジムリーダーの修行ばっかりしてたから、友だちからは「ミカンって男の子に関しては、ホント鈍感だよね〜」なんて、しょっちゅう言われてた。
「でも、街の活性化になるなら、市民にも還元されるんじゃないかしら? 市長にかけあって…」
わかってた。自覚はしてた。同い年の友だちが次々と彼氏つくっても、あせったりもしなかった。でも…いくら鈍感でも、まさか自分の気持ちにさえ気づかなかったなんて…
「ジムのほうはどうですか?」
今こうしてる間にも、彼とコナツは仲良くしてるのかな…
「ミカンさん?」
「!?…あ、あの…今日は船、出てますか?」
突然呼ばれ、すごく とんちんかな発言をしてしまった。
「え? ああ、この天気なので遅れや休止もあるかもしれないけど、今のところ、いつもの時間に出航する予定だよ。…ジムの挑戦者さんが今日の船に乗る予定でもあるのかい?」
「え?ジム?? …あ、すみません!ちょっと考え事をしてて…。えっと、11月の挑戦者は…」
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こっけ ☆2011.01/29(土)18:11
「ミカン姉ちゃーん!ごはんできてるよ〜?」
お昼になっても戻ってこないミカン姉ちゃんを呼びに行くと、ジムには誰もいなかった。
おっかしいなぁ?会議からはとっくに帰ってきてる時間なのに。ジムにいないとなると…まさかごはん待ちきれなくて食堂 行っちゃったとかないよねぇ?
念のため、ミカン姉ちゃんの部屋にも呼びに行ってみる。

…あれ?少しドアが開いてる。
「…ミカン姉ちゃん?」
そっと中をのぞいたけど、やっぱりいない。
ダイニングに戻ろうとして、ふと足が止まる。ミカン姉ちゃんの机の上に、見なれないものがあったのを思い出す。
普段から、きちんと整理整頓されてる机…。ちょっと胸騒ぎがして、部屋にもどる。
『コナツへ』
机の上にあった封筒には、そう書かれていた。
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こっけ ★2011.01/30(日)19:51
私は、自分の行動力に、ちょっとびっくりしていた。
手の中には、彼がこの間とりに行こうとしてた高速船のチケット。
でも、船に乗るのは、彼じゃない。この私。

そう。ジムトレーナーになってほしかった訳じゃない。
ただ、ずっと一緒にいてほしかっただけ。

でも、彼には行くべき場所があった。
私の行くべき場所は…

大きな汽笛が鳴り、見慣れた街が遠ざかっていく。
きっと2日前までの私なら、ジムをまかせて旅に出るなんて無責任な事、絶対できなかった。…ううん。今でも信じられない。
一応、ジョウトリーグには連絡しておいた。数日中には、誰か代理ジムリーダーが来るはず。コナツはしっかり者だし、本当は私なんかよりも大人かもしれない。
でも、さすがバトルに関しては、まだまだ修行をつんでもらわないと。
それに、さすがに10歳の子を一人置いていく訳にはいかない。
…一人じゃないか。

雪の降る甲板でそんな一人つっこみをしてると、あるメロディがうかんできた。

粉雪のサントアンヌ

彼がクリスマスの日に弾いてくれた曲だ。
私は静かに目を閉じて、頬をなでる雪と雪でないものを感じながら、曲に浸っていた。

メロディの最後に、もう一度目をひらいた時には、私の目的地は決まっていた。
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