ぴくし〜のーと あどばんす

物語

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凍結[1294] 波導のレクイエム 第二巻

白いメタグロス ★2013.01/16(水)20:19
【波導のレクイエム 第一巻までのあらすじ】

そこは、人とポケモンの暮らすポケモンワールドに程近い次元に存在する――ポケモン達だけが暮らし、ポケモン達によって独自の文明が築かれた世界「ポケリウム」。

豊かな自然と人間のそれよりも進んだ機械技術が調和しているこの世界では、たくさんのポケモンが互いの技術を提供しあい、争うことなく平和に暮らしていた。

だが…ここ最近になって、長きに渡って続いた平和が静かに軋み始めるようになった。
ポケリウムの世界樹へと続く聖地の洞窟が闇に包まれるという異変をきっかけに…ポケモン達を襲う危険な種族「魔族」が、世界中に溢れ出したのだ。
魔族はその驚異的な戦闘力と繁殖力によって次第に領土を広げ始め、それ以来、いつ終わるとも知れないポケモンと魔族との戦乱が始まったのである。

ポケモン達は圧倒的な戦闘力を誇る魔族軍に立ち向かうべく、ポケリウム中から戦力を集め、ポケリウム軍を結成。
そして魔族軍の被害に見舞われている地区に保護区を制定し、全力で魔族軍に応戦する体制を整えた。
これまで長く続いた平和が見る影も無く崩れた今…ポケモン達は団結し、魔族軍というかつてない脅威に必死に立ち向かっていた。


任務の途中、レディウス遊撃部隊が保護した二匹の記憶喪失のポケモン…リオルのリックスと、ラティアスのティス。
その記憶の手掛かり探しを今後の目標とし、調査をすすめていく内に、ポケモンと魔族のハーフである「中間種」が大きな謎として存在している事が判明。時を同じくして進撃を開始した魔族軍四天王分隊からローレンの村を守り抜いた一行だったが、壮絶を極めたこの戦いですら、まだ序章に過ぎなかった。
その後、本部公認の元…中間種を極秘調査している特殊部隊とともに調査に当たる権限がレディウス遊撃部隊に与えられ、記憶探しの一環でやっていた中間種調査を本格的に行えるようになった。
ともに調査を行うパートナーとして選ばれた特殊部隊は、以前からレディウスと面識のあったサンダース・ハリー特殊部隊。今後の調査を効果的に行うべく、飛行艇のバージョンアップのために科学都市フォートシティに向かう事に。

バージョンアップ期間中、一時的に自警団ギルドに仮登録した一行はメガニウムのキン率いるキン遊撃部隊とギルドメイトになり、その後にある事情で中間種調査に当たっていた元雷鳴道場師範・カイリキーのサイヨウもレディウス遊撃部隊に参加。
その後、ハリー特殊部隊隊員・イーブイのジャックの伝令が入り…数日後、突如急襲してきた上位魔族ハイド・ジョーカーにティスを連れ去られ、一行はハイドの率いる闇のサーカス団との戦いに巻き込まれた。
壮絶を極めた激闘の末、一行はティスを救出し、闇のサーカス団の討伐に成功…だが、その戦いでハリー特殊部隊隊員・イーブイのクルスが、一時的に伝説とされる幻の進化系「エルセオン」となったため、クルスもまた自分の計り知れない潜在能力に悩まされる事となった。
不安に駆られるクルスだったが、ティスの励ましによって気力を取り戻し…一行は改めて仲間の大切さと暖かさを再認識した。

…だが、その騒動終結の翌日…間髪いれずに、新たな騒動が起きようとしていた。
これは…ポケモンと魔族の対立に向き合う、長きに渡って続いた戦いの物語である。
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白いメタグロス ★2011.11/01(火)20:01
【第三十三話:フレイ 〜外部現状に通ずる者〜】

闇のサーカス団との激闘の後…戦いのダメージだけでなく急激な変化による体の負担もかなり大きかったため、クルスは一週間ほど療養することになった。
リックス達もその間はクルスに交代で付き添う事になったため、しばらくは行動休止状態に。
飛行艇のバージョンアップはとっくに終わっていたが…事態を話すと、受付のマイナンは引き渡しはいつでも構わないと言ってくれた。
…だが、運命だけは待ってくれなかったらしく、その翌日から新たな動きが起きようとしていた。

「ふあ〜ぁ…」
冷たい空気の流れる朝、ギルドの屋内庭園をあくび混じりに散歩している一匹のリオル…リックス。
庭園には他にも早起きなギルド所属ポケモンがいたが、朝早くなのでそこまで多くはない。
すると…そんなリックスの前に一匹のブースターが現れた。
その隣には一匹のバクフーンの姿もあったが、いずれも赤茶色のテンガロンハットを被り、その帽子に中心に炎の描かれた金色の星型バッジを付けている。
「ちょっと聞きたいんだが…このギルドにハリーとかいうサンダースは来てるか?」
年齢はおよそハリーと同じ20代前半ほど…だが、そのハスキーで低い声には歳不相応の貫禄が感じられる。
どうやら、そのブースターはハリーの事を知っているらしいが…一体何の用なのだろうか。
「あぁ、来てるけど…あんた、誰?」
「おっと、申し遅れたな。俺はフレイ、こっちのバクフーンは相棒のバート…今度、自警団連合の新リーダーになった者だ。ちょっとポケリウム軍本部の方から要請があってな、今日はそのためにハリーとコンタクトを取りに来たんだ。」
見た感じ、特に不審そうではなく…それに本部の方から公式に要請されて来たのなら、おそらく本当の事を言っているのだろう。
そう感じたリックスは、ハリーの所に案内することにした。
「でもさ…自警団連合って何だ?」
その質問には、バートが応対した。
「南の大陸各地に点在する、自警団の集まりみたいなものさ。だが、いずれはすべての大陸の自警団と連携を取り、ポケリウム軍と同規模の警察機構として組織化を図るつもりだ。俺とフレイはその交渉のために、ここ数日は各地を転々としている。」
バートは意外にも内部事情まで話してくれた…隣で聞いていたフレイも、それを口止めする様子は無い。

「フレイ…フレイじゃないか!」
さっそくリックスがフレイ達をハリーのところに案内すると、やはりハリーは懐かしい顔を見たような反応を見せた。
フレイもまるで幼馴染にでも会ったような嬉しそうな表情で、隣のバートもどこかほっとしている。
「軍を突然やめた時は本当に驚いたよ…結局、地元の自警団に入ったのか?」
どうやら、本当に旧知の仲だったようだ…しかも、フレイは元々軍に籍を置いていたという。
何故入った軍をやめてまで地元に帰り、自警団になったのか…ハリーはずっと、その事が気になって仕方が無かった。
「まぁ、そうなるな…だが、理由はある。それには軍と一般ポケモンとの信頼関係も深く関わってくるんだが…軍だけが動いていても、本当の平和を取り戻すのは難しいって事だ。とりあえず、込み入った話になりそうだし、あまり穏やかじゃない動きも出始めている…今後の事も踏まえ、ここからは会議室で話し合わないか?」
あまり穏やかじゃない動き…そう口にしたフレイの表情は、少し深刻そうだった。
「…分かった、そうしよう。これは、僕と君だけの方がいいかな?」
「いや、他に仲間がいるなら全員同席してもらっても構わない…というか、むしろ全員同席してほしい。」
そこまで言いかけると、フレイはふとバートの方に向き直った。
「バート、自警団連合交渉は…事が落ち着くまで、しばらく休止だ。そのつもりでいてくれ。」
フレイの言葉に、バートは静かに頷いた。


その後…レディウス達にも招集がかかった。
クルスは療養中なので参加できなかったが…リックス、レディウス、サイヨウ、ルカ、ティス、キン、ハリーが会議に参加する事に。
リックス達とフレイ達が会議室に集まると…軽い自己紹介ののち、話し合いが始まった。
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白いメタグロス ★2011.11/02(水)22:48
【第三十四話:フレイの推定】

「まず、俺が軍を抜けた理由だが…こいつを見てくれ。」
そう言うと、フレイはテーブル上に数枚の写真を置いた。
航空写真、遠距離から撮影された写真…撮影方法は様々だが、写っているものはいずれも同じ被写体。
そこに写っていたのは…草木一本生えていない何処かの孤島と、建造途中の巨大な戦闘飛行艇。
まだ骨組さえも完成していないが、孤島にびっしり並ぶ様子を捉えた航空写真から、ゆうに100機近くはある。
「…これ、全部魔族軍の造ったものなの…?」
戦慄に顔を引きつらせながら問うレディウスに、フレイは静かに頷いた。
「それだけなら、この孤島の連中を叩いて建造をやめさせれば済む話だ…だが、事はそんなに単純じゃない。これはまだ調査途中なんだが…今、猛威を振るっている魔族が、すべて本来の魔族ではない可能性がかなり高くなっているんだ。その裏付けを捉えたものが…こいつだ。」
次にフレイが出したのは、一枚きりの大きめの写真…そこに写っていたのは、衝撃的なものだった。
写っているのは一見すると全員魔族に見えるが…その魔族にしか見えない者達がふたつに分裂し、武器を持って争い合っている。
本来の魔族であれば、今の現状から考えて敵対関係にあるのはポケモンくらいしか考えられない…ましてやその魔族が、互いに傷つけ合う事など考えにくい。
「現在、中間種調査を行っている者たちの間では『中間種はポケモン・魔族と敵対している』というのは知られているが…その事から、これに写っているのが魔族と中間種との争いだとも考えられる。ただ、単なる仲間割れである可能性もあるから、一概にそうとは断定できないが…」
そう付け加えたバートも、推定の域を出られない事に少し悔しそうにしていた。
先に見せてもらった写真にあった戦闘飛行艇は魔族のような者たちが建造作業を行っている場面も見受けられたが、こちらも魔族と中間種のどちらが所有しているかも分からない。
「ポケモンと魔族はもともと仲良しだったっていう記録もあるけど、やっぱり…いま猛威を振るってるのは、中間種なのかな…」
ティスは、ローレンの村の村長から聞いた話を持ち出した。
フレイとバートはその事を知っていたらしく、この推定はその事から立てたものだと答えた。

それらの写真と可能性を見せた上で、フレイはいよいよ本題に入った。
「…この写真を撮ったのは、俺が軍をやめる前だ。ただでさえ被害が大きいからな…目の前の火の粉を振り払うのがやっとの軍の中で、こんな推定ばかりやっている暇は無い。軍に迷惑をかけるばかりか、最悪の事態を招きかねない。だから俺は軍を抜けた…軍に迷惑をかけないよう、自警団側で調査を進めるためにな。」
その後のフレイの話によれば、軍はその数年後に特殊部隊枠のみで極秘調査に乗り出したという…少なくとも、フレイは自分の立てた推定を本部の一部の者達に話して軍を抜けたようだ。
そもそもポケリウムにおける自警団とは自治体のようなものであるという意味合いが強く、各地の治安をその土地の自警団が守っているため、範囲は軍ほど広くは無い。
加えて、ポケリウムのすべての自警団を合わせると、その戦力規模は軍の数十倍にもなる…そのため、ある程度自由が利く。
フレイはこれを利用して、本格的に調査をしようとしていたのだ。
「…黙って抜けた事は申し訳なく思っている。だが、軍の機能を麻痺させずに事を進めるには、これしかなかった。」
ただ、旧知の仲であるハリーに知らせずに抜けた事は、今でも後悔していたようだ。


その後、フレイは「起きようとしている穏やかじゃない動き」を話してくれた。
それによると…近い日に、このフォートシティに総攻撃を仕掛ける計画を、敵の軍が立てているという。
「この計画には、どうも魔族軍四天王の一角が絡んでるらしい…俺らが掴んだ情報によると、計画の主力部隊は『嵐ノ魔族分隊』だと聞いている。今回、軍にコンタクトを取ったのは、この部隊と戦うための戦線協定を結ぶ為だ。
すでに自警団連合の精鋭達を都市の外に待機させてある。後は、君達が了承してくれるだけなのだが…」
総攻撃を仕掛けようとしているのは、魔族軍四天王の一体の率いる強力な部隊…地ノ魔族分隊を討伐している一行にとって、もはや答えはひとつだった。
「もちろん、了承だよ。この世界は、みんなで守らないとね。」
ハリーが筆頭となって了承の意を示し、一行も頷くことで了承した。
「ありがとうな…奴らは三日目の暁に攻めてくるらしい。そのほとんどが飛行能力を持つ者ばかりだから、おそらく防衛戦となる。…宜しく頼む。」


こうして、リックス達はフレイ達とともに、嵐ノ魔族分隊と戦う事になった。
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白いメタグロス ☆2011.11/04(金)16:51
【第三十五話:フレイの素顔】

話し合いも終わり、いったん解散となった。
一時的にフレイに宛がわれた部屋を案内するため、ハリーはフレイとバートと一緒に部屋を出た。

「あーっ、フレイのお兄ちゃんだー!」
その声をきっかけに、フレイの前にピカチュウやエレキッドなどの小さいポケモン達が集まってきた。
ここのギルドに限らず、ポケリウムの自警団ギルドには必ず孤児院も併設されており、魔族との戦争で両親を亡くした孤児達も同じギルドの敷地内で暮らしている。
「おぉ、久しぶりだな!ははっ、元気そうで何よりだ!」
そんな孤児達を、フレイは各地で元気づけて回っていた。
自警団連合交渉で、フレイはバートとともにポケリウム各地を渡り歩く機会が多いのだが…フレイは孤児達の事を気にかけており、一緒に遊んであげる内にいつしか「お兄ちゃん」と慕われるようになったのである。
「そうら、おみやげだ。ちゃんとみんなで分けるんだぞ。」
そう言ってフレイが取り出したのは、北の大陸の名産品「白雪飴」。
ミルクから作った白くて甘いこの飴は、今となっては全大陸の子供たちに大人気となり、ポケリウムで最も知名度の高いお菓子として表彰されたこともあるらしい。
子供達はフレイに言われた通り、大好きな白雪飴をみんなで仲良く分けあっていた。
「それじゃ、俺はまだ仕事中だからな…今度いっぱい遊ぼうな!」
「うん、約束だよ!」
子供達は名残惜しそうにしてたが、フレイが笑いかけると、安心したようにフレイを見送ってくれた。

「はは、やっぱり子供は可愛いもんだな…それだけに、この戦争は早く終わらせねぇとな。」
子供達と別れてからも、フレイは穏やかな表情をしていたが…そう言い終えると、再び深刻そうな表情になった。
「…フレイ。無理、してないか?」
そんなフレイに、心配そうにハリーが尋ねる。
ハリーは、知っていたのである…フレイの過去の事を。
「…してない、と言えば嘘になるな…何をしても、過去をやり直せないなんて、頭じゃ分かってるが…」

もともとフレイは、南の大陸の北部に位置する小さな集落「ルビー集落」の出身だった。
それまでは地下資源のおかげで小さいながらも比較的平和な集落だったが、魔族が溢れ出てからというもの、この集落はたちまち危険な場所となり、やがて住民は一匹残らず他の集落に移住してしまったのだ。
だが、南の大陸に点在する集落はどこも魔族の危険と隣り合わせで、他の集落を追われた難民を受け入れるだけの余裕は無かった。
そこで軍が介入し、南の大陸に居住施設を建設…故郷を追われて彷徨う難民達のほぼ全員が入居した。
これで一段落ついたと思われたが…彷徨う途中で両親を失った孤児が続出し、無事に入居できた難民達も心の闇まで払われる事は無かった。

「俺が軍を抜けた、一番の理由がそいつだ…何だかんだ言っても、一番傷つくのは子供達だからな。誰かが支えてやらないといけない…だから、その役を買って出たんだ。
なに、心配しなくていい。多少無理してたとしても、あいつらの笑顔を見たら疲れなんか忘れちまうもんだ。それに、こいつだけは忘れちゃ駄目だ。俺らは、そういう幸せを守るために戦ってる、という事をな。」
最後は、自分に言い聞かせているようにも取れた。
フレイもまた孤児であり、そのために孤児となった子供達の気持ちは痛いほど分かっていた…その気持ちが、同じ悲しみをこれ以上増やしてはならないという気持ちが、フレイを突き動かしていたのだ。
そんなフレイに付き添うバートもまた、フレイと同じ気持ちだった。
「そうか…でも、つらい時はいつでも相談してくれよ。友としてしてやれる事が何もないのは、凄くつらい事だから…」
今してやれるのは、そう声をかける事だけ…そんな自分を、ハリーは凄く悔しく思っていた。
「あぁ、そうさせてもらうよ。俺は軍は抜けたが、お前の事は今でも一番の親友だと思ってるし…それ以上に、仲間の大切さもちゃんと分かってるからな。」
そんなハリーの心境に気付いてか、フレイは優しくそう言った。


部屋に向かう途中…クルスの様子を見に行くと言ったハリーに、フレイは現状を話しておきたいと言い、ハリーに同行した。
少し不安げに窓から夕陽を眺めるクルスのいる部屋に、ハリー、フレイ、バートが入ってきた。
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白いメタグロス ★2011.11/06(日)13:05
【第三十六話:黄昏時の決意】

ハリー、フレイ、バートが部屋に入ると…気配に気付いたのか、クルスがこちらに振り向いた。
フレイ達とはこれが初対面なのだが、クルスは不思議と落ち着いている。
「クルス…様子は、どう?」
心配そうにハリーが尋ねる。
「はい…だいぶいいみたいですけど、まだ安静にしてないとダメみたいです。…それより…」
落ち着いているとはいえ、やっぱりクルスはフレイ達が気になって仕方が無かった。
おもむろに、フレイは自己紹介を始めた。
「初めまして、だな…俺はフレイ、こっちのバクフーンは相棒のバート。俺らは南の大陸から来た自警団だ。宜しくな。」
「…初めまして、僕はハリー特殊部隊隊員・クルス。以後、宜しくお願いします。」

自己紹介も済んだところで、さっそく本題に入った。
フレイ達の目的、中間種の事、そして近々、嵐ノ魔族分隊がこちらに攻め込もうとしている事…先ほどの会議で話した事を、フレイはすべて話した。
さすがにこれには…クルスの目に不安がよぎった。
「そんな…!」
立ち上がろうとするクルス…だが、やはり強い頭痛に襲われ、そのままうずくまった。
そんな立てない自分に、クルスは悔しさを覚えるしかなかった。
「クルス…」
クルスを心配するハリー…すると、フレイは自慢のテンガロンハットをおもむろに取ると、俯くクルスにそっと被せた。
「っ!?」
急に目の前が影で暗くなり、はっと見上げると…正面には、穏やかな笑顔を浮かべたフレイの姿があった。
「ぼうず、そいつが何だか知ってるかい?孤児だった俺に生きる勇気をくれた、希望のテンガロンハットさ。この相棒を、しばらくお前に預けとくぜ。
怖くなったら、そいつを頼りな。どんな嵐が来ようが、そいつはお前を絶対裏切らない。お前はひとりじゃないんだ…一緒に、嵐を乗り切ろうぜ。」
フレイの心優しい言葉に、クルスの瞳が涙で滲んだ。
その涙を強引に拭くクルス…次に顔を上げた時には、クルスの表情にもはや不安はなかった。
黄昏に染められながら、クルスは決意を固めた。
「ありがとうございます、フレイさん…僕、絶対に恐怖に負けません。だって、守りたいものがありますから…」
「よく言ってくれたな、ぼうず…お前が守りたいものを守れるのを、心から祈ってるぜ。」

部屋を出たハリー、フレイ、バート…すると、おもむろにフレイがハリーに声をかけた。
「ハリー…自分は何も出来ない奴だとか、思ってないかい?」
そう言われたハリーの表情が強張り、やがてゆっくりと頷いた。
その深刻そうな表情から、それが彼が一番深く悩んでいる事だったのが伺える。
「俺が思うに、な…この世に、何も出来ない奴なんかいないんだよ。みんな、どれだけちっぽけだとしても力を貸し合って、支え合ってるもんだ。お前は、クルスを心配しているんだろ?そうやってあいつを想うだけで、お前はクルスに何かをしてあげられてるじゃないか。
これから、とんでもねぇ連中が来る…それこそ、支え合わねぇと到底太刀打ちできない連中だ。一人ですべてを背負い込もうとするな、ハリー…苦しい時は支え合う、それが仲間ってもんだろ?」
すると…ハリーの頬を一筋の涙が伝った。
無理していたのは、自分の方だった…フレイの暖かくも大切な言葉を受け、知らない間に自分の心を締め付けていた何かから解放されたハリーは、感極まらざるを得なかったのだ。
「…フレイ、ありがとう…結局、無理してたのは僕だったんだね…」
「…ふ、そいつはお互い様ってやつさ。さぁ、元気を出しな、ハリー。もうすぐ、嵐が来る…みんなの幸せのためにも、気合い入れて行こうぜ。」
フレイの激励を受け、涙を拭いて…ハリーもまた、決意を固めた。


これから、嵐ノ魔族分隊がやって来る――そう、すべてを破壊するために。
支え合うという事は、互いに守るべきものを守るために戦うという事…次第に深まる不穏を前に、一行は気を引き締めた。
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白いメタグロス ☆2011.11/09(水)07:07
【第三十七話:魔城 〜White of darkness】

所変わり…ここは闇と闇の入り混じる空間の狭間。
かつて魔族が封印されていた、とされる空間。
…そこに、その城は存在した。

闇の亜空間に浮かんでいるというのに、外壁は白・琥珀色を基調としており…下の部分は半ば崩壊しかけていて、まるで城の中心部だけを強引に引き抜いたかのよう。
紫の稲妻ほとばしる空を駆り、その城に舞い戻った影…その主は、デス・ダークライ。
ハイド・ジョーカーが抽出したティスのDNAコードを刻み込んだ魔水晶を大切に持ちながら、デス・ダークライは城の中へと入って行った。

城内は吸血鬼やデーモンなどの上位魔族が多く存在し、まるでデス・ダークライの帰還に忠誠を誓うかのように、通路の左右の端に一列に並び、敬礼している。
その忠実な部下の顔を見まわしながら、ゆっくり進むデス・ダークライ…やがて、彼は玉座の間に行き着いた。

『…ただいま戻りました、エウス様。』
玉座の魔に着くなり、デス・ダークライは膝をつき、先ほどの上位魔族と同じように敬礼した。
そう…デス・ダークライは、魔族の頂点に立つ者ではなく、頂点に立つ者の右腕にすぎなかったのだ。
そして、彼がエウス様と呼んだ存在が、すっと彼の前に舞い降りた。
まだ13歳くらいの人間の少女のような姿であり、長い髪は淡い白、目は紅色と蒼色のオッドアイ、服装は意外にも法術師を思わせるものであり、背中には白い右翼と黒い左翼を生やしている。
一見すると天使のようだが…その体からは聖気と邪気を同時に放っており、その様子は「白い闇」という言葉の似合うものだった。
『…よく戻ってくれたね、デス・ダークライ。君が手に入れてきたものは、僕達中間種の未来に必要不可欠なもの…ありがとう、君は本当に頼れる存在だよ。』
デス・ダークライから魔水晶を受け取ったエウスは、そう言うと静かに笑みを浮かべた。
…その彼女の口は、確かに中間種という言葉を紡いだ。
『あぁ、そうか…君は知らなかったよね。僕は、中間種の定理として創られた存在なんだ。それまでポケモンと魔族の交わりは一般的ではなかったけど…ポケリウムを創造した女神「ミューテ」に僕が創られた事で、中間種の定理が成立し、ポケリウムに中間種が増えたんだ。
…でもね、この定理はまだ誰の手に負えるものでも無かった。世界をより発展させるために生み出されたのに、当の住民達は中間種を歪な存在としか捉えられず、結果戦乱は起きてしまった。定理そのものである僕は、やがて歪な中間種の頂点に立つ堕天使になった…最終的に、住民達は僕達を魔族とみなし、封印する事で手に負えない定理を闇に葬ったのさ。』

エウス…その正体は、ポケモンと魔族の間に生を受けた「中間種」の存在のシンボル。
すべての中間種を護る存在であるがゆえに中間種達から絶大な支持を受ける一方…中間種という定理を受け入れられない者達にとって、彼女は得体の知れない存在でしかなかった。
『そして…ダークライだけが、僕達中間種を理解してくれた。君に死神の能力を与えたのも、この城にダークライ達を何不自由なく住ませているのも、中間種の理解者だから…君達となら、新しい世界でもうまくやれる気がするんだ。
デス・ダークライ…これからも、期待しているよ。』
その言葉を受け、デス・ダークライは深く頭を下げた。
『さて…このDNAコードはある存在の復活の鍵と成り得るかもしれないもの。このコードの解析は君に任せるよ。僕は、少し野暮用があるからね…』
そう言うと、エウスは翼を少し広げ…デス・ダークライの隣を通り過ぎ、ゆっくりと歩みだした。
後はお任せください、というデス・ダークライの言葉にエウスは頷いたが…言いたい事があったのか、ふと彼のいる方に振り向いた。
『僕達は…これからも「魔族軍」として行動する。僕達は全員中間種だけど、彼の住民たちが僕達を魔族と呼ぶのなら…魔族として、最後まで戦うまでだ。』
デス・ダークライの敬礼を背に…エウスは大きく翼を広げ、何処かへと飛び去って行った。


『ティス…中間種でありながら、彼の者達につくとはね。君の事…調べさせてもらうよ。』
そう口にした彼女は、不敵な笑みを浮かべていた。
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白いメタグロス ★2011.11/09(水)20:06
【第三十八話:嵐の予兆】

翌朝―
さっそく一行は、フレイとともにフォートシティを守るための戦線を張るため、市長の家に向かった。
療養中のクルスだけはこれには参加できなかったが…フレイから預かったテンガロンハットを大切そうに持ち、一行の無事を祈りながら療養に専念していた。

フォートシティは軍などで使われる回復物資や飛行艇、さらには兵器の製造までも手掛ける製造大都市であり、他の街や集落とも産業提携を結んでいる。
魔族軍に狙われたのも、産業分野や流通分野で強い影響力を持っているのが大きな要因である。
そんな大きな都市の市長は、多岐にわたる流通・産業を指揮する司令塔「セントラルタワー」の最上階に、家とほぼ同じ規模の生活スペースを持っている…そう、あまりにも多忙であるため、仕事場で暮らしているのだ。

セントラルタワーを訪れたフレイ達は、軍関係などの機密機構に所属する者達だけが入室を許可される極秘会議室に通された。
それぞれ席に座ると、やがて二匹のエレキブルが入室した。
どうやら兄弟のようで…兄のエレキブルは外交を担当するミハエル、その兄の補佐である弟はラルフ。
それぞれ自己紹介を終えると、まずフレイが状況を伝えた。
「現在、サウス自警団連合勢力・総勢100匹を都市郊外にて待機させている。だが、情報によると敵勢力は500匹を超えるそうだ。そこで、この都市の自警団とも戦線協定を結びたいのだが…」
ラルフが視線を逸らさずに少し警戒しながら聞いている隣で、ミハエルはわざわざ来てくれた事に感謝の意を示した。
「ありがとう…遊撃部隊も参戦してくれて凄く心強いよ。この都市には自警団以外にも、都市独自の実戦部隊を設けているんだ。有志の遊撃部隊、サウス自警団連合、自警団ギルド、フォート実戦部隊…この4隊での戦線となる。ここからの作戦は4隊のリーダーの協議によって展開される事になるが、それで構わないね?」
ミハエルの問いかけに、全員頷いて了承した。
その後、ミハエルに言われ…何故か渋々といった感じで、ラルフはテーブル上にマップを広げた。
「…もう知ってると思うが、この都市は雷鳴山連峰のふもとに位置している。この山には万一に備えて避難エリアを設定しているから、ひとまずそこに一般市民全員を避難させる。その後、フォートシティを要塞モードに切り替え、都市そのものを戦闘最前線にする。…この工程を、奴らが来る前にすべて終わらせなければならない。
とにかく、時間がねぇ。戦線協定を結ぶ以上、ここからの行動は迅速にしてもらう事になるから…そのつもりでいてくれ。」
最後の方は、ラルフは語気を強めた。
どこか高圧的とも取れる言い方だったが、彼の表情は真剣そのもの。
ラルフの言い方に少し違和感を感じながらも、一行は承諾した。

その後…ミハエル、レディウス、キン、ハリー、フレイの5匹だけが今後の方針を話し合うために場に残り、それ以外は一旦解散となった。
通路の壁に背中を預け、天井を見つめるラルフ…そんな彼に、リックスが歩み寄った。
「オレ、リックス。何か大変な事になってきたけど…宜しくな!」
ラルフは一度はリックスを見るも、ふん、と言いながら再び視線を逸らした。
「ふん…そう言ってられんのも今のうちだ。聞けば敵は嵐ノ魔族分隊だそうだな…慣れ合いとかは全部が終わってからにするんだな。」
「…まぁ、気は抜けないよな。んじゃ、頑張ろうぜ。」
冷たくあしらわれた事をリックスは特に気にせず、それだけ言い残して立ち去った。
「…変なヤツ…」
ラルフはそうぼやくと、どこか複雑そうな表情になった。


こうして、フォートシティでは嵐ノ魔族分隊を迎え撃つための準備が…戦線協定を結んだ4部隊を中心に、着々と進み始めた。
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白いメタグロス ★2011.11/16(水)19:36
【第三十九話:雷獣の宣告】

避難訓練が充分に行き届いているのか…住民全員の避難は、その日の夕方までに終わった。
一日目はこれで終了――二日目にフォートシティを要塞モードに変えれば、後は戦闘要員の配置を終えるだけである。

避難させた住民を守る必要があるため、ミハエルとラルフだけが都市に戻り、残りのメンバーは雷鳴山の避難エリアに残る事になった。
今、雷鳴山にいるのは有志の遊撃部隊、サウス自警団連合、自警団ギルド、フォート実戦部隊…その総勢は200匹近く、住民達を守るには充分すぎるほどの戦力が揃っていた。
要塞モードへの移行は夜通し行われるため、都市に配置される戦闘要員の移動は明日となる。
もうすでに日は暮れようとしていたので、全員、それぞれが夕食を摂っていた。

その夜…避難した住民達はそれぞれ宛がわれた簡易テントの中に入り、それらを守るような配置で各部隊がテントを張り、就寝に入った。
その中…寝付けなかったのか、リックスは周囲を起こさないように、そっとテントを出た。
テントを張っている洞穴の出入り口に腰かけ、星だけの夜空を眺めるリックス。
すると…その隣に、今は避難住民と一緒に行動しているクルスが来た。
「クルス…?もう、歩けるのか?」
「うん、何とかね…」
そう返事を返し、夜空を見上げるクルス…これから来る脅威に全く不安が無いわけではないようだが、フレイから預かったテンガロンハットを大切そうに持ち、こみ上げる不安と自分なりに向き合っている。
その、自分から困難と真っ直ぐ向き合おうとしているクルスの姿に、リックスは思わず目を瞠った。
「クルス…強くなったな。」
「そう、かな…でも、もうそんなに怖くないよ。これからきっと、もっと厳しい試練が待ってるかもしれないし…もう、怖がってる暇は無いもんね。」

…その時だった。
空は綺麗に晴れ渡っているにも関わらず、突如として周囲の静寂を貫く稲妻のような轟音…直後、リックス達の目の前に一筋の太い雷が落ち、やがてそれは獣のような姿となった。
それは、ポケリウムで語り継がれる伝説の存在…ライコウ。
青白い電光を身に纏うそのライコウは、静かにリックスとクルスの瞳を見据えた。
『我の名はライコウ…ポケリウムの西方を護る神鳥・サンダー様に仕える者。まもなくこの地を蹂躙するであろう戦いは、汝らの想像を絶するもの…この災禍を、サンダー様は重く見ている。
リックス、そしてクルスよ…汝らはこの災禍を打ち砕き、ポケリウムに再び平穏をもたらす可能性を持っているようだ。
仲間を連れても構わぬ…明日の夜までに、雷鳴山の頂上へ来るのだ。さすれば、サンダー様は汝らに力を貸すだろう…どうするかは汝らに任せる。
我の宣告はここまで…良き判断を、待っているぞ。』

そのプレッシャーのあまり、何も言えないリックスとクルス達の前で…ライコウは再び雷となり、その場を立ち去って行った。
辺りに再び静寂が訪れた時…緊張の糸が切れたかのように、リックスとクルスはへなへなと座り込んだ。
「な、何だったんだ…」
まだ状況が上手く飲み込めないリックス…だが、クルスは平静を取り戻すと、心を決めたように強く頷いた。
「とにかく、明日みんなにこの事を話そうよ。ライコウの言ってる事は嘘とは思えない…というか、行かなきゃならない気がするんだ。僕も、君も、きっとそれだけの運命を背負っているのかもしれないし…ね。」
「…そう、だな。オレもそのためにレディウス達と一緒に行動してるんだし…きっと、分かってくれるよな。」


リックスとクルスは、ライコウの宣告を信じる事にし、それぞれのテントに戻った。
…その様子を、ライコウは再び実体を持ち、離れた場所から見ていた。
『…業、そして可能性か。もとよりポケリウムは遺伝子神ミューテの創造せし箱庭世界…古に生み出されし定理がこたびの騒乱の一因とは、皮肉なものだ。
リックス、クルス、そしてティスよ…西方の雷神様の力を受け継ぐに相応しいか、少し試させてもらうぞ。』
そう言い残し…ライコウは再び雷となり、サンダーの住まう雷鳴山の頂上に戻って行った。


この伝説のポケモンとの出会いによって、運命が大きく動き始めるのだった…
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白いメタグロス ★2011.11/18(金)10:38
【第四十話:旅立ちの朝】

翌朝、午前六時…
避難住民達が眠る中、各部隊のポケモンたちがすでに起床している中…リックスとクルスは、いつものみんなを呼び出した。

二匹のかなり深刻そうな表情…いつもと違うその様子に戸惑いながらも、レディウス、ティス、ルカ、キン、サイヨウ、ハリー、フレア、バート、そしてレディウス・ルカ・キンの部下達が集合した。
全員の集合を確認すると…クルスが、昨日あった事を話した。
昨夜、伝説のポケモンであるライコウと遭遇した事、今日の夜までに、やはり伝説のポケモンであるサンダーの住む雷鳴山の山頂に来るように言われた事…それらを話した上で、行かなければならない気がすると締めくくった。
「ライコウ…ポケリウムの西を護るサンダー直属の部下にして、大地の豊穣を司るホウオウによって創られた三神獣の一体と聞いているが、まさか実在していたとは…」
そう語るサイヨウだったが、やはり驚きを隠しきれない様子…しばらくの沈黙の後、意を決するかのようにレディウスが尋ねた。
「リックス、クルス…やっぱり、行くのよね?」
リックスとクルスの意志は変わらない…彼らは、静かに頷いた。
と、その時…ハリーの通信機に、ラルフからの通信が入った。
フォートシティを要塞モードに切り替えたので、戦力の半分を都市に向かわせてほしいというものだったが…その件の了承と同時に、ハリーはリックス達から聞いた話を伝えた。
『…で、どうするつもりだ?この非常時に、そんな伝説とやらの為に戦力を削るというのか!』
怒号を発するラルフ…冷たく感じられるが、彼の言葉は正論だった。
今は刻一刻と迫る魔族軍への対策に全力を上げる時、その中で嘘か本当かも分からないことに戦力を割くほどの余裕は無い。
すると…ハリーから通信機を受け取ったリックスが、ラルフとの通信を始めた。
「ラルフさん…お願いだ、行かせてくれ。こんな事をしてる場合じゃないのは分かってるけど…でも、これだけは、自分に課せられた運命だけは知っておきたいんだ。
絶対帰ってくるから…頼む、行かせてくれ!」
リックスは、もともと記憶の手掛かりを探すため、軍とともに行動していた。
ライコウの宣告を受けた時…その手掛かりが見つかるのではという確信が、自分の中に芽生えた。
確かに、今は無駄になるかもしれない事に時間を費やしている場合ではない…それが分かっているだけに、リックスは必死だった。
『…都市を守る戦力、住民を守る戦力、山頂を目指す戦力…その三つを、よく考えて選定するよう、ハリーに伝えておけ。
お前の運命だというのなら引き留めはしない…その代わり、絶対生きて帰って来いよ。』
その彼の気持ちが伝わったのか…ラルフは山頂へ向かう事を許可し、通信を切った。
リックスが伝えるまでもなく、近くにいたハリーにはラルフの声が聞こえていた。

その後、ハリーは現在の避難エリアにいるすべての部隊のリーダー格を召集した。
自警団ギルドを統括している♂のレントラー、フォート実戦部隊を束ねる♀のデンリュウを交え、いよいよ戦力配分についての作戦会議が開かれた。
「今、必要な戦力は三つ…要塞モードに移行した都市を防衛する最前線、ここに避難している住民を守る最終防衛ライン、そしてリックス、クルスとともに山頂を目指す戦力だ。」
と説明するハリー…だが、三つ目の戦力を聞いた時点で、レントラーとデンリュウは聞き返さざるを得なかった。
「ラルフにはもう話したけど…こんな時に本当にごめん。オレ、どうしても確かめたいんだ…」
昨夜の事を話した上で、リックスはそう話した。
「…まぁ、許可が出たんならいいんじゃないか?確かめたい事があるんなら、止める訳にはいかないしな。」
「あたいもそれでいいと思うよ。ただ、絶対生きて帰ってくるんだよ。あんたの仲間を裏切る事は絶対許さないからね。」
レントラーとデンリュウは了承し、さらにデンリュウはそう念を押して付け加えた。
「ありがとう…あぁ、約束する!絶対、生きて帰ってくるからな!」

その後の話し合いで、戦力配分は次の通りとなった。
要塞モードとなった都市には、都市構造に精通した実戦部隊と、ブーバーンなどの遠方攻撃を得意とするサウス自警団連合の半分の戦力が位置し、最前線を防衛。
住民達を守る最終防衛ラインは、乱戦慣れしている自警団ギルドと、ゴウカザルなどの接近戦・遠近両用の戦い方のできるサウス自警団連合のもう半分の戦力が死守。
リックス、クルスとともに山頂を目指すのは…リックス達と同じ境遇にあるティス、同行を名乗り出たレディウス、フレイ、キン。
サイヨウとバートは最終防衛ラインに参戦し、ルカ達は全部隊と住民達の救護に徹し、ハリーが最前線と最終防衛ラインの指揮を執る。

戦力配分が決まったところで、都市を守る者達はすぐさま移動を始めた。
サイヨウとバート以外の最終防衛ライン死守メンバー達もそれぞれの配置に付いていく…その中、サイヨウとバートは旅立つ仲間を見送るためにその場に残った。
「嵐ノ魔族分隊に対する戦線は僕達で絶対守り抜く。…道中、気をつけるんだよ。」
山頂へ向かうリックス達に、ハリーはそう声を掛けた。
「ありがとう、ハリー…絶対、帰ってくるからな!」
「隊長…行って参ります。」
そう返すリックスとクルスの決意は、もはや揺るぐ事は無かった。
「どんな真実が待ってたとしても…今のわたしのまま、絶対帰ってくるよ!」
揺るがない気持ちを心に決めたのは、ティスもまた同じだった。
「ハリー、安心して。リックスやクルス、ティスの事は…わたしが絶対守るからね。」
「心配するな、俺らは絶対帰ってくる。…バート、ハリーをしっかりサポートしてくれよ。」
そんな三匹を守る事を誓うレディウス…フレイは相棒に意志を託し、受け取ったバートはしっかりと頷いた。
「僕が出来るのは援護くらいだけど、何があっても絶対守り抜くよ!」
キン達も、もはや気持ちはひとつにまとまっていた。


みんなの激励を背中に受けながら、リックス達は、サンダーとライコウの待つ雷鳴山の山頂に向けて旅立つのだった…
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白いメタグロス ☆2011.11/18(金)19:41
【第四十一話:雷鳴山 〜雷獣の試練】

雷鳴山…乾燥した岩肌ばかりのその山道には草木はほとんど生えておらず、雷でも当たったのだろうか、黒く焦げた部分が道の至るところにあった。
生物の気配もほとんどなく、山道の脇をわずかに流れる水の音だけが、静寂に包まれた周囲に虚しく響いている。

静寂と張り詰めた空気の中…リックス達は、ただひたすら歩き続けていた。
…そんなリックス達の前に、それらは出現した。
ライコウに似た姿を取った、電気だけの体を持った獣…それは生命体ではなく、強大な力によって生み出された式神のようなモノ。
数にして、3匹…それらは電気の弾ける音だけを発し、すぐに襲いかかってきた。
「くっ…ミストボール!」
その群れに対して放たれた、ティスのミストボール…驚くべき事に、命中した電気の獣は一撃で消滅した。
他の2匹の獣もその場を立ち去ってしまい、その呆気なさに一行はただただ驚くばかりだった。
「な、何だったの…?」
「聞いた事があるんだが…ライコウをはじめとした三神獣は、それぞれの持つ膨大なエネルギーの一部から、意志を持った自分の分身を生み出せるそうだ。大方、今のはライコウの放った分身だろうな…」
戸惑うティスをフォローするように、フレイが冷静に分析した。
攻撃…という事は考えにくい。
伝説の存在であるとはいえ、ポケモンがポケモンを襲う事は、このポケリウムでは有り得ない事なのだ。
そうなると、考えられるのはひとつ…ライコウが、リックス達を試そうとしているという可能性だ。
「とにかく…技はあまり使わない方がいいかもね。何度も出てくるのに技を使ったら、いくらPPがあってもキリがないよ。」
キンは真相の事より、そうなる事を一番恐れていた。
技さえ使えば、さっきの分身は簡単に倒せるが…それが何度でも出てくれば、こちらのPPはあっという間に切れてしまう。
つまり…あの分身は、なるべく技を使わずに対処しなければならないのだ。
「ふだんは、どうしても技に依存しがちだから…ここから先は、気を引き締めていく必要がありそうね。」
技を温存しなければならない以上、一撃で倒れる程度の分身でも脅威となりかねない。
状況を改めて思い知ったレディウスの表情は、いつになく緊張していた。

険しい山道で脅威となるのは、ライコウの分身だけではなかった。
天候の不安定な曇り空から時折飛んでくる自然の落雷、高所ゆえに徐々に薄くなる空気、そして至る所にある、踏み外せば一巻の終わりとなる断崖地帯…圧倒的に不利な状況が、リックス達の行く手を遮る。
それはまるで…雷鳴山そのものが、リックス達に試練を与えているようでもあった。

中腹辺りで取った昼休憩も含め、登山は一日がかりとなった。
時刻にして午後三時…要塞と化したフォートシティが遥か彼方に小さく見え、海の水平線さえも見えるほどの所まで、リックス達は登り詰めていた。
頂上まではあと少し…だが、からくも分身たちの猛攻を潜り抜けて来たリックス達だったが、無傷というわけにはいかなかった。
「もう、大丈夫そうね…あさのひざし!」
そんなリックス達を回復させるため、レディウスは自分も含めたチーム全員に対して「あさのひざし」を使った。
わずかに陽光が差し込んだ瞬間を狙ったおかげで、全員の傷が全快したものの…回復量を高めたのと、全体に向けて掛けた事による負担から、「あさのひざし」のPPはあっという間にゼロになってしまった。
「ありがとよ、レディウス…ほら、こいつを使いな。」
そんなレディウスに、フレイがひとつのピーピーマックスを分け与えた。
貴重な薬のため、フレイが持っているのは後二つしかないが…仲間の為を思えば、惜しい物ではない。
苦労して技のPPを温存した甲斐もあってか、リックス達は万全のコンディションで頂上付近に着く事ができた。

改めて前を見ると…まるで城のようにそびえ立つ岩肌の中心に縦向きの巨大な割れ目が走っており、山道は回廊のように割れ目の隙間から向こう側へと通じている。
周囲の雲間にもさっきより多くの雷が絶えず走り回っており、空気も雷鳴山に入った時より最高潮に張り詰めている。
この山道を超えた先が、山頂…サンダーとライコウの待つ神々の領域。
一行は、そう確信した。
「…行くぞ。」
先頭を切ったリックスの言葉に、一行は決意を固め、ゆっくり歩を進めた。


――そして、その先では…雷獣の最後の試練が待っていた。
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白いメタグロス ☆2011.11/24(木)10:38
【第四十二話:雷獣ノ試練】

雷鳴山山頂…城壁のごとき岩肌に囲まれたその場所は、この世のものとも思えない静寂と緊張感に包まれていた。

そんな別世界のような場所に一行が足を踏み入れた瞬間…山道でたびたび出現していたライコウの分身が徒党を組んで現れ、あっという間に一行を包囲した。
その数、ゆうに100匹近く…もはや、逃げ道は完全に塞がれてしまった。

突然の事に戸惑う一行の前に降り立ったのは――紛れもなく、本物のライコウ。
完全に戦闘態勢の構えを取りつつ、雷獣は静かに開口した。
『来たか…業と可能性を持つ者達よ。よくぞ、この雷鳴山を登り切った…本来ならばこの時点で雷神様と引き合わせる所だが、残念ながらそうはいかぬ。
汝らが、過去の業と対等に渡り合うに相応しい器であるか…試させてもらうぞ!』

―先手を切ったライコウは、体に宿る青白い電気を真っ先に放ってきた。
これが、開戦の引き金…からくも電撃を避けた一行は、すぐに戦闘に突入した。
「(今のは、特殊攻撃か…ならば!)行くよ、ひかりのかべ!!」
キンは一行全員に対し、しばらくの間特殊攻撃のダメージを半減させる防壁を張る「ひかりのかべ」を、球状のバリア状態で使った。
この使い方だとPPを5回分消費してしまうが、どんなに激しく動き回ってもそれぞれを守ってくれるため、素早い相手に対しては有効的な使い方である。
「いきなりぶっ放すぜ!オーバーヒートッ!!」
続いて動いたフレイは、いきなり大技であるオーバーヒートに踏み切った。
もともとフレイは物理攻撃主体であるため、特殊攻撃力はさほど高くない…そのため、それをいきなり捨てても問題は無い。
「フレイ、受け取って!」
そのフレイの大技を少しでもサポートすべく、レディウスはフレイに「てだすけ」を使った。
レディウスの援護も含めたフレイのオーバーヒートは、ライコウに命中…したかに思われた。
だが、ライコウは「まもる」を使い、その大技を悉く防いでいた。
『大地の怒りよ、ここへ!アースブレイクッ!!』
大技を防ぎきったライコウの一瞬の隙を縫うように、ティスの地面タイプの魔法…いくつもの岩槍を怒涛の勢いで突き出す「アースブレイク」が決まった。
この魔法は中級なので、下級よりも長い詠唱が必要になるが…ティスは戦闘が始まった時から、気付かれないよう、すでに詠唱を始めていたのだ。
効果抜群の一撃を受けたライコウだったが、すぐに態勢を整えると、稲妻のような壮絶な咆哮を上げた。
このただの一吠えでさえも、一行全員にダメージを与え、怯みあがらせるほどの威力を発揮した。
『どうやら見くびっていたようだな…』
雷獣は…ついに本気を出した。
膨大な電気エネルギーがライコウの体に溜まっていく…そして限界まで溜まり切った時、ライコウの目が赤く光り始めた。

だが…そのライコウの表情が、一瞬だけ動じた。
怯み上がっていたはずのリックス、ティス、クルスが…立っていた。
それだけではない…クルスはエルセオンになっており、ティスの翼も大きくなり、天使の翼のような羽毛を纏っていた。

「行くぜ、ライコウ!―波導、砕央撃ッ!!」
「本気で行く…!聖獣奥義・ホーリークロスッ!!」
「これで決めるよ!イノセントストームッ!!」
リックスの波導砕央撃、クルスのホーリークロス、ティスのイノセントストーム…それぞれに秘められた大技が、一斉に放出された。
大地を砕く蒼い光が、交差するように両翼から放たれた聖なる光が、高まる想いを爆発させた光の嵐が、ライコウに向かっていく…!
『神獣の力、その目に刻め!雷獣奥義・ハザードヴォルトッ!!』
ライコウもまた、溜め切った膨大な電気エネルギーを一気に放出する大技「ハザードヴォルト」を放った!

双方の大技は真っ向からぶつかり合い、互角の押し合いを続けていたが…ついにリックス達の力が押し始め、ライコウは自分の放った大技ごと、その力の渦に飲み込まれた。

高揚が途切れたクルスとティスは、再び元の姿に戻っていた。
一方…エネルギーの衝突によって起きた爆発による砂煙が晴れた時、そこにライコウの姿は無かった。
周囲を囲んでいた分身の群れもいつの間にか消えていた…すると、ライコウを探す一行の目の前に、再びライコウは降り立った。
彼は…ハザードヴォルトが押し負けると判断した時点で、その場から瞬時に離れていたのだ。

身構える一行…だが、ライコウにはもう戦意は無いのか、彼は身構えようとはしなかった。
すると…突然響いた空気の割れるような轟音とともに、ライコウの後ろに雷神と謳われた存在が舞い降りた。
鳥の姿をした、雷の化身のような姿…それはまさに、サンダーそのものだった。
『業と可能性の化身とは、そなた達の事か…その力、しかと見させて貰った。
ライコウよ…彼の者達は過去の業に向き合う力も、覚悟もある。試練は、もうこれでいいのではないか?』
そのサンダーの言葉に、ライコウは静かに頷いた。


こうして、雷獣の試練は終わり…リックス達は、サンダーとのコンタクトに成功した。
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白いメタグロス ☆2011.11/24(木)14:35
【第四十三話:閉ざされた第一の真相】

雷獣の試練の後…ライコウは神獣の力を使い、リックス達の傷を全回復してくれた。
ライコウは…リックス、クルス、ティスが、真相を知っても平静を保っていられるかを心配し、真相を知る道を選んだ3匹に敢えて試練を与えたのだという。
その試練を仲間とともに乗り越えた今、3匹は真相を知るか否かを選ぶ権利を勝ち取っている。
だが、真相を語る前に、サンダーは確かめたい事があるという…意外にも、それはクルスの被っているテンガロンハットについてだった。
『クルス、と言ったな…そなたのその帽子は、見たところ炎神と謳われし存在「ファイヤー」の羽毛から創られているようだが、どこで手に入れたのだ?』
驚くべき事に…フレイから受け取ったテンガロンハットは、ファイヤーの羽毛から出来ているのだという。
すると…戸惑うクルスの代わりに、その質問にフレイが答えた。
「あぁ、そいつは俺が預かったんだ…南の大陸に展開されてる宗教組織「火ノ鳥神団」からな。その教団は昔からファイヤーの意を地上の民に伝えていたそうだが、数年前にファイヤーから「焔の帽子」を創るようにいわれたらしいんだ。
教団の長…ファムザとかいう♂のキュウコンなんだが、急にサウス自警団連合本部に来てな。特別な運命を背負ったイーブイに会ったら渡してほしいとか言って、俺に帽子を預けたんだ。
そいつを被ってると、ファイヤーの闘魂でも宿ったかのように勇気が湧いてくるんだが…元気づけるためにクルスに渡したんだが、どうやら特別なイーブイというのはクルスの事で間違いなさそうだな。」
さきほど一瞬だけエルセオンになったクルスを見ていたフレイは、そう確信していた。
『なるほど…恐らくそれは、あやつの餞別であると同時に、私に3匹を引き合わせるために持たせたものだ。3匹の業と運命には直接関係は無いが、今後それは、あやつに認められた証として使う事が出来るだろう。
クルスよ、それは今後ともそなたが持っていなさい。今から解放するそなたの力も、しばらくはその帽子のおかげで安全に使えるだろうからな。』

その後…サンダーは、3匹に秘められた真相を語り始めた。
それによると、リックス、ティス、クルスの記憶は、失われてしまったのではなく、ポケリウムの神々によって封印されているのだという。
この3匹は前世で罪を犯していたが…その背景にあった状況と罪の重さから、これまでの全ての記憶を封印され、進化している者は進化前の姿に戻され、記憶も知識も無い状態でポケリウムに転生させられる、という刑罰が執行された。
特にクルスは前世はエルセオンとして天上界に住んでいた…進化のきっかけは天上界にしかないため、ポケリウムでは進化出来なかったのである。
『汝らの犯した罪は、残念ながらポケリウムを創造された神・ミューテ様に最も近い存在、ホウオウ様にしか分からない。汝らの記憶もホウオウ様が管理している…よって、私はここで記憶を解放してやる事は出来ない。
だが、汝らの能力は我ら三神鳥が封印の管理をしている。北方を護る凍神・フリーザーはリックスの能力、南方を護る焔神・ファイヤーはティスの能力…そして私は、クルスの能力の封印を守っている。今、私に出来る事は、クルスの能力を解放する事だけだ。』
そこまで言い終えたサンダーは、再びクルスの決意を問いかけた。
その質問に対し…クルスは表情を変えず、しっかりと頷いた。
『そなたの答え…しかと聞き受けた。受け取るがいい、これが…汝が業に向き合う為、封じていたそなたの能力だ!』

直後―サンダーの体から放たれた白い光がクルスの体を包み込み…その光が収まる頃には、もうそこにイーブイとしてのクルスはいなかった。
薄水色の体毛に蒼い双眸、背中に携えた大きな翼に、額に浮かぶ白い十字模様…そこにいたのは、エルセオンとしてのクルスだった。
「クルス…調子は、どう?」
心配そうに尋ねるティス…そんな彼女に、クルスは大丈夫だと答えた。
「何だか、体の奥から物凄い力が湧いてくるのを感じるけど…うん、何とか大丈夫だよ。」
それを聞いて、サンダーとライコウも含め、一同は安堵した。
『焔の帽子があるとはいえ、その力に慣れるのはかなりの時間を要する。…あまり、力に依存しすぎないようにな。』
サンダーの忠告に、クルスはしっかりと頷いた。
『む…サンダー様、北東の方向に気配を感じます。嵐ノ魔族分隊が、こちらに向かってきているようです。』
真っ先にその兆候を読みとったライコウが、現在の主であるサンダーに報告。
時刻はちょうど午後五時ほど…向かってくるという北東は、もう夜の帳が降りていた。
「うそでしょ…あいつら、三日目の暁に来るんじゃ…!?」
突然の出来事に驚くキン…レディウスとフレイも、数時間も早く攻め込んできた敵部隊への警戒心を強めた。
『今、飛行能力を持つのはクルスとティスのみか…リックスよ、そなたは私の背中に乗りなさい。奴らは恐らく、細かく分散して攻めてくるだろう…嵐ノ魔族分隊のリーダー格を討つのは、私と3匹達だ。
ライコウ、そなたはレディウス、フレイ、キンを連れて直ちに下山するのだ。麓で待つ彼らの仲間と合流し、防衛戦線を強化せよ。』
サンダーの指示を受け、ライコウは頷き、了承した。

クルスとティスは飛行態勢をとり、リックスはサンダーの背中に飛び乗った。
そして、サンダーが飛び立ったのを合図にクルスとティスも飛び立ち…彼らは、嵐ノ魔族分隊のいる北東の方角に向かっていった。
『…よし、我々も行動開始だ。』
ライコウを筆頭としたレディウス達も、下山するためにライコウの知っている抜け道を下って行った。


こうして、嵐ノ魔族分隊との戦いが、ついに開始されたのだった。
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白いメタグロス ☆2011.12/12(月)14:28
【第四十四話:嵐の夜、牙剥く刻】

要塞と化した、フォートシティ…敵軍の襲来を告げるアラートがけたたましく鳴り響き始めた時、待機していた戦力は慌ただしく動き始めた。
郊外のはるか彼方の上空に姿を現したのは、嵐ノ魔族分隊の下級兵である飛竜「ワイヴァーン」の軍勢だった。
「ブーバーン砲撃部隊、撃ち方始めッ!!」
リーダー格の号令とともに、前線に立つ20匹ほどのブーバーン達が一斉に砲撃のような遠距離技を撃ち始めた。
放っているのは「かえんほうしゃ」だが…球の形で放っており、それらの弾は命中と同時に爆発するようになっている。
こうする事で、弾の飛距離を伸ばす事ができるのだ。
そのかえんほうしゃ砲弾はいずれも命中し、今はワイヴァーンの進撃は抑えられているが…敵はワイヴァーンだけではなかった。
弾とワイヴァーンの間を軽々とすり抜け、都市への侵入を次々と果たしているのは…ランドクロウと呼ばれる大型のカラスの魔族。
彼らはブーバーン砲撃部隊には目もくれず、都市の機能全てをコントロールする中枢を目指していた。
「させるかよ!ドラゴンクローッ!!」
「喰らいな!10まんボルトッ!!」
そのランドクロウの前に立ちはだかるは…リザードン火竜部隊と、♀のデンリュウを筆頭としたフォート実戦部隊。
こちらは40匹編成であり、さらに実戦部隊は要塞化した都市の各地に配置された様々な仕掛けを駆使し、侵入を果たした魔族に必死に立ち向かっていた。
その戦場を、レディウスの部下のイーブイ達を筆頭とした補給部隊が忙しなく動き回り、各部隊のポケモン達に絶えず回復物資を届けて回っている…この戦線の武運を左右するのは、あとは気力だけだった。

激戦の繰り広げられるフォートシティを案じながらも…サンダーに乗ったリックス、ティス、クルスは、嵐ノ魔族分隊のリーダー格のもとに急いでいた。
部隊のほとんどが都市へ向かっているのだろうか、今の所、敵らしい敵は見当たらない…だが何事もなく進めているというわけでもなく、まるで狙っているかのように飛んでくる風圧と雷が一行の行く手を阻んでいた。
『くっ…この風と雷は、自然のものではない…リーダー格の放っているもののようだな…』
サンダーは、すでに飛んでくる風圧と雷が意図的に放たれているものだと見破っていた。
だが、すでにその事を伝達し合う必要はなくなっていた。
前進するごとに強まる張り詰めた戦慄が、ボス格の魔族が近くにいることを容易に想像させているのだ。
「…やっぱり、リーダーは魔族軍四天王の一体なのかな…」
ティスはそう呟いたが、その推測を立てているのはリックスも同じだった。
地ノ魔族分隊に続き、嵐ノ魔族分隊…加えてここまでの軍勢を束ねるとすれば、四天王かそれ以上の存在としか考えられない。
それに…似ているのだ。
空間ごと震撼させる鋭利に張り詰めた緊迫感と戦慄が、地将ランドアークと対峙した時のそれと、かなり似ているのだ。
「どんな奴が相手だろうが…オレらは負けない、絶対にな!」
リックスの心には一点の迷いもなく、討つべき敵を真正面から見つめている。
その言葉をきっかけに、ティスとクルスは気をさらに引き締めた。

そして…ついに、それと対峙した。
黒と銀色の鈍い光を放つ、暗雲を思わせるとてつもなく長い巨体を持った竜…最初は自身の尾先を咥えて円環の体勢を取ったまま眠っていたが、その竜は一行の姿を確認すると目を赤く輝かせ、尾先を咥えた口を開き、戦闘の構えを取った。
『我の名は…嵐将・ウロボロス。我が同胞たるランドアークを撃ち滅ぼしたのは貴様らか…ふっ、仇を討ちに出向く手間が省けたようだな。』
その竜はウロボロスと名乗り…風と雷の轟音を散らしながら一行を強い眼光で睨みつけた。
『ウロボロスか…やはり、最早かつての頃には戻れぬようだな。中間種たるお前となら、ともに平和を築けると思っていたのだが…運命とは残酷なものだ。』
リックス、ティス、クルスが相手を睨みつける中…サンダーは昔を回想し、こうして対峙する事になった事を悔いるようにしていた。
そのサンダーの様子に、ウロボロスは秘めていた怒りを爆発させた。
『黙れ…ッ!魔族でもポケモンでもない我らに、もはや居場所など無い!無いのならば…奪うまでだ!
このポケリウムは我ら中間種が貰い受ける…!我らから居場所を奪った貴様らなど、この場で捻り潰してくれるわ!!』


嵐ノ魔族分隊のボス格にして、嵐の魔族軍四天王・ウロボロス。
雷鳴のごとき彼の咆哮が響き渡った時、戦闘は開始された。
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白いメタグロス ★2012.01/27(金)07:04
【四天王戦02:嵐空ヲ制ス飛竜ノ帝王】

まず動いたのはウロボロス…いきなり攻撃には入らず、長い巨体でとぐろを巻いて防御の姿勢を取った。
その姿勢こそが、攻防一体を成すウロボロスの常套戦術。
相手の厄介な動きを警戒し、リックス達は間合いを取った。
「くらえ!しんくうはッ!!」
「エアスティング!!」
リックスは闘気を放つ技「しんくうは」、クルスは矢状の空気弾を放つ技「エアスティング」を放った。
だが、その悉くを頭部をガードするようにうねる長い体で防御され…確かに当たったはずなのに、傷一つ付いていなかった。
「そ、そんな…!」
攻撃がまったく効いていない…驚愕するクルスに、ウロボロスは余裕の表情で言い放った。
『ククク…ポケモンの放つ程度の技など、我が魔鋼の体には通じない。頭部を攻撃せぬ限り、我は果てはせぬぞ!』
言い終わらないうちに、ウロボロスは長い体を振り回し、雷撃を大量に放ってきた。
その弾速は非常に速く、全員被弾してしまった。

『聖なる矢よ、彼の者を射抜け!セイントバスターッ!!』
被弾にめげず、ティスは詠唱完了と同時に杖を構え、ウロボロスの後方に向けて12発もの光弾を放った。
それらはすぐに矢のような形になり…前方を防御するあまり後方がガラ空きになっていたウロボロスの頭部に、次々と命中した!
『――そこだ!バーストボルト!!』
不意打ちを食らい、相手の防御姿勢が崩れた一瞬の隙を狙い…サンダーは5発分の10まんボルト「バーストボルト」を放った。
これも頭部を正確に撃ち抜き、ウロボロスは怯んだが…その衝撃で長い巨体がのたうち回り、周囲にいくつもの空気の刃が飛散した。
これもあまりの弾速のために回避できず、全員が被弾…やっとダメージを与え切れたにも関わらず、依然、リックス達の方が不利な状況となっている。
『ここまで、やるとはな…!』
ウロボロスの眼が鈍い銀光を放った次の瞬間…いつの間にか、リックス達は全員、電気の輪のようなものに拘束されていた。
「きゃあっ…く、動けない…ッ」
動きを封じられただけでなく…電気の輪は常に電撃を放っており、リックス達は為すすべもないまま、徐々に体力を削られていた。
『――我が雷撃のもとに散れッ!四天王、奥義…竜帝閃光波ッ!!』
動けないリックス達を狙い、ウロボロスの口から放たれた風と雷と竜の息吹…ウロボロスは、もはや勝利を確信した。

だが…竜帝閃光波は、命中する寸前、何かのバリアのようなもので阻まれた。
『馬鹿な…四天王奥義を、防いだだと…ッ!?』
意識が途切れたのだろうか…リックス達を拘束していた電気の輪はすべて消滅し、リックス達は自由の身となった。
状況を確認すべく、リックス達が目を開けると…目の前にいたのは、黒い翼を生やしたブラッキーのようなポケモンと、それに乗っている剣を腰に提げたキルリア。
そのキルリアの使った技「まもる」によって、竜帝閃光波はかき消されていたのだ。
「み…ミルキー…!?」
そう声を掛けるティス…すると、そのキルリア…ミルキーは振り向き、親指を上に立ててガッツポーズをとった。
「助けに来たよ、ティス、みんな!」
すると、ミルキーを乗せている翼の生えたブラッキーも、軽く自己紹介した。
「あたしはフェンリル、ポケリウム軍の特殊部隊よ。
危ないところだったね…でも、もう大丈夫。ここからは、あたし達に任せて!」

真実の剣を携えたキルリアのミルキーと、翼と幻想的な能力を持ったブラッキーのフェンリル。
2匹はウロボロスの長くうごめく巨体を恐れずにガンガン攻め込んでは、ウロボロスの弱点である頭部に執拗に攻撃を当て続けた。
一見すると攻防一体で死角のないように見えるウロボロスだが…実は遠距離戦に長けている分、接近戦に持ち込まれると滅法弱い。
大体は動作の予測のつかない巨体を警戒して距離を置いてしまうところだが…2匹はそれを逆手にとり、相手に反撃の隙も与えないように猛攻を仕掛けたのだ。
そんな2匹を絞めつけようと、ウロボロスは長い巨体を素早く動かし、2匹を完全に包囲した。
攻撃に徹していた2匹はそれに気付いたが、もう逃げられない…!

『させる…ものか!行くぞ、波導閃光波ッ!!』
そう叫んだリックスを乗せたサンダーは…いつの間にか、ウロボロスの頭上に移動していた。
前にかざされたリックスの両手から放たれたのは、ウロボロスが放った竜帝閃光波によく似た蒼き稲妻。
それは頭部を正確に撃ち抜き…ミルキー達によって相当のダメージを負ったウロボロスに、とどめの一撃を決め込んだ!

断末魔とともに空いた隙間をミルキーを乗せたフェンリルは素早く潜り抜け、決定打を与えたリックスを乗せたサンダーとともにその場から離れた。
一方のウロボロスは…とどめを刺され、まさに消滅しようとしていた。
『ぐっ…我らが軍勢を倒した所で、ポケリウムに真の平和は訪れない…ポケリウムの真実を知り、なおもチカラを振るえるか否か…地獄の底より、見ているぞ…』
それが…嵐将として戦いの空を制したウロボロスの、最期の言葉となった。

ウロボロスが消滅した事で、周囲の暗雲も消え失せ…リックス達は、まるで勝利を祝福するような月光に満ちた雲海の空にいた。
フォートシティに侵攻していた嵐ノ魔族分隊の魔族達も、一体残らず消滅…こうして、熾烈を極めた嵐ノ魔族分隊との激戦は終わりを迎えたのだった。
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白いメタグロス ★2012.01/28(土)13:09
【第四十五話:帰還】

フォートシティ、ひいては西の大陸を震撼させた、嵐ノ魔族分隊の侵攻…そのボスであるウロボロスを討った事で、その脅威は去った。

リックス達は一旦雷鳴山の山頂に戻り、そこでサンダーと別れ、ライコウの案内によって下山した。
そのまま麓の避難エリアに向かわなかったのは…伝説の存在であるサンダーに対する、リックス達なりの配慮だった。
雷鳴山の登山道入り口でライコウとも別れ、避難エリアに帰ってきたリックス達…激闘の末に嵐ノ魔族分隊を退けた彼らを、そこにいたポケモン全員が拍手喝さいで出迎えてくれた。

幸いにも、戦ったポケモン達の負傷はそこまで深くなく、避難していた一般のポケモンともども、全員無事だった。
ただ、敵の部隊は最終防衛ラインを突破しかけたところで消滅してしまったらしく…あと少しウロボロス討伐が遅くなっていたら、どうなっていたか分からなかったらしい。
念のため、安全な状況になったかを確認すべく、レントラーを筆頭とした自警団ギルドのメンバーが下山を始める中…リックス達はレディウス、フレイ、キン、バート、サイヨウ、ハリー、ルカを呼んだ。

クルスがエルセオンになった事はレディウスを通じてすでに周知されていたようだが…戦いの途中で合流したフェンリルとミルキーについて話しておく必要があった。
先に口を開いたのはフェンリル…軍に籍を置いたまま行方不明になった彼女は、心配を掛けてしまった事をずっと気にしていたのだ。
「みんな…心配掛けてごめんなさい。オーディンと一緒に任務に当たってる途中で、変な空間に飛ばされて…帰っては来れたんだけど、オーディンは…」
フェンリルの言っているオーディンとは…♂のブラッキーであり、レディウスの兄だった。
兄妹は幼い頃に両親を亡くし、ポケリウム軍本部の孤児施設で育ったのだが…兄のオーディンは病弱でありながらも、妹のレディウスのために軍に入り、彼が不在中の間は、やはり孤児であるフェンリルがレディウスの面倒を見ていた。
だが、東の大陸にある封印の遺跡調査にオーディンとフェンリルの両方が招集され…それが、最後の別れとなった。
守られる側であったために、何もできなかった…レディウスが軍に入ったのは、そう自分を責めたのがきっかけだった。
「フェイ…ッ」
フェイ…それは以前は何かと一緒にいてくれる事の多かったフェンリルに、レディウスが付けたニックネームだった。
無事とは行かないが、フェンリルが帰ってきてくれた事への喜び…結局何もできなかった事への罪悪感…複雑な感情を抑えきれなくなったレディウスは、ゆっくりフェンリルの元に歩み寄ると、彼女の顔にそっと頬をよせた。
レディウスの涙と、すすり泣く声…フェンリルもまた、再会の喜びと何も言わずに別れる事になった事への後ろめたさで複雑な心境にあり、やはり涙していた。
「ごめんね、レディ…悲しい思いばかりさせて、ほんとにごめんね…」
「ううん…わたしの方こそ、何も出来なくて…」
すると…レディウスはそっと顔を離すと、溢れる涙をぐっと堪えて気丈に微笑んでみせた。
「…おかえりなさい、フェイ。」
以前のレディウスを知っているフェンリルが少し驚いていると、レディウスは涙交じりの満面の笑顔で、そう言った。
「レディ…ただいま…!」
フェンリルも涙を拭いて…満面の笑顔で、そう返した。

その後のフェンリルの話によると…先ほどリックス達と合流した時に自分を軍の特殊部隊だと言ったが、それは行方不明になる最後に所属していた部隊であり、現在は依然行方不明のままで、復帰については後ほど本部と話し合うつもりだという。
そして、背中に生えた黒い翼に関しては…異空間から帰ってくる際に背中に生えていたらしく、なぜ翼を持ったのかはフェンリル自身にもよく分からないらしい。

次に、避難していたはずのミルキーだが…助けてくれたリックス達に何も恩返しできてなかった事を悔いるあまり、真実の剣を持って飛び出そうとしていたという。
途中で同じサーカス団に所属している双子の姉の♀のキルリア・メイプルに無茶をするなと止められたが…妹の固い決心の前に根負けし、メイプルはミルキーを送り出した。
その途中でミルキーはフェンリルと出会い、背中に乗せてもらって空中の決戦に駆け付けたのだという。
「無茶だっていうのは分かってたけど、でも放っておけなくて…」
「ううん、すごく心強かったよ。ありがと、ミルキー。」
どこか後ろめたそうなミルキーに対して、ティスは優しく微笑んでお礼を言った。
ミルキーは少し照れていたが…やっぱり姉に謝りに行きたいと言って、サーカス団のいるところに戻って行った。

その後、安全を知らせる通信がハリーの通信機に入り、リックス達は避難していたポケモン達の誘導を始めた。

…その様子を、少し離れた場所からじっと見つめる存在がいた。
白い闇と呼ぶにふさわしい、聖気と邪気を同時に放つ少女…間違いなく、その存在はエウスだった。
『なるほど、ね…やっぱりあの遺跡には、侵入者を魔空間に飛ばす奇妙な力が働いているのか。あの遺跡の最深部に、別の世界で朽ち果てた魔竜と呼ばれた存在の屍が転移して来ていると聞いているけど…ふふ、それならば間違いないという事だね。
僕の推測が正しければ、その存在はティスのDNAコードさえあれば復活させられる…さて、さっそく屍の回収に向かうとするか。』
エウスは不敵な笑みを浮かべると…封印の遺跡のある東の大陸に向けて、飛び去って行った。
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白いメタグロス ★2012.01/28(土)17:06
【第四十六話:出発】

激戦の嵐を乗り切り、都市モードに戻ったフォートシティ…取り戻した平和を祝う宴は、夜通し行われていた。
こちらも、あれだけの猛攻に晒されていたものの、奇跡的に都市の中枢機能へのダメージはなく、復旧作業はフォートシティ管理局のポケモン達が当たっている。
宴は、不安で精神的に疲弊した一般のポケモン達と必死に戦い抜いたポケモン達への、ささやかな労いだった。

だが、リックス達はその宴に参加している場合ではなかった。
クルスがエルセオンになった事、行方不明になっていたフェンリルが帰ってきた事など…本部に直ちに連絡すべき事が多かったのだ。
時刻にして午後8時頃…リックス、ティス、クルス、レディウス、フェンリル、ルカ、フレイ、バート、キン、ハリー、サイヨウ、ルカ達は、バージョンアップを終えた新しい飛行艇「シルフィオン」内部にある通信ブースに集合していた。
そこにはミハエルとラルフ、シルフィオンプロジェクトを指揮していたマイナン、さらにはメイプルとミルキーの姿もあった。
回線が繋がった後、代表してレディウスが状況を報告しようとして…モニターに映った司令官の顔を見て、思わずあっと声を上げた。
以前は逆光のためによく見えなかったが、今回は夜だったため、室内の灯りで司令官の顔がはっきりと見える。
司令官の事は本部のポケモン達しか知らず、エース級の特殊部隊であるハリーや、本部に行った事のあるフレイでも、見るのは初めてだった。
…その司令官は、ポケリウムにはいるはずのない、人間だったのだ。
キリッとした双眸、整えられた銀髪の、初老の男性…こうして顔を見せたのは、ある理由のためだった。
『すまない、驚かせてしまったな…だが、状況がいよいよ悪くなってきた。ここから先は、任務形態を一から見直さなくてはならないようだ。
私はゲイツ=フロンティア、今は訳あってポケリウム軍の総司令官を務めている者だ。
まず…そちらの現在の状況を、報告してくれ。』
軍の司令官は、人間だった。
その場にいた全員、その事実に戸惑わざるを得なかったが…その中でレディウスは、嵐ノ魔族分隊を討伐した事、ハリー特殊部隊隊員のクルスがエルセオンになった事、行方不明になっていたフェンリルが帰って来た事を、何とか報告した。
『そうか…嵐ノ魔族分隊はかねてから追跡していたのだが、君達が討伐してくれたのか。
フェンリル…君とオーディンには、本当にすまない事をしてしまった。…よく、戻ってきてくれたな。』
そう詫びたゲイツ司令官の表情は…相当の悲しみと罪悪感で溢れていた。
その心情を察してか…返事を返すフェンリルの表情はとても穏やかだった。
「ここまで心配を掛けましたし、謝るのはあたしの方です。
それに、まだ新米だったあたしに、意義ある任務を与えてくださった事…あたしもオーディンも、今でもすごく感謝しているんですよ。」
そう言い終えて、フェンリルはふっと微笑んでみせた。

その後…姿や能力が特殊任務には向かないものに変わったクルスはハリーの部隊から離脱し、今は部隊を持たないフェンリルとともにレディウス遊撃部隊に編成されることになった。
それと、軍に籍のないサイヨウ、ラルフ、ミルキーがレディウス遊撃部隊に参加する事も正式に認められた。
「まぁ、あんたが決めた事だ。やるからには、最後までしっかり頑張りな。それと、たまには便りのひとつでもよこしとくれよ。」
「お姉ちゃん、ありがとう…あたし、頑張るよ!」
姉のメイプルの激励を受け、ミルキーは改めて決意を固めた。
一方のラルフは…彼は構造の複雑なシルフィオンの管理技師として参加する事になったのだが、意外にも誰に言われるでもなく、ラルフ自身から名乗りを上げたのだった。
「兄貴は、フォートシティの事もあるしな…それに、今回の事でいろいろ感じたこともあったし、俺なりに自分を磨きたい、鍛え直したいって思った。兄貴、すまねぇ…不肖な弟の旅立ちを認めてくれ。」
「あぁ、行っておいで、ラルフ。お前には、いろんなものを見て、いろんな事に挑戦してもらいたいって、ずっと思ってたんだ。いろんな経験を積んで、一回りも二回りも大きくなったお前との再会、いつまでも楽しみに待ってるからね。」
ラルフは少し照れていたが…これまで以上に清々しい表情で、兄に旅立ちを誓った。
特殊部隊全員を一度招集する事になったため、ハリーとはここで一旦の別れとなる。
クルスはもう、ハリー特殊部隊の一員ではなくなったが…彼の中では、まだハリー隊長の存在は、あまりにも大きかった。
「ハリー、隊長…僕はまだ、あなたを隊長と呼ばずにはいられませんが…僕はクルスとして、しっかり頑張ります。僕をここまで導いてくださって、ありがとうございました。」
そう言い、クルスは敬礼した。
ハリーも敬礼を返し…今までずっと目をかけていた教え子を優しい目で見つめた。
「クルス…急に君を導いてあげられなくなったのはとても残念な事だけど、君は本当に立派に成長した。これからは、君がみんなを導いていくんだ。この先何があっても、しっかりやっていけるように…離れていても、ずっと祈っているよ。
ありがとう、クルス…君は本当に、最高の教え子だよ。」
クルスも、そしてハリーも…感極まって溢れそうな涙を堪え、清々しい表情で旅立ちの時と向き合った。

…そして、翌朝。
ハリー、ミハエル、メイプルは、マイナンとともにシルフィオンから降り…出航したシルフィオンを、離陸ブースを臨むブリッジ上で見送った。
フレイが率いて来ていた自警団連合は一旦解散となり、別の便で南の大陸に向けて飛び立っていた。
フレイ達やキン遊撃部隊も含めて、すっかり大所帯となったレディウス遊撃部隊。
その後の話し合いの末…南方を護るファイヤー、北方を護るフリーザーのもとに向かい、リックスとティスの能力を解放し、本格的に記憶探しに乗り出すことになった。

…だが、方針が決まった矢先、レディウスの通信機に緊急通信が入った。
レディウスが繋いでみると…通信相手は、何とローレンの村に駐在している、精鋭部隊のリースだった。
「リース…!?どうしたの?」
『レディウス、大変よ!封印の遺跡周辺に、物凄い数の魔族が集まってるの!このままじゃ、また村に攻め入られるかもしれない…今、こっちに合流できそう!?』
その声色から、事態が緊急を要していることがよく分かる。
これからの目的地とは方角も違う場所とはいえ…このまま看過するわけにもいかない。
ローレンの村のリース達への合流に、異を唱える者はいなかった。
「行こう!村のみんなには凄く世話になったもの…放っておけないよ!」
ティスのその言葉がきっかけとなり、全員、ローレンの村を守ることを決意した。
「東の大陸は、ここからかなりの距離があるが…ラルフ、どのくらいで到着できそうか?」
そう懸念するサイヨウに返事を返すラルフは、少しも動揺していない。
「シルフィオンはフォートシティの誇る最新鋭モデルだ。3時間もあればすぐに到着できるぜ。」
親指を上に立て、グーサインを決めてそう言ったラルフ…緊急を要している状況でのその返事は、凄く頼もしく聞こえた。
「リース、よく聞いて!ローレンの村到着までは、3時間かかるの。今からすぐに向かうから、それまで持ち応えて!」
『レディウス、みんな、ありがとう!まだ魔族は攻め込んでくる気配はないけど、何とか頑張るね!』
通信は、そこで切れた。
「よーし…みんな、行こうぜ!」
リックスの号令を引き金に…シルフィオンは東の大陸・ローレンの村に向け、全速力で発進した。

…この時の全員は、知るよしもなかった。
これから戦う相手が、どれほど強大で重要な存在であるのかを。
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白いメタグロス ☆2012.02/10(金)12:15
【第四十七話:希望の可能性】

レディウスの元に、リースからの緊急通信が入る少し前…

レディウス遊撃部隊との通信を終えた総司令官・ゲイツ=フロンティアは、通信ブースを退室し…どこか疲れたように、一息ついた。
「ゲイツ司令官…少し、休まれては?」
そう声を掛けたのは、総司令官の秘書と軍全体の参謀を担う♀のフライゴン。
「あぁ、そうだな…君も徹夜で疲れているだろう。少し休憩しようか、イアハート。」
イアハートと呼ばれたそのフライゴンは軽く一礼し、ゲイツとともに応接間に向かった。

「ゲイツ司令官…あなたがこの世界に来て、もう二十年近くになります。あなたがこの世界にもたらしてくれたもの…夢と希望に満ちたあの産業の事、後悔してはいませんか?」
1人と1匹分のケーキとコーヒーを乗せたテーブルに向き合って座るゲイツとイアハート…コーヒーを一口飲んだ彼女は、カップを両手で持ったまま、どこかさみしそうにそう切り出した。

ゲイツ=フロンティアは…二十年前に別の世界からやってきた、人間。
もともとは人とポケモンと魔法の生きるシャイン地方の生まれであり、人とポケモンがよりよい共生関係を築くための方法を研究していた。
だが…その途中で天から響くような声を聞き、ゲイツは為す術もなくポケリウムの南の大陸、砂漠地帯に飛ばされてきたのだという。
当然ながら、最初はこの世界のポケモン達は、人間という見た事のない存在である彼を警戒した。
そんな彼の最初の理解者がイアハートであり、火ノ鳥神団の一員でもあった彼女のおかげで、ゲイツはようやくこの世界のポケモン達に受け入れられた。

ゲイツはそのお礼にと、夢と希望に満ちた輝ける産業「輝工業(きこうぎょう)」をポケリウムにもたらした。
もともとポケリウムには、ポケモン以外の小動物などを狩る「狩業」、魚介類を捕る「漁業」、作物を育てる「農業」、道具などを作る「軽工業」の4つの産業が存在するが、自然を愛するポケモン達は自然に害を為す事を非常に嫌悪しており、「重工業」などの環境を破壊しかねない産業などが生まれる事は無かった。
だが、ゲイツが研究を重ねていた「輝工業」は、重工業でしか生み出せないものでも作れる上に、環境への害も無い、夢のような産業だった。
もとは魔法を使う時に消費するマナエネルギーを動力源とする産業として開発されたものだが、どういうわけかポケリウムにはマナエネルギーによく似た特殊なエネルギーが無尽蔵に存在しており、最高の稼働条件に恵まれた輝工業は瞬く間に発展した。
その特殊なエネルギーはどうもポケモンが進化する際に必要となるもので、進化の石などのエネルギーとも非常に似ているらしい。
輝工業で生産されるのは、高度な技術を搭載した精密機械や、キズぐすりなどのポケモントレーナーにとってはポピュラーな薬品などであり、さらにポケリウムでは無尽蔵の特殊エネルギーを動力源にして飛行できる飛行艇やテレポート装置など、近未来を彷彿とさせるような夢の代物さえも生み出せるようになった。
当時はまだポケリウム軍という組織は存在せず、ゲイツはポケモン達とともに築いた輝工業研究所の所長を務めていた。
だが、ゲイツがこの世界に来る遥か前に封じられたはずの中間種が復活するという異変により、輝ける希望の工業であったはずの輝工業は軍事的に運用せざるを得なくなり…輝工業の第一人者であるゲイツは、結成されたポケリウム軍の総司令官になる事を余儀なくされたのである。

希望を託していた輝工業が、こうして軍事的に利用される現実…やむを得ない事だとはいえ、ゲイツにとってはとても辛い現実だった。
コーヒーの入ったカップを見つめるゲイツの疲弊しきった表情…そんな彼を、参謀格であるイアハートは精神面で支えていた。
「ゲイツ司令官…いえ、ゲイツ博士。私は、輝工業を初めて目の当たりにした時、何だかとても幸せな気持ちになったんですよ。輝工業を通じて、ポケリウムの未来をみんなで考えていたあの頃も、とても幸せでした。
今は、確かに凄く大変です。でも、私は信じているんです…諦めなければ、きっとまたあの頃に戻れると。輝工業は、きっとまた、ポケリウムを希望の光で満たしてくれるはず。だから…今は軍事的なものだとしても、私は輝工業が間違った産業だったなどとは思いません。
ゲイツ博士…あまり、自分を責めないで。私達は、輝工業は夢と希望で世界を満たしてくれると、信じていますから。」
言い終えると、イアハートは静かに微笑んでみせた。
彼女の言葉を静かに聞いていたゲイツの目が、大きく見開かれ…思いつめていた彼の表情も、いつしか安心したかのような穏やかな微笑みに変わっていた。
「私は…いつしか希望すら失いかけていたらしい。あの頃は君と同様に、私もとても幸せだった。ただの余所者でしかなかった私を暖かく迎え入れてくれた君達への感謝の気持ちを少しずつ形にして恩返しをしていく毎日は、初めて科学者であって良かったと思えたほど、かけがえのないものだった。
今の中間種異変は互いの正義のぶつかり合いだから、どちらが悪いとも言い切れない…だが、そんな難しい問題だからこそ、一人で背負い込まずに、もっと皆を信じるべきだったんだ。
ありがとう、イアハート…私は、もう少しで大切な事を見失うところだった。」
ゲイツ司令官は…ゲイツ博士だった頃の笑顔を、ようやく取り戻した。

『アラート!アラート!
ポケリウム全大陸の遺跡に、多数の魔族軍反応を感知しました!
これより、近隣にいるすべてのポケリウム軍部隊を現場へ向かわせます!
ゲイツ総司令官、全部隊への指示を!』
あの頃の回想が織り成していた幸せなひと時は、その警報の一声で終わってしまった。
ゲイツの表情は、再びゲイツ司令官としての厳しい表情に戻り…イアハートも、表情を引き締めている。
「…今は、目の前の大きな壁に立ち向かう他無い。行くぞ、イアハート。」
「えぇ、行きましょう。」
急変した事態を打破すべく…ゲイツとイアハートは甘い香りと懐かしい思い出に満ち溢れた部屋を出て、冷たく厳しい現実の交錯する指令室へと向かった。

「(ゲイツ…ありがとう。輝工業を日々研究する、夢のようなひと時…凄く、幸せでした。安心して、ゲイツ…あなたは、きっと私がお守りします。)」
指令室に入る手前…イアハートは、その想いを静かに胸に秘めた。
hostname.interq.or.jp
白いメタグロス ★2012.03/01(木)10:25
【第四十八話:再会】

突如として大挙を開始した魔族軍は、ポケリウムの全ての大陸の遺跡に集結した。
だが、彼らは意外にも周囲の集落に襲撃を仕掛ける様子は無く、まるで何かを探しているかのように我先にと遺跡の中に入っていく…彼らの意図が分からない以上、ポケリウム軍に出来る事は限られていた。
ひとつは、万一集落への襲撃が開始されたときに備え、周辺の全集落に部隊を配置して防衛戦線を張っておく事。
もうひとつは、遺跡周辺を取り囲むように部隊を配置し、突入する時機が来るまで待機させておく事。
とにかく、敵の意図が分からない以上、一瞬の油断も許されない。
現在、ポケリウム軍は…現場にせよ、本部にせよ、ただならぬ緊張感で張り詰めていた。

レディウス遊撃部隊を乗せたシルフィオンは、今回はローレンの村の中央広場に着陸した。
さすがに村は厳重警戒態勢にあり、一般住民は全員避難し、地上には村の精鋭と軍の関係者しかいない。
その中には、以前任務を共にした部隊も存在した…そう、魔族軍四天王の一角である地将ランドアークの部隊を共に打ち倒した、シャワーズ♂のフォギア率いる精鋭部隊である。
「フォギア!あなた達も来てたのね…!」
再会するなり、目を輝かせてそう声を掛けるレディウス。
彼の後ろには、フォギアの部下であるイーブイ達、ヌオー♂のリドル、ツボツボ♂のコーケンの姿もあった。
遊撃部隊長であるリドルとコーケンの後ろにも、彼らの部下であるウパー達とツボツボ達がいる。
「レディウスか…元気そうで何よりだ。それより…」
「うぉっ、なんかすげー増えてないか!?」
フォギアが言い終わらないうちに、その驚きの声を上げたのはコーケン。
そう言ってしまうのも無理も無い…何せレディウス遊撃部隊は、いろいろあった末に別の部隊や軍に籍の無かったポケモン達も増え、かなりの大所帯となっているのである。
すると、一度軍を抜けたが、訳あってレディウス達と行動をともにしているフレイが、徐にフォギアの目の前に進み出た。
「よぅ、フォギア。ちょっと見ない間、ずいぶん成長したじゃねえか。」
その言葉は間違いなくフォギアに向けられた…だが、フォギアと親友だったレディウスも、フレイとフォギアに接点がある事は知らないようだった。
「…御無沙汰しています、フレイ教官。貴方が軍を抜けてからも、俺は貴方の教えを守り、精進して来ました。」
そのフォギアの口ぶりから、どうやらフォギアがフレイの教え子である事が分かる。
実際、同期であるレディウス・リース・フォギアの中でもフォギアは一番最初に軍に入っており、レディウスとリースは3カ月遅れで軍に入っていた。
精鋭部隊長に最初に昇格したのもフォギア…その実力の背景には、フレイの教えがあったのだろうか。
「…俺は軍を抜けたんだ、もう教官じゃないさ。それに聞いたが、かなり早い段階で昇格したらしいじゃねえか。少しでも俺のした事が役に立ってるなら、それで十分だ。…強くなったな、フォギア。」
感極まりそうになるのを必死に堪えながら…フォギアは、かつての師に一礼した。

「…で、どういう状況だ?」
自己紹介を軽く済ませた後、落ち着かない様子で辺りを見回しながらラルフがそう尋ねた。
「とりあえず、一通り厳戒態勢を整えたところだよ。封印の遺跡に向かった別働隊からも、まだ異常を知らせるような通信も無い。今、この現場はフォスター村長が指揮を執ってるから、一度彼を訪ねてみたらどうかな?」
そう質問に答えたリドルは、張り詰めているこの場でも落ち着いていた。
彼の言葉通り、現在この場はフォスター村長の指揮で動いており、フォギア達も防衛戦線に参加していた。
さきほどレディウスに緊急通信を寄越したリースは、別働隊として既に封印の遺跡に向かっているという。
すると…レディウス達が訪ねる前に、ドダイトス♂のフォスター村長、秘書を務めるサーナイト♀のレーテが、いつの間にかレディウス達とフォギア達の前にいた。
「久しぶりじゃな…話はリースから聞いておると思うが、魔族の大群が封印の遺跡に集まり始めておる。すでにポケリウム軍の特殊部隊が偵察のために潜入しておるが、魔族の目的はまだ分からないままじゃ。さっそくおぬし達にも突入戦線と防衛戦線の二手に分かれてもらう事になるが…ふむ、初対面のポケモンもおるようじゃな。」

互いに挨拶を済ませると、いよいよ本題に移った。
まず、真っ先に決まったのはレディウスの部隊…この部隊は、緊急通信を送ったリースの部隊に合流する事になった。
そのレディウスとともに封印の遺跡に向かうのは…リックス、ティス、クルス、フェンリル、ミルキー。
防衛戦線に入るのは…サイヨウ、ルカ、ラルフ、フレイ、バート、キン遊撃部隊。
防衛戦線には他にも多くの部隊がいるため、サイヨウ達は彼らと同様、フォスター村長の指揮のもとで活動する事に。
「村長、突入戦線は誰の指揮で動くんだ?」
そう質問するリックス…この場には防衛戦線の部隊しかいないため、そこはレディウスやティス達も気になるところだった。
「今のところ、指揮はリースに任せておる。ほとんどが村の精鋭じゃから知らない顔ぶればかりだと思うが、きっとすぐに馴染めるじゃろう。…じゃが、敵地のすぐ近くじゃ。くれぐれも、気を抜くでないぞ。」

その後…突入戦線のリックス達は、先に現地に向かっている戦線に合流すべく、村を後にした。
防衛戦線にはアイテム管理において優秀な医務部隊もいたおかげで、それぞれ回復アイテムをしっかり充実させている状態。
戦闘不能から全快出来る「げんきのかたまり」もそれぞれ3つあり、その他も「まんたんのくすり」「かいふくのくすり」「なんでもなおし」などの優秀なアイテムが揃っている。
ただし、それでも油断できない状態であることには変わらない。
何があるか分からない敵地への潜入に緊張感を覚えながらも、リックス達はしっかり歩を進めていた。

「…こちらも、準備を始めるとするか。」
一方、防衛戦線でも動きがあった。
まず、その一声とともに動き出したサイヨウ…各部隊への挨拶がてらに、村に敷かれている陣形の特徴の把握を開始した。
今、どんな陣形が敷かれていて、その陣形にはどんな長所や短所があって、自分はその中でどう動けばいいのか…どんな敵が、いつ攻め込んでくるかも分からない状況も相まって、確認しておくべき事は非常に多い。
ラルフ、ルカ、キン、バートも分散して状況確認を進めていく中…フレイだけは、フォギアと共に行動していた。
ちなみにリドル達やコーケン達も別々に動いており、共に行動しているのはフレイとフォギアくらいである。
「俺はもうただの自警団だからな、呼ぶ時は普通に呼び捨てでフレイでいい。敬語も別に使わなくていいぜ。」
「分かりまし…じゃなかった。わ、分かった…ふ…フレイ、さん…」
いくらフレイが軍から抜けた身であるとはいえ、急に呼び捨てのため口というのは、やはり難しい。
少し赤くなったフォギアに対し、フレイはふっと笑みをこぼした。
「ま、出来る範囲でいいけどな。おそらく防衛戦線では、俺もお前も遠方砲撃になると思うが…俺の遠距離技は長続きしない。スペシャルアップとかを使う場面も出てくると思うが、その間はお前の遠距離技に頼るかもしれない。
もちろん、お前がアイテムを使ってる間も俺が援護する。しばらくはその関係で戦おうと思うんだが…協力、頼めるか?」
と申し出るフレイだったが、フォギアにとっても、出す答えはひとつだった。
「もちろんです。フレイさんがアイテム使用中の間は、俺が全力で援護します。」
先ほどの困惑した表情と打って変わって、今のフォギアの表情には一点の曇りもない。
そんなかつての教え子の表情を見て、フレイもどこか安心した表情を浮かべた。
「ふ、ありがとよ。…さぁ、連中はいつ来るか分からねぇ。気合い入れて行こうぜ、フォギア。」
「了解です、フレイさん。」

それぞれ分散しながらも、大切なものを何としても守り抜くという同じ気持ちを持って動き出したポケモン達。
こうして、かつてないほどの激しい戦いの火蓋が…今、切って落とされたのだった。
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白いメタグロス ☆2012.03/09(金)15:39
【第四十九話:因縁の場所へ】

封印の遺跡へと向かうリックス達…その彼らの脳裏には、ここで起きた様々な事がよぎっていた。

「思えば…ここから始まったんだよな。」
そう言ったリックスは、どことなく複雑そうな表情をしていた。
あの頃は、まだ何も知らなかった…ましてや前世の罪の事など、想像がつくはずもない。
いつか記憶を取り戻せると信じ、当時は前向きだったが…ここに来て、記憶が全て戻る事への不安感の方が強くなっていた。
すると…そんなリックスの手を、ティスがそっと握った。
「あのね、リックス…わたしも、記憶が全部戻る事、怖くないわけじゃないよ。でも、仲間が一緒にいてくれるから、きっとこうしていられるんだと思うの。
今でも覚えてるよ、あの夜の事…リックスに会えなかったら、きっと今のわたしはいなかった。怖がらないで、リックス…わたし達がついてるから、ね?」
心を見透かされたような気がしたのか、リックスは少し赤くなっていたが…やがて穏やかな表情になり、ありがとう、と言葉を返した。
「…そういえば、まだ話してなかったね…」
それまで俯いていたクルスが、急にそう切り出した。
「覚えてる?遺跡の最深部で僕と会った時の事…あの時は任務があるからって足早に去っちゃったけど、あれは正確にはハリー元隊長からの頼まれごとで、公的な任務じゃなかったんだ。
封印の遺跡に封印されているのは、リックス達が退治したギガトレントなんかじゃない…封印されているのは、魔界の扉なんだ。それまで友好的だった魔族とポケモンが絶縁して、魔族の方が魔界に帰って…お互いが、ポケリウム側と魔界側から扉を封印した。だから、当時の事を代々記憶する一部の民族の間では「絆が終焉を迎えた場所」とも呼ばれてる。
…だけど、別の場所で封印されていた中間種が再びポケリウムに溢れ出た時に、中間種の手で無理やり魔界の扉がこじ開けられた。これを阻止しようとして突入した多くの部隊が、封印が解かれるときの衝撃で歪な空間に飛ばされ、消息不明になった。…そう、その中に、ハリー元隊長の親友にしてレディウスの実の兄、オーディンの姿もあったんだ。
僕は、消息不明となったみんなを探しに行ってたんだけど、現場に踏み入った瞬間に強い魔界の雷に打たれて気を失ってしまって…同僚イーブイのジャックに助けられて一命は取り留めたけど、結局手掛かりひとつ掴めなかったんだ。」
ここであった事を語るクルスの表情は、とてつもなく重く、とてつもなく悲しそうだった。

後に突入部隊総失踪事件として軍関係者の間で震撼される事となったこの出来事…消息不明となった部隊の数は、当時のポケリウム軍の半分以上にまで上ったのだ。
ほぼ壊滅状態にあった軍は、訓練施設の増設などで何とか勢力を整えたが…消息不明となった者はとうとう一匹も帰ってくる事は無く、それはいまだに軍全体の心の傷として根強く残っている。
クルスとレディウスもそれで大切なものを失い、絶望に情け容赦なく打ちのめされているが…今になって唯一生環したフェンリルもまた、他のみんなを救えなかった事を深く悲しんでいた。
「わたしが軍に入ったのも、その事件がきっかけ…この場所は、長きに渡って因縁深い場所になっているのね。」
そのレディウスの言葉が、全てだったと言える。
もちろん、ポケリウムの民にとって悲しい出来事が起きたのはここ以外にもあるが、当初は最後の希望だったポケリウム軍が壊滅にまで追い込まれたこの場所は、今もなお民の心に深い傷を残している…魔族とポケモンの絆が最後に完全に断たれた時から、この遺跡は民の悲しみとともに時を刻んでいたのだ。
「…ごめん、レディ…みんな助けられずに、あたしだけ」
「…フェイ…それ以上言わないで…ッ」
自分だけ生き残った事を詫びようとしたフェンリルを、レディウスが静かに、だが凄く悲しそうに静止した。
「あれは事故だったのよ…フェイが悪い訳じゃない。兄さんの事も、みんなの事も…誰も、起きた事を責める事なんて出来ないわ。
…ねぇ、フェイ…自分だけ生き残ったなんて言わないで。わたし、フェイが生きて帰ってきてくれた事、凄く嬉しかった…生きてる事に、意味があるのよ。わたしも、みんなも…フェイや、心に傷を負った仲間の支えになりたいって思ってる。だから、お願い…塞ぎ、込まないで…ッ」
そう言ったレディウスは…泣いていた。
フェンリルも…涙を流しながらも、そっとレディウスに寄り添った。
「…ごめんね、レディ…」
「フェイ…ッ」
これが…今のポケリウムの現実。
寄り添い合い、涙を流すレディウスとフェンリルに…リックス達には、掛ける言葉も無かった。
「…終わらせよう、こんな悲しい事…」
ポツリと紡がれたミルキーの言葉に、リックス達とレディウス達が向き直った。
「悲しい現実なんて…終わらせて、変えればいい。そのために、こうして頑張ってるんでしょ?
起きた事や、今の現実は否定はしないよ、けど…だからこそ、今は前に進むべきだよ。運命は、諦めさえしなければ絶対に乗り越えられる…こんな時だからこそ、そう信じて頑張らないと!
終わらせよう、こんな悲しい事…終わらせるために、今は前に進もうよ!」
そう言ったミルキーは…涙を浮かべながらも、現実に向き合う決意をしっかり固めていた。
その様子を見ていた、リックス達やレディウス達の悲しみに濡れた瞳も…しだいに、今の現実を乗り越えるんだという決意の色が戻ってきた。

悲しい現実なんて…終わらせて、変えればいい。
簡単なことのようだが、実際に直面してしまうと、そう気持ちを切り替えるのは、そんな簡単な事ではない。
だが、いつかはそう切り替えなければ、前に進む事は出来ない。
悲しみは、いくら払っても何度でも心の中に込み上げてくる。
リックス達は、その悲しみとも向き合いながら、現実に立ち向かう覚悟を決めたのだ。


そして、覚悟を決めたリックス達は…ついに、先に向かっていたリース遊撃部隊との合流を果たした。
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白いメタグロス ☆2012.03/23(金)10:03
【第五十話:決断】

リックス達が突入部隊と合流した時、辺りは夕闇に染まりかけていた。
指揮を務めるリース精鋭部隊以外の編成は…葉の刃による斬撃を得意とするジュカイン達、圧倒的な素早さによる連続打撃と状態異常を起こす粉を武器に戦うキノガッサ達、サポート技を先制して発動できる能力を持ったエルフーン達など。
ほとんどが草タイプだが、状態異常を高確率で引き起こせるバタフリー達や、素早くも重い一撃を伴った突撃を得意とするペンドラー達など、一部には虫タイプのポケモン達の姿もあった。

「レディウス!それにみんなも…!」
各精鋭班のリーダー達に指示を出し終えたリースは、レディウス達の姿を見た瞬間、目を輝かせてそう言った。
ミルキーは初対面だったため自己紹介したが、フェンリルはリースとは面識があったため、その必要は無かった。
「リース…あたしとオーディンが失踪してから、あなたにも凄く迷惑かけちゃったね。…ごめんね。」
ただ、フェンリルはやはり、その事を謝らずにはいられなかった。
「困った時は、お互い様ですよ。またこうして再会できて凄く嬉しいですし…それに、今は今を頑張らないと!」
そう言ったリースは笑顔だった。
それはフェンリルへの気遣いなのかもしれないが、気遣いだと感じさせないほど、自然な笑顔だった。

リックス達が合流する少し前、敵の間で少し動きがあったらしい。
それまで大群で遺跡の深部を目指していた魔族軍のほぼ全員が入口に戻り始め、リーダー格と思しき魔族だけが単身で遺跡の深部へ再び進み始めたのだ。
入口付近に戦力を集中させ始めた事で、周囲への襲撃を開始する可能性が高くなっている…突入部隊の緊張がいよいよ高まり始めたころに、ちょうどいいタイミングでリックス達が合流できたのである。
「一人になってまで、その魔族が何をしたいのかは分からないけど…嫌な予感がするの。すぐにでも突入して止めたい所だけど、魔族軍の大群の襲撃も防がないといけないし…」
リース達も多くの戦力を揃えているとはいえ…相手は多いだけでなく、そのほとんどが強力な上位魔族。
現状でも厳しい戦闘になりかねない中、部隊を分散させるのはあまりにも無謀すぎる。
「…その一人の魔族ってのも凄く強いんだろうけど…こうなったら、危険承知で少数で乗り込むしかないんじゃないか?」
リックスは魔族軍の大群以上に、単身の魔族が引き起こすかもしれない事態の事を警戒していた。
身の危険が無いとも言い切れないのに、信頼のおける戦力全てを陽動に向かわせた…もし、襲撃を食い止めて優位に立てたとしても、その形勢を完全に覆されてもおかしくない。
この敵の大胆な決断は、無謀にも思えるが、難攻不落の強力なものでもあったのだ。
「編成は慎重にするべきね…どう編成しても、今まで以上に厳しい戦いになりそうね。」
不安そうにそう言うレディウス…ここまで大胆な決断を下した魔族軍はそういないため、それが余計にポケモン達に戦慄をもたらしていた。

慎重な話し合いの末、編成は次のようになった。
敵のリーダー格を食い止める真打ちはリックス、クルス、ティス、ミルキーの4匹。
魔族軍の大群に対しては、まずは突撃のおかげで乱戦に強いペンドラー達が攻撃とともに撹乱し、バタフリー達が飛び交って「しびれごな」によって全ての魔族を、自然に回復することのないマヒ状態にする。
その後にジュカイン達を突入させてペンドラー達と合流し、敵の注意を引いている隙にバタフリー達には「ちょうのまい」を限界まで積ませ、それが完了すると同時に一斉攻撃に転じる。
この戦線でボロボロになりながらも外に出てきた魔族軍を、リース、レディウス、フェンリルを筆頭とした残りの全勢力で討伐するのである。
問題は、上位魔族に対して最初の作戦がどこまで成功するか、そして何よりリックス達が戦う事になるリーダー格の強さが未知数極まりない事。
上位魔族達の討伐に成功した際は当然全ての勢力でリックス達に合流するとはいえ、それが達成できるかどうかも分からない。
だが…もはや躊躇している時間は無い。
どんなに危険だとしても、今はもう、最善を尽くす以外に無かった。
「みんな、くれぐれも無理はしないで。今回の敵の強さはハンパじゃないから…みんなで、協力し合いましょ!」
リースのその掛け声を合図に、いよいよ作戦が開始された。

作戦を実行すべく、突入を開始したリックス達、ペンドラー達、バタフリー達。
次に突入するジュカイン達も持ち場への移動を開始し、最後の砦となるレディウス達も陣形を整え始める。
こうして、これまで以上に危険な作戦は開始されたのだった。
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白いメタグロス ☆2012.04/06(金)10:52
【第五十一話:出撃!紅と蒼の太陽】

封印の遺跡で突入作戦が敢行されている頃…総司令室のオペレートブースは、この緊急事態のために騒然としていた。

室内は少しでも作業をスムーズに行えるように、大型のポケモン100匹でも余裕で入れるほどのかなり広めになっているが、それでも窮屈に感じるほど慌ただしい。
無理もない…魔族の大群が出現しているのは、ポケリウムの全ての大陸の、全ての遺跡群。
範囲が、そして指揮を伝える部隊の数が、あまりにも膨大すぎるのである。

そんな中…総司令部でも幹部クラスのポケモンが業務を行うトップPCブロックで、さっきから画面をずーっと見ていた一匹のウルガモスが、急にわなわなと震え始めた。
隣にいた幹部クラスのポケモン達もそれに気付いたが…彼らが何かを言う前に、そのウルガモスはがたっと急に立ち上がった。
「ぐぬぬ…こうしちゃおれんッ!」
慌ただしいブース内のすべてのポケモン達の作業の手が、急に止まった。
他の幹部クラスのポケモンが指示を出したので、下の層で業務をしていたポケモン達は作業に戻ったが…幹部クラスのポケモン達はウルガモスのもとに一旦集合し、何が「こうしちゃおれん」のか、話し合う事にした。
「シャクネツ、いったいどうしたんだ?」
まず、先ほどポケモン達に作業に戻るよう指示した凛々しいエルレイドがそう尋ねる。
シャクネツと呼ばれたそのウルガモスは、画面を見るよう促し…何があったかを話し始めた。
「よく聞いてくれ…敵の部隊が、急に東の大陸に移動を始めた!わしの推測通り、彼奴らは陽動作戦を仕掛け、何かろくでもない事をしようとしているのだ!」
画面には、ポケリウム軍部隊を示す青い点、魔族軍部隊を示す赤い点がマップ上に表示されており…まるで逃げるように東の大陸に移動する魔族軍と、それを猛追するポケリウム軍の構図が示されていた。
「確かに、奴らの動きは奇妙極まりないが…得体が知れない以上、今はまだ様子見に立ちまわる他n」
「そんな悠長な事をしておる場合か!彼奴らはもう次の段階に動き出した…もはや様子見しておる暇など無い!」
エルレイドは大きく動き出すにはまだ早いと諭すが…点火し、熱血モード全開となったシャクネツには、もはや一分一秒が惜しく感じられた。

「おやおや、これはガモッさん。熱血モード全開ですが、何かあったんですか?」
シャクネツ含めた幹部クラスのポケモン達が振り返ると…そこにいたのは、やはり幹部クラスである一匹の♂のエーフィ。
何やら「こだわりメガネ」を掛けているが…よく見る奇抜なデザインのものではなく、木目模様のフレームがどこか高級感を醸し出している。
「レイザ…どうしたもこうしたも無い。画面を見てくれ。彼奴らめ、大きく動き出したのだ!」
シャクネツに促され、レイザと呼ばれたそのエーフィは画面を見て…やはりそうでしたか、と呟いた。
「何っ、お前も感づいていたのか!?」
「えぇ、事態が始まった段階から、陽動作戦である可能性があると踏んでいました。さて、どうしましょう?あなたはもう、いても立ってもいられないようですが…」
逆にそう聞かれ、シャクネツは歯がゆそうにしていた。
悔しそうな表情のまま、彼は思っている事を口にする。
「出来る事なら、すぐにでもわしの部下とともに乗り込みたいところだが…この現場を預かっている身である以上、放置する訳にはいかん。くそッ、彼奴らはもう動き出したというのに…!」

「では、私とともに出撃と行きましょうか。」
待ってました、と言わんばかりに笑みをこぼしたレイザは、思わぬ言葉を口にした。
「何ッ!?我々はこの現場を預かっているのだぞ…!」
対するシャクネツは動揺していた。
この現場を預かっている身である事を分かっているだけに、その現場から離脱しようというのは許されないと思っていたのだ。
「えぇ、もちろんそんな事は許されません。ですが…これはゲイツ総司令官殿の通達でして。私やガモッさんのように実戦部隊を保有する幹部であれば、直接交戦エリアに出向いてもいいという許可が下りました。」
このオペレートブースの統括を担う幹部クラスのポケモン達は総勢6匹だが…実戦部隊、つまり戦闘要員である部下達を連れているのは、幹部長、シャクネツ、レイザの3匹のみ。
もしこの3匹が抜けたとしても、副幹部長と2匹の幹部の優れた器量なら、問題無く現場を維持する事ができるという訳である。
「さて、もう一度問いましょう。私も、あなたも、『彼奴らはもう動き出した』現場に向かう事が出来ますが…どうします、出撃しますか?」
現場に、出撃する許可が下りた…それを知った上で、改めてレイザにそう尋ねられたシャクネツは、もはや最高潮にまでヒートアップしていた。
「当然だ…わしは出撃する!宜しく頼むぞ、レイザ!」
その答えを受け取ったレイザもまた、最高潮の喜びの表情になった。
「その答えを待ってましたよ、ガモッさん。あなたと私…紅と蒼の「たいようポケモン」コンビなら、超えられない困難はありません!」
他の幹部達も、この事に異議は無いようだった。
「シャクネツ、この現場の事は心配はいらない。現場に赴き、悔いのないよう頑張ってくれ。」
そのエルレイドの静かな激励を受け、シャクネツとレイザはオペレートブースを退室した。

「どうやら、出撃するポケモン達はあなた達で決まりみたいね!」
オペレートブース幹部長にして、ゲイツ総司令官秘書であるフライゴン♀のイアハートは、シャクネツとレイザを笑顔で出迎えた。
それぞれ部下を連れており…シャクネツの後方には10匹のメガヤンマ達、レイザの後方には10匹のエアームド達が控えている。
イアハートも5匹のフライゴンを連れており…レイザ以外は、みんな飛行能力を持っていた。
「さぁて…腕が鳴りますね〜。」
そう言うが早いか、レイザの背中に突如として2対の翼が生えた。
フェンリルもそうだが、ポケリウムには極めて特異な環境に置かれ、いつの間にか翼が生えてしまったというポケモンがわずかながら存在するが…レイザの場合は、自由に翼を出したり引っ込めたりできるようだ。
これで、この戦線のポケモン達は、全員飛行が可能となった。
「よし…敵の部隊は、すべて東の大陸への集結を開始した。我々も、東の大陸に先回りし…彼奴らを迎撃する!この作戦は、皆の協力無しには成り立たん!何としても、彼奴らを食い止めるぞ!」

こうして、ポケリウム中央の上空に浮かぶポケリウム軍本部から…シャクネツ、レイザ、イアハートの緊急特別機動隊が、東の大陸への出撃を開始した。
この出撃判断は、果たして吉と出るのか、それとも凶と出るのか…リックス達の戦いの傍ら、彼らの戦いが始まった。
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白いメタグロス ☆2012.04/16(月)08:49
【第五十二話:禁断の場所へ】

ついに、リックス達は作戦を開始した。
まずはペンドラー達とバタフリー達が突入を開始し…リックスはクルスに、ミルキーはティスに乗り、後に続く。

ペンドラー達のパワフルな突撃で、行く手をはばむ魔族たちは次々と退けられていく。
ティスとクルスは、チーム全員にあらかじめ「しんぴのまもり」をかけていた。
いよいよ肝心の技をしかけるべく、上へ移動したバタフリー達から「しびれごな」が雨のごとく放たれていく…だが、ここで予想外の事態が発生してしまった。
「えっ…しびれごなが、効かない…!?」
その場にいた魔族は、白金でできた体を持つロイヤルゴーレム、影の体を持つ黒馬のようなナイトコーンなどの面々…そのいずれも、しびれごなが一切効かなかったのだ。
「ちっ…こーなりゃ作戦変更だ!俺らが奴ら引き付けるから、お前らは攻撃に当たらないように舞っててくれ!」
リーダー格のペンドラーの指示を受け、こくっと承諾したバタフリー達は…敵の攻撃に警戒しつつ、「ちょうのまい」を積み始めた。
数は相手の方が多いが、ペンドラーの突撃は攻撃しながら移動し続けられるため、今のところは作戦自体に支障はない。
「リックス、お前らが頼りだ!ここは俺らに任せて、お前らは先に進むんだ!」
「おうよ!任せときな!」
ペンドラーの檄を受け、リックスは二つ返事を返した。
激しい攻防が交差する戦場を上手く切り抜け、リックス達は先を急ぐ…。

数日前、魔族調査に来ていたレディウスが落とし穴の罠に掛かった部屋にたどり着いたリックス達は、それ以上は進まなかった。
いや、進めなかったのである。
すでに発動した罠は今もポッカリ開いており、眼下にはとほうも無く広大な遺跡の地底部が広がっている。
部屋の奥には上のフロアへ通じる門があるのだが、奇妙な紋章を浮かべたバリアが門を覆っており、進むどころかバリアに触れることさえもかなわない。
「これ、きっと単身の魔族が張ったバリアだよ。ひとりになっても、あたし達が入って来てもいいように、ちゃんと対策を取っていたんだね…」
剣の柄に手をかけつつも、そうつぶやくミルキーはどこか悔しそうだった。
打つ手、無し…誰もがそういう気持ちになっている中、リックスだけは諦めた表情をしていなかった。
そう、この部屋には来てないものの、脱出の際にレディウスが落とし穴の罠に掛かったことは聞いており、そもそも眼下の地形には見覚えがあった。
「諦めるのはまだ早いぜ。正面の門は通れなくても…こいつから先に行けるだろ?」
と言ってポッカリ開いた穴を指差すリックス。
クルス達は落とし穴の先は行き止まりの密室だと思っていただけに、聞き返さざるをえなかった。
「落とし穴の中から先に進めるのか…?それじゃ、罠の意味が無いじゃないか…」
「そう、そいつがミソなんだよ。レディウスは引っ掛かってしまったけど、あそこで罠に気付いて回避してたら、まさか下からでも先に進めるとは気付かなかっただろ?その単身の魔族とやらも、気付かなかったみたいだしな。」
罠の意味が無いと言うクルスに、リックスはそれがポイントだとどこか自慢げに話す。
もし相手がリックス達を足止めしたいのであれば、先へと続く道は全て閉ざすはず…その穴にはバリアのようなものは一切無かった、となれば気付かなかった可能性は高い。
「…うん、じゃあ行こう。時間もそれほどないもんね。」
クルスは、リックスの言い分に賭ける事にした。
ティスとミルキーも、それに同意…リックス達は、開いた落とし穴の中へと入って行った。

穴の下に広がる広大な地底部に降りたリックス達は、そのままリックスの指差す方向に向け、できる限り高速で飛行して行った。
その道中…リックスは、かつてレディウスとともに歩いた樹の回廊を見ながら、少しだけ回想した。
敵に見つかるかもしれないという緊張ばかりだった当時の道は、今もそれほど変わっていない。
変わったことといえば…すでに敵に気付かれてて、敵の攻撃をひたすら避けながら進んでいる事くらい。
しいて言えば、巨大な昆虫型、植物型の魔族が、前より強そうな姿になっているくらいである。
「(変わってねぇな、ここ…また来ることになるなんてな。)」
クルスは外壁を伝って侵入したのが最初だったので、この面子でこのルートを通過したことがあるのはリックスのみ。
そのため、リックスは誰よりもどこかフクザツな気持ちだった。

やがて、リックス達は…封印の遺跡の最深部に到着した。
以前倒したギガトレントは、リックスの放った巨大な「はどうだん」で撃ち抜かれたまま、ただの朽木となって残っていたが…奥の方には、まだ先に進める道が存在した。
最深部の後ろには本来の出入り口があったが、そこもさっきと同じバリアが張られている。
やはり、もうひとつのルートの存在には気付いていないのかもしれない。
「…僕の記憶が正しければ、この先に魔界の扉があるはずだ。魔界の雷が飛び回ってる危険地帯だけど…もう、迷ってる時間はないよ。」
そう言ったクルスにとって、その魔界の雷はトラウマのはずだったが、もう覚悟を決めたのか、表情は落ち着いていた。
ティスもミルキーも覚悟を決めた…そして、リックスは一歩前に踏み出した。
「よし、行こうぜ!」
そのリックスの一声とともに、一行はギガトレントだった朽木を乗り越え…当たればほぼ即死の恐ろしい魔界の雷が飛び交う危険地帯へと足を踏み入れた。
…これが、地獄のような戦いの始まりとなるのだった。
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白いメタグロス ★2012.04/16(月)09:27
【第五十三話:定理との邂逅】

両方の壁、床、天井がすべて大理石で覆われた狭い通路を進んでいくと…やがて床は崖の上の回廊のような岩場の地形になり、周りは宇宙空間のような星々の広がる不思議空間に変わっていった。
普通に足場を歩くと、それこそ足を踏み外しそうなくらい細い足場だが、リックス達は飛んでいるので問題はなかった。
…だが、それ以上の問題は、空間内を縦横無尽に飛び交う恐るべき「魔界の雷」。
ティスとクルスは当たらないように必死に避け、時には乗っているリックスとミルキーが姿勢を低くしたりもしながら、一行は先へ進んでいた。
「…ねぇ、クルス。あなたはあの時はイーブイだったけど…ひとりで、あの細い回廊を進んでたの?」
そのさなか、ティスはそうクルスに尋ねた。
もし本当にそうだったら…星しかない宇宙空間のような景色ばかりが続き、足場も不安定、追い打ちをかけるような魔界の雷が飛び交うその道は、絶望的な孤独とも闘わなければならないはずである。
「…あの時は、不思議と怖くなかったかな。まだ仲間の大切さとか、そういうのを知らない時期だったし…調査程度なら自分だけでも十分だとか思ってたから。…でも、今はひとりだったら絶対絶望すると思う。やっぱり、あの頃から見ると、少しは僕は変わったのかなぁ…。」
さっきまでのルートを見たのはリックスだけだが、ここからのルートを見たのはクルスと…そのクルスを助けに来た、元同僚イーブイのジャックだけ。
以前と今を比較してそう呟くクルスを見ていたリックスは、自分と同じような事を思っていた彼に、何らかの感情を抱かずにはいられなかった。
「きっと、それが成長ってものなんだね。…状況がどんなに悪くても、そういうのは当たり前のように繰り返されるなんて、何だか皮肉よね…」
ミルキーは現在の荒んだ状況を思い浮かべ、平和であってもそうでなくても、自然の営みは当たり前のように繰り返されている事が、どこか皮肉で釈然としないように感じていた。
そんなもやもやは晴れることなく、一行はついに単身の魔族のもとに辿り着いた。

単身の魔族、その正体は…法術師のような服を身にまとい、白と黒の翼を持ち、聖気と邪気を同時に放つ少女だった。
翼をあまり動かさず、少女は空中にふよふよ浮いている…その圧倒的なオーラに押される一行を見ていた少女は、静かに口を開いた。
『ふふふ…よく来たね。地底ルートを知る者だけなら、きっとここへ来れると思っていた。僕の名はエウス…中間種の定理、エウス=ユグドラシルだ。』
初対面の段階で、エウスと名乗った少女は意味深な苗字まで明かした。
地底ルートの事も知ってて敢えてそこだけ通れるようにしていた事も含め…真意が、まるで読めない。
「お前が、中間種の親玉か…?」
『…ふ、まぁそういう事だね。中間種は、ポケモンと魔族が平和に紡いだ愛情の末に誕生した、平和の表れのような存在…その彼らの存在意義を護るために生まれた僕は、彼ら中間種を心底愛しているんだ。なのに君達は、もとは君達の間に生まれた存在であるはずの中間種を歪にしか感じず、ポケリウムから排除した。これがどういう事か、君達に分かるかい…?』
淡々と語るエウスは、一見すると無表情だが、その声色はどこか悲しげでもあった。
最初に問いかけたリックスも、クルス達も、言い返す言葉が無い…。
『ふふ、でもね…理解されないことなんて、どうでもいい。過去の恨みを晴らすことも含めて、力ずくで理解させればいいだけだからね。僕はもう、世界樹の子なんかじゃない…存在の認められた明るい未来を目指す、歪と見なされた中間種の王だ。今回は別の目的のためにここに来たのだが…我らの積年の恨み、君達の死を以って知らしめてあげるよ…ッ!!』

その直後…エウス=ユグドラシルは、事を為すために戦闘形態に変異した。
白い右翼と黒い左翼は、それぞれふたつに分かれ、彼女の翼は4枚になり…さっきの数十倍も強いオーラを放ち、どこからともなく現れた歪な形の巨大な杖を、彼女はその手に携えた。
『この装備と能力は、中間種の王となった時に身に付けたもの…世界樹の子だった時には無かったものだ。僕ら中間種の明るい未来…誰であろうと、邪魔はさせない…!』

そのエウスの声とともに、戦闘は開始された。
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白いメタグロス ☆2012.04/16(月)08:51
【運命の戦い01:中間種ヲ導ク白夜ノ天使】

嵐将ウロボロスの時と同じく、今回も空中戦となった。
『耐えられるかい…?ナイトシャイニング!』
驚異的な素早さで先手を取ったエウスは、闇と光を混ぜ合わせた矢を乱射する技「ナイトシャイニング」をしかけてきた。
その攻撃には意外といくつか安全地帯があり、それらを難なく避けきった一行だったが、まるで試されてるような気がしてならないものだった。
「こいつで決めるぜ!しんくうはッ!」
「行くぞ…!ホーリーバレット!!」
反撃として、リックスは「しんくうは」を、クルスは光の弾を高速で連射する「ホーリーバレット」を放った。
それらは命中したものの…エウスはそれらを巧みにガードしたため、大したダメージにはならなかった。
「――甘いっ!真実剣秘技、霊刃一閃!!」
そのエウスのガードが解かれる瞬間を巧みに見切り、剣を抜いたミルキーは霊力をこめた剣圧を飛ばす秘技「霊刃一閃」を放った。
真実の剣を使えるからこそ放てる、並みのポケモンでは放てない特殊な技…相手はただのポケモンだと思っていただけに、エウスはこれだけは防げなかった。

『くっ、見くびっていたか…よもや、この賢者の杖を使う時が来るとはね…!』
エウスは歪な巨大杖「賢者の杖」を構えると、ありとあらゆる呪文を高速で唱え始めた。
賢者の杖は、攻撃魔法であれば複数同時に発動させることができる…やがて彼女の呪文に導かれた複数の魔法が、一斉に発動した。
隕石のような炎、巨大な剣のような氷の塊、まるで蛇のようにうねる雷…それらの魔法には安全地帯はほとんどなく、リックス達の体力は半分近く削られてしまった。
それでもなお、とち狂ったかのように彼女の魔法は次から次へと休まずに発動されてくる…このままでは、全滅するのは時間の問題である。
「…もう、これしかない…!」
いちかばちか、ミルキーは「まもる」を発動した。
この技は魔法であっても完全に防げるらしく、とどまる事を知らない怒涛の魔法の嵐も、範囲内だけは何とか防げている。
ミルキーは魔法攻撃が止むまで「まもる」を連続で張り続けることにしたが…当然無限には使えないため、とにかくパワー切れするまでの時間との勝負である。
「行っけぇ―ッ!」
「この攻撃に、すべてを託す…!」
リックスは「しんくうは」を放ち、クルスは鋭いレーザー光線を放つ「インペリアルレイ」をひたすら乱射し続けた。
「リックス、クルス、受け取って!」
それらの攻撃に対し、ティスは全力で「てだすけ」をかけ続ける。
ミルキーの張った障壁の隙間を縫って、一行の精一杯の総攻撃が次々と飛んでいく…そして。
『ッ!!…つ、杖が…破壊、されただと…ッ!?』
満を持して召喚した賢者の杖は…今の総攻撃で、いくつもの破片となって砕け散っていた。
「僕のインペリアルレイは、狙った標的に必ず命中する…悪いけど、その自慢の杖は完全に破壊させてもらったよ。」
そう言い放つクルスだったが…本体ではなく杖の方だけを狙ったとはいえ、それだけで破壊できるとは思ってもいなかった。

『くっ…くくく…あははははッ』
自慢の装備を破壊されたというのに、エウスは何故か笑い始めた。
何がおかしい、と問いかけようとしたリックスだったが…エウスの引きつったような異様な表情と目の色を前に、思わず口をつぐまざるをえなかった。
『さすがだね…さすがは四天王の二体や、ハイドを討伐するだけの事はある…今、とても嬉しいよ…久しぶりに、本気でやっても付いてこれる強敵に出会えたんだものね…ッ!!』
言うが早いか…エウスは4枚の翼を大きく動かし、とてつもない威圧感でリックス達を竦ませた。
動くことすらできないリックス達の目の前で…上空へ移動したエウスは、みるみるチカラを蓄え続け、ついにそのチャージが完了した。

『神の定理に、ひれ伏すがいい…!ワールドエンド・バニッシュ!!』
エウスはなおも哄笑を響かせながら、終焉をもたらす禁断の技「ワールドエンド・バニッシュ」を発動させた。

為すすべのないリックス達の前で、その空間はどこまでも白く、冷たい光に包まれた…
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白いメタグロス ★2012.04/16(月)08:56
【第五十四話:戦禍の夜の始まり】

リックス達の作戦と死闘がくり広げられているその頃…ローレンの村では、封印の遺跡以外の場所から次々と出現した魔族の襲撃が開始されていた。
姿を現したのは…ランタンを持ち、コートだけの姿で浮遊しているオバケ「ボーグル」、骨だけの姿で駆け回る獣「スケルトンビースト」、一つ目を持った火の玉「イーヴルウィスプ」などの、いわゆるアンデッド系の魔族。
驚異的な生命力のために何度倒しても蘇ってくるアンデッド系…戦いは、いきなり苦しい死闘となっていた。
「我が無双拳の前に…砕けぬ敵は無いッ!」
ただ、サイヨウが体得した「無双拳」を用いた攻撃だけは例外なようで、サイヨウが討伐したアンデッド系魔族は蘇ってくる事はなかった。
サイヨウだけは単身なのに、その決定力はまさにサイヨウ無双である。
「よーし!みんな、派手に暴れまわろうぜ!」
コーケン遊撃部隊は…アンデッド系には「どくどく」は効きそうにないと判断したのか、最初からお得意の「ジャイロボール」を使って大暴れしていた。
もちろん一撃で倒すには至らないが、ジャイロボールは鋼タイプの技なので、霊体であるボーグルやイーヴルウィスプにも普通に命中する。
おまけにコーケン達は高速で移動しまくっているため反撃も喰らいにくく、アンデッド系の魔族といえど、そのジャイロボール無双の前では思うように動けなくなっていた。
「旅の商人から、ノリと勢いで買っちゃった銀の剣…!アンデッドには効くはずだーっ!」
「「おぉーっ!!」」
サイヨウの無双拳以外にも、アンデッド系を蘇らせずに倒す手段がある…そう、銀である。
昔からそう言われているだけで原因はまだ分からないが…リドル達は物は試しだと考え、フォギア達との旅の道中で半ば強引に押し売られてしまった「銀の剣」を抜いた。
そのアイテムは形こそは剣でも、まるでハリボテか何かみたいに普通は全然ものを切れない…そんな斬れない剣なのに、何故か目の前のアンデッド系の魔族はスパスパ斬れていた。
しかも、斬れない剣で斬られた相手は、まったく蘇ってくる気配がない…残念ながら「かげぶんしん」で生み出す分身はその剣は持てないので、今回リドル達は計6匹だけで魔族をどんどん斬り倒していた。

「よっしゃー!特攻低いからあんま使えない「かえんほうしゃ」だが、今回ばかりは絶好調だぜ!」
怪物は火に弱いとは誰が言ったのだろうか…リドル達の銀以外にも、アンデッド系はフレイの得意とする火に弱かった。
見た目はまんま炎のイーヴルウィスプにさえも、彼の炎は効果抜群である。
「フレイさん、補給分のヒメリの実です!」
「おぅっ、ありがとよフォギア!万一のために東の大陸中の木の実を集めまくるなんてな…おかげで貴重なピーピーマックスを節約できて助かるぜ!」
フォギアは旅の道中で、有事に備えて自然豊かな東の大陸に豊富に生っている様々な木の実を収穫し、備えていた。
どれも森の守り手であるセレビィに許可を貰って集めたものだが、セレビィ達は平和を取り戻すためならばと気前よく大量に譲ってくれたらしく…しばらくフォギアの飛行艇の倉庫で保管していたそれらの木の実は、今は防衛ラインを守るポケモン達に自由に補給されていた。
「何もかもセレビィ達のおかげですよ。精霊に程近いセレビィ達も、早く平和が訪れることを切に祈ってました。」
「そうか…あいつら、期待してくれてるんだな。よぉーし、だったら何としても、その期待に応えてやろうぜ!」

アンデッド系魔族との戦いが繰り広げられている中…周囲に爆炎を放ちながら、その存在は急に姿を現した。
ダークライによく似ているが、その体は血か地獄の炎のように紅く、本来赤いはずの首飾りは深い闇色に染まっており…その手には、死神が持つような大鎌が携えられている。
それは、リックスとレディウスだけがかろうじて見たことのある存在…デス・ダークライだった。
いち早くその存在に気付いたサイヨウ、リドル、コーケン、ラルフは、デス・ダークライを迎え撃つ姿勢を取った。
『…雑魚どもに興味はない。俺の目的は、封印の遺跡を第二の前線基地にするため、遺跡を管理するこの村を滅ぼす事…ただそれだけだ。言っておくが…生きとし生ける者ごときに、俺は倒せない。貴様らの選べる選択肢はたった二つ…道を開けるか、ここで終わるかだ。』
デス・ダークライのその言葉にも、サイヨウ達はまったく動じず、立ちはだかったまま微動だに動こうとはしない。
その様子を確認したデス・ダークライは、鈍く恐ろしい閃光を放つ大鎌を構えた。
『ふん、死に急ぐとはな…よかろう。生命を滅する我が死の焔、せいぜいその身に刻むがよいッ!!』

そして、ここでも…今、死闘の幕が切って落とされた。
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白いメタグロス ★2012.04/22(日)07:20
【運命の戦い02:業火ト共ニ歩ム者】

『地獄の焔よ、我とともに在れ!』
先手を取ったデス・ダークライは、二つの炎の塊を生み出した。
炎はまるで意志を持っているかのように、デス・ダークライの両サイドに付いた…それは、いわゆるオプション砲。
二つの炎の塊は小さな火炎弾を絶えず撃ち続けている…そのため、サイヨウ達はその弾を避けながら戦わざるをえなくなった。
「こいつでしびれちまいなッ!」
ラルフは様子見で「でんじは」を放ったが…さも当然であるかのように、デス・ダークライには効いていない。
『状態異常か、悪くない手だ…だが、そんな小手先の技など、俺には通用しない…』
「それなら、これはどうかなっ!」
そう言うなり、リドルは銀の剣で斬りかかった。
だが、その一撃も軽いダメージになっただけ…動揺したリドルの一瞬の隙を突き、デス・ダークライは片手でリドルを掴みあげた。
「わぁっ…手が、大きくなってる…!?」
驚くべきことに、デス・ダークライの手は片手でリドルを体ごと掴んで持ち上げられるくらいにまで大きくなっていた。
『残念だったな小僧…俺はアンデッド族ではない。銀さえも効かぬ、アンデッド族をも統べる種…「死神族」だ!』
そう言い放つと、デス・ダークライはリドルを遠くへ放り投げた。
リドルはとっさに受け身をとって態勢を立て直したが…銀の剣も効かない相手に、完全に同様していた。
『つまらんな、この程度と…』
「――無双!ばくれつパンチッ!!」
大きくなった手を元の大きさに戻し、あざ笑っていたデス・ダークライに、霊体だろうと命中するサイヨウの大技が炸裂した。
霊体さえも貫く以上…悪タイプの要素を持つデス・ダークライにとって、格闘タイプの技は効果抜群だった。
『ぐあぁあぁぁッ』
今度は、デス・ダークライの方が後方へ吹っ飛ばされた。
よほど衝撃が激しかったのか、召喚していたオプションの炎の塊までも消滅…状態異常が効かないために「こんらん」状態にまではならなかったが、受けたダメージは相当大きいようだった。

『…我が目的は、この村を破滅させる事…この奥義のもと、村もろとも吹き飛ぶがいいッ!!』
デス・ダークライは、究極奥義を放つため…大鎌を構え、チカラを蓄え始めた。
だが…そのチャージ行動は、攻撃をも兼ね備えていた。
周囲の気温はどんどん上昇し、チャージ中のデス・ダークライの体からは絶えず炎がまき散らされている。
「ちっ…させるかよ!10まんボルト!!」
何としてもチャージを止めるため、ラルフは10まんボルトを放ったが…チャージ中のデス・ダークライには全く効いていない。
サイヨウは再び無双拳を用いた一撃をしかけるべく、デス・ダークライに殴りかかったが…
「ッ!! なん、だと…攻撃をしかけた俺が、逆にダメージを受けた、だと…!?」
デス・ダークライの体は、すでに普通に触ると火傷では済まされないくらいに熱くなっていた。
すぐに離れたのと、無双拳だったおかげで軽いダメージで済まされたが…さすがの無双拳も、今の相手には全く効いていなかった。
「くっ…な…何て暑さだ…ッ」
立っているだけでもつらそうなリドル…気温は、すでにおよそ40℃くらいにまで達していた。
サイヨウ達が為すすべもない前で、デス・ダークライは着実にチャージを進めていた。

『絶望せよ、破滅の焔とともに!ジェノサイド・ブレイズ!!』
ついにデス・ダークライは、チャージした炎エネルギーを一気に解き放つ究極奥義「ジェノサイド・ブレイズ」を繰り出した。
戦いの場は郊外だったので、幸い村に被害は無かったが…その凶悪な破壊力を前に、その場にいた者は敵味方問わず、すでに戦えない、かろうじて虫の息の状態になっていた。
「…つ…強、すぎる…ッ」
リドルは息を切らしながら、凶悪な破壊力を見せつけたデス・ダークライを力なく睨みつけた。
『ふん、所詮はただのポケモンだったか…次のジェノサイド・ブレイズで、村ごと消し飛ばしてくれる!!』

無情にも、デス・ダークライ二度目のチャージは開始されてしまった。
全員戦闘不能になってしまった以上、もはやデス・ダークライを止める者は誰もいない。
誰もが絶望していた、その時…デス・ダークライは、何故かチャージを中断した。
…いや、中断したのではない…何者かの攻撃を受け、中断させられてしまったのである。
『馬鹿な…チャージに入った俺を止めただと…何者だ!?』

「デス・ダークライ、やはり貴様だったか…!わしらがここに来た以上、もう貴様の好きにはさせんぞーッ!!」
真っ先に現れたのは…本部からここへ急行してきたウルガモス♂のシャクネツ。
続いて、翼を生やしたエーフィ♂のレイザと、フライゴン♀のイアハートが現れた…どうやら、デス・ダークライのチャージを止めたのはレイザのサイコキネシスのようだ。
「私が改良を施した「こだわりメガネEX」は、あなたのような上位魔族を想定内に入れて設計しています。まるでミラクルアイという技でも使ったかのように、エスパー技でも悪タイプ相手にダメージを与えられるんですよ。」
どこか得意げなレイザだったが…想定通りに行ったことに内心ほっとしているようだった。
3匹はサイヨウ達の目の前に降り立ち、デス・ダークライに対して身構えた。
上空には3匹の部下のポケモン達が徒党を組んで待機している…もう、デス・ダークライに逃げ道はない。
「我々は、ポケリウム軍総司令部で唯一実戦部隊を保有している幹部…バトルスリーエースが3匹!」
「私達が来たからには、もうあなたの好きにはさせないよ!」
「わしらは本気だ!全力で貴様を成敗してくれるわ!」

互いに身構え、いよいよ戦闘に突入した。
「わしに続けッ!ぬぉりゃあぁぁあぁぁあぁぁッ!!」
真っ先に動いたシャクネツの、ハイパーボイス…ではなく、むしのさざめきが発動した。
彼の太陽のごとき熱い性格が一番反映されやすい「むしのさざめき」は、ほとんど魂の叫びであるものの、あらゆる方向から発する音波を乱反射させるため、受けた相手に外傷のみならず精神的にも大ダメージを期待できる。
結果…デス・ダークライは、完全にシャクネツのペースに押されていた。
『く…小癪な…ッ』
「(上手く行ったか…だが、わしのこの技は時間稼ぎにすぎん。その隙にレイザには「めいそう」、イアハートには「りゅうのまい」を積ませている…頼むぞ、可能な限りの有効打を決めてくれ!)」
シャクネツはひとしきり「むしのさざめき」を掻き鳴らすと、猛スピードで後退…代わりに後ろで積み技を使っていたレイザとイアハートが前に出た。
「私から行くよっ!はぁぁあぁぁあぁぁッ!!」
「りゅうのまい」を最大まで積んだイアハートは、やはりとてつもない素早さだった。
碧の風のごとき動きで瞬時に間合いを詰めるやいなや、5連続もの「ドラゴンクロー」の連携から、「ドラゴンテール」へとつなぎ、吹っ飛んだデス・ダークライに再度接近して「とんぼがえり」をお見舞いした。
「(ふむ…時は満ちたようですね)さぁ、そろそろ決着と行きましょうか!」
「とんぼがえり」の効果で後退したイアハートに続き、今度はレイザが動き始めた。
積み技のために最大威力と化したサイコキネシスが、デス・ダークライの大鎌を弾き落とし、ついにはデス・ダークライ自身の動きを完全に止めた。
むろん拘束だけではなく、とてつもない威力と化したサイコキネシスが、デス・ダークライの体力を削っていく…それが大体成功したのを確認し、レイザは後退し、シャクネツはもう一度前に出た。
「さぁ、今ですガモっさん!貴方の紅き太陽の輝き、その全てに託しますよ!」
「言われなくても分かっておる!…ちょうのまい、最大出力!目標、デス・ダークライ!その身に刻め、わしらの熱き魂!紅陽全開ッ!オ―バ―ヒィィ――トッ!!」
ちょうのまいを極限まで積んだシャクネツの放った、炎系の型破りの大技…オーバーヒート。
全力で解き放ったため、シャクネツの特殊攻撃力は六段階も下がる事となったが…すでに極限まで積んであるため、それも作戦のうちだった。

…だが、デス・ダークライもまだ諦めてはいなかった。
『…図に…乗るなァァアァァアァァッ!!』
驚くべきことに、彼は…オーバーヒートを喰らう直前で、レイザのサイコキネシスによる拘束を打ち破ったのだ。
極限まで出力を高められた大技を前に、デス・ダークライの打った一手は――「まもる」。
威力が上がりすぎていたせいか、その技を使っても無傷とはいかなかったが…デス・ダークライは、持ち応えた。
「ぬぅ…彼奴め、やりおるな…」
『おのれ、油断ならん連中だ…だが、そう簡単には我は死なんぞ!!』
特殊な力で大鎌を引き寄せ、デス・ダークライは再び戦闘態勢を整えた。
シャクネツ達バトルスリーエースも、再び戦闘態勢に入る…その時、デス・ダークライの目が急に大きく見開かれた。
驚くべきことに…何にも動じずに悠々としていたデス・ダークライが、青ざめていた。
『なん、だと…エウス様の身に、何かが…くっ、貴様ら、命拾いしたな…今日のところは、貴様らの命、預けておくぞ!』

その直後…デス・ダークライはテレポートのような術を使い、あっという間に逃げ去ってしまった。
空中に逃げると踏んでいたシャクネツ達の部下たちは、何もできなかったことを悔しく思いながらも、それぞれのリーダーのもとに集まった。

こうして、ローレンの村側の死闘は…敵が途中で逃げたとはいえ、何とか終結。
だが、デス・ダークライが急行している、リックス達がエウスと戦った場所では、いまだに状況が分からないまま。
果たして、彼らは、そしてエウスはどうなったのか…その結末を確かめるべく、デス・ダークライは一心不乱に現場を目指すのだった。
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白いメタグロス ☆2012.04/19(木)10:48
【第五十五話:撤退、そして遭遇】

エウスの放った、白く冷たい裁きの光…ワールドエンド・バニッシュ。
眼下にあった岩場の回廊は跡形もなく消え失せており、そこにはエウスだけが存在し、後は魔界の雷の飛び交う虚ろな空間が残されているだけ…そう、なるはずだった。

『そ、そんな…神の定理が、無力化されただと…!?』
為すすべもなく発動を迎え、辺り一面を白く冷たい光で一掃したはずの「ワールドエンド・バニッシュ」…エウスは、この一撃で決着を着けられると確信していた。
だが…その確信は、完全に覆された。
そう、神の定理と称されるこの禁断の技が、無力化されたのである。

ミルキー、ティス、クルスは…気絶してはいるが、その場にフワフワ漂っていた。
リックス達の周りには青白い結界のようなものが張られており、それがエウスの放ったワールドエンド・バニッシュを完全に防いだ事が分かる。
そして…リックスだけは意識があり、そこに3匹と同様に浮遊していた。
驚くべきことに、彼はルカリオに進化していた。
ルカリオとなったリックスはとてつもなく強いオーラを発しており、翼も無いのに空中に浮かんでいたのだ。
『くっ…オーラが、強すぎる…ッ』
リックスは何をするでもなく、ただ仲間の身を案じながらも、エウスを真っ直ぐ見据えるだけ。
それなのに、エウスは何故か苦しみ始めた。
まるで、リックスから発せられるオーラに気圧されているかのようである。
「…退くんだ、エウス。今のまま俺と戦っても、お前の得るべき物は得られない…」
リックスは反撃に転じる事も無く、エウスに静かに撤退を求めた。
むろん、エウスはそれをすんなりと呑み込むわけにはいかなかったが…それと同時に、精一杯の大技が無力化された上に、ただのオーラだけで自らをここまで追い込んだリックスに、勝算を少したりとも見いだせずにいた。
『…僕は、まだ…退くわけには…ッ』
と、その時…徐々に意識が朦朧とし始めたエウスのもとに、彼女が最も信頼できる従者が駆けつけてきた。

『エウス様!目的の物、確かに取得しました。ここは撤退を!』
エウスが言うよりも早く、ローレンの村から直ちに引き返してきたデス・ダークライが、自分の主にそう促した。
トレードマークである大鎌は今は持っておらず、代わりに竜族の魔物のそれによく似た、骨格だけの何かの死骸を、特殊な力で空中に浮かせて後ろに持っていた。
その骨格は頭部から爪先まですべて揃っており…何故か、ラティオスの骨格によく似たものだった。
『…ありがとう、よくやったよ、デス・ダークライ…そして、確かリックスとかいったよね…何故僕を生かしたのかは分からないけど…次は、こうは行かないからね…』
そこまで言い終えると、エウスは気を失った…気を失いかけていたとはいえ、先ほどのような鬼気迫るほどの壮絶な敵意は、最後の言葉にはほとんど感じられない、リックスにはそんな気がしてならなかった。
デス・ダークライは、ラティオスのそれによく似た竜の骨格をそのまま浮かせたまま…ぐったりと気を失ったエウスを抱き抱え、再びリックスの方に向き直った。
『…その立ち姿、蒼の破壊神によく似ているな…面白い。一度…己の罪すべてと向き合えた貴様と、一戦交えてみたいものだ…』
悔しさを少しも滲ませず、そう意味深な言葉を残すと…竜の骨格を持ち、エウスを抱き抱えたデス・ダークライは転移術を使い、どこかへ去って行った。

それを見届けたリックスは…改めて進化した自分と、助けた仲間達へと向き直った。
正直、リックスには何が起こったのか、いまだに分からないままだった。
気付けば自分はルカリオに進化していて、誰かが張った強力な結界によって、全員なんとか無事だった。
誰かが、助けてくれたのか?
そう思い始めたリックス…と、その時だった。
『…危ないところだったな…エウスの攻撃波長を把握してたから、何とか助けられたよ。』
急に声をかけられ、リックスは声のした方へ向き直った。
そこにいたのは…エウスと同じような雰囲気を持った少女。
あちこちに黄色いアクセントのある深緑を基調とした東洋の仙人のような装束であり、髪色は白でありながら毛先は虹色に色彩が常に変化している。
こちらは翼の代わりに東洋の天女に見られるような薄い羽衣をまとっており、彼女の周りにはいくつかの巻物のような物がふよふよ浮かんでいた。
思わずリックスは身構えたが、少女はそんなリックスをやんわりと制止した。
『あぁ、私は敵ではないから、そう身構える事は無い。申し遅れたが、私はアスラ=ユグドラシル。現在はポケリウムにおける気候と自然摂理を管理している者だが…エウスは、ちょうど私達三姉妹の末っ子なんだ。』

その後の話によれば…やはりリックスの推測通り、アスラは森羅障壁というバリア系の術でリックス達をワールドエンド・バニッシュから守ったのだという。
そして、世界樹には遺伝子神ミューテの配下として、ポケリウムを「輪廻転生」「気候・自然摂理」「混合種族(=中間種)」の三つの要素から管理・維持する役目を担う神子の三姉妹が存在するらしく…今ここにいるアスラは次女、今は中間種側にいるエウスは三女にあたるという。
「…聞かせてくれ。なんで俺達を助けたんだ?」
そう尋ねたのはリックス…ティス達は、まだ気を失ったままである。
『これはミューテ様の意志だ…と言いたいところだが、私自身、君達ポケリウムの民に賭けてみたいという気持ちがあってね。今は信じられないかもしれないが、かつてのポケリウムはポケモンと魔族が平和に暮らす桃源郷だった。だが、その末に生まれた中間種をめぐる戦乱が始まった時、それまでは私達とともにポケリウムを護っていたエウスは、世の流れを受け入れられず、ついには私達も含め、周りすべてに絶望してしまったんだ。』
そこまで言い終えると、アスラは所有しているいくつかの巻物から、金色の古代文字がびっしり書き込まれた白い巻物を取り出し、それをリックスに与えた。
戸惑うリックスに対し、アスラはゆっくりと口を開いた。
『見たところ…リックス、クルス、ティスの記憶はまだ戻っていなくて、クルスの真の能力が解放されたばかり、といったところだね。その巻物には、私の従者であるポケリウムの全ての伝説のポケモンの情報が書き込まれている。字体を今のポケリウムに合わせて編纂してあるから、きっと読めると思う。君達が会うべき伝説のポケモンは、南の大陸のファイヤー、北の大陸のフリーザー、そしてポケリウムに最も近い天界にいるホウオウだが…それ以外の伝説のポケモン達も、今のポケリウムを建て直すための大切な知恵を持っている。
…まぁ、こんな大変な状況だから無理強いはしないが、出来れば君達の記憶と能力に直接かかわりのない伝説のポケモン達にも出会ってほしい。それと、私は普段は東の大陸の北にある森羅の塔にいるのだが、すべての記憶と能力を取り戻した時は、私のいる森羅の塔に来てもらいたい。私と姉も、何としてもエウスを止めたいからな…その時は、君達の力になると約束しよう。』

すると…アスラは羽衣に特殊なチカラを流して浮き上がると、リックス達から少し距離を取った。
「ま、待ってくれ!神子である貴方が、どうしてここまでしてくれるんだ…!」
『そうだな…期待しているから、そして利害が少し一致しているから、かな。その巻物の最後の項に、私達神子三姉妹の事やミューテ様の事が書き記されているから…今後どうするか、それを決めるうえでの参考にしてくれ。
さぁ、そちらの3匹もかなり消耗している。そしてこの空間も、エウスの放ったワールドエンド・バニッシュの影響でじきに消滅するだろう…君達を、封印の遺跡の入口へ転移させよう。どの道を君達が選ぶにせよ…健闘を、祈っているよ。』

そして…アスラは転移術を使い、リックス達を封印の遺跡の入口付近へと転移させた。
直後、ほとんど黒色の中に星々が輝いていたような周囲は一変し、まるで地獄の炎のように紅く染まり始めた。
『やれやれ、間一髪だったようだな。エウスが持って行ったのは、確かシャイン地方魔族異変の主犯格の亡骸だったか…奴がこの地に復活してしまえば厄介だ。数千年ぶりだが、久しぶりに三大神湖の守護精にも動いてもらうことになるかな…』
そう意味深な言葉を残し、アスラは…やがて滅びゆく空間を後にして、自分の住まう森羅の塔へと戻って行った。

ポケリウムの森羅万象を護る、アスラの登場…それは、ポケリウム全土の民が正念場を迎えたことを意味することになるのだった。
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白いメタグロス ☆2012.04/24(火)07:53
【第五十六話:戦いの後】

エウスとデス・ダークライの撤退がきっかけとなり、突然ポケリウム全体を震撼させた魔族軍大挙騒動は終結…その数日後、魔族軍のトップが負傷した為なのか、あれだけポケリウムを脅かしていた魔族軍の姿もぱったり見られなくなった。
それでも、まだまだ油断できない状態ではある。
ポケリウム軍は、今後は魔族軍の動きにも注意しながら、各地の復興に当たる方針を打ち出した。

さて…時はリックス達が、アスラの力によって封印の遺跡の入口に戻った辺りに遡る。
いつまでも戻ってこないペンドラー達を心配したのか、遺跡入口にはレディウス、フェンリル、リースの姿もあった。
帰還と同時に目を覚ましたティス、クルス、ミルキーも含めて…一同がまず驚いたのは、リックスがルカリオに進化している事であった。
「リックス…!?ど、どうしたの…?」
まず、レディウスがそう尋ねた。
「それが、気が付いたら進化してたんだ。その後、アスラとかいう世界樹の神子に会ってさ…これを渡されたんだけど、正直、俺にも何が何だか分からないんだ;」
と言って、アスラから貰った白い巻物を見せるリックスだったが、彼自身も困惑しているのか、後ろ頭を落ち着かなそうに掻いていた。
何かあると後ろ頭を掻くのは彼のクセなのだが、どうやら困ってる時ほどそのクセは出やすいようだ。
とりあえず「原因不明」という事で、それ以上は誰も進化の理由は聞かなかった。
リックスの話に出てきた神子について、リースが口を挟んだ。
「アスラ、か…聞いた事あるよ。深い森に住むセレビィ達から聞いた話だと、ポケリウム独特の自然の掟を定めた神様だった気がするんだけど…。」
確かに、アスラは東の大陸の森羅の塔に住んでいると言っていた。
加えて伝説のポケモンを部下として率いているとも言っていたが…その事と、セレビィから神様と呼ばれているのは、何か関係があるのだろうか。
「自然の掟の神様、かぁ…リックスってば、そんな凄そうなのと会ったんだね。」
と声を掛けたフェンリルは、なぜか羨ましそうで、どこかワクワクしてるかのような表情。
その後のレディウスの補足によると、フェンリルは昔から神話などが好きだったようで、寝る前には子守唄の代わりによく聞かせてもらっていたとか。
「まぁいまだに半信半疑なんだけどな。アスラを含めた世界樹の神子や伝説のポケモンの事は、ぜんぶこれに記されてるって…」
言いかけてリックスは、しまった、と感じた。
けれど時すでに遅し、フェンリルの目は宝石のようにきらきら輝き、白い巻物にくぎ付けになっていた。
「…神話、好きなんだってな。それじゃ、先にフェンリルが一通り目を通しなよ。一応借り物みたいなものだから、汚さないでよ?」
「見させてくれるの?ありがと、大事にするねっ♪」
リックスから巻物を受け取ったフェンリルは、大喜びではしゃいでいた。
会う事さえも叶わない神子の所有物だという点が、神話好きなフェンリルの心を刺激したのかもしれない。
「…あの、喜んでるとこ申し訳ないけどよ…そろそろ事後処理しねぇか?」
そう切り出したのはリーダーのペンドラー、他のペンドラー達やバタフリー達もどこか苦笑していた。
「はっ、ごめんごめん、ひとりではしゃいじゃってたね;うん、早いとこ事後処理始めよっか!」
「…フェイ、張り切る所おかしいって…;」
フェンリルの神話に関するクセを昔から知ってるだけに、レディウスは恥ずかしそうだった。
でも、結果的に皆の苦笑いも笑顔になり、事後処理も思いのほか捗っていた…突発的な事でドン引かせそうになっても結果的に笑いに変えるところが、フェンリルの実はすごい所なのかもしれない。

さて、その事後処理内容とは、次のようなものだった。
まずは、魔族軍が封印の遺跡にもたらした損害状況…遺跡を管理するローレンの村側としては一番把握しておくべき重要点だが、今回はエウスが竜の亡骸を手にすることだけが目的だったのだろうか、意外と損害はほとんど見られなかった。
次に、今回の魔族軍の目的だが…これは奇跡的にリックスが目撃していたので、彼の証言が主な手掛かりとなる事に。
「奴らが目的の物とか言ってたのは、確か…何かの竜の骨格だった。見た感じ、ラティオスの骨格みたいだったけど…ティス、何か心当たりとかない?」
急に振られて、ティスはちょっと驚いた。
「うーん…特に無いよ。もともとわたしは他の夢幻ポケモンとはほとんど話したことないし…記憶も戻ってないから、今は何とも言えないかな…」
リックスは何となくそう聞いただけだと考えていたのか、ティスは落ち着いた様子でそう答えた。
その後の話し合いでも特に何も浮かばなかったので…今回の魔族軍の動向目的は、「竜の屍のような物の捜索・回収」であった、という形でまとめられた。
最後は、現場に突入した部隊の被害状況である。
これもアスラの力のおかげなのか、一番ダメージを負うことになったリックス、ティス、クルス、ミルキーの4匹は完全回復していた。
次に負傷の可能性の高いバタフリー&ペンドラー先発隊は、「しびれごな」が効かないなどのアクシデントがあったものの、ペンドラー達が攪乱に奮闘してくれたおかげで一定のダメージ程度で済んだ。
レディウスやリースの部下のイーブイ達が持っていたアイテムでそのダメージの回復も済ませ…あれほどの未曾有の状況であったにも関わらず、特に異常はなかった。
「ふぅ、こんなところね。さーて、戻ったらさっそく巻物の解析をしないとね♪」
嬉々として前を行くフェンリル…その隣にいるレディウスは、もう突っ込むのも疲れた様子。
危機を乗り越えた事もあってか、みんなどこかほっとした様子で 帰路についていた。


「良かった…皆、無事で何よりだ。」
フォギア達の激励のもと、リックス達突入戦線はローレンの村に辿り着いた。
こちらの防衛戦線は…被害は決して少なくは無かった。
デス・ダークライの放ったジェノサイド・ブレイズの余波はかなり広範囲に及んだらしく、ローレンの村の外壁の大半の外壁は崩壊し、村の畑のほとんどが焼け焦げ、中には家が崩壊した家庭もあった。
村民は全員地下に逃れていたため何とか無事だったが、ローレンの村は長期間の復興作業が必要とされていた。

ここでもリックスが進化した原因は不明とせざるを得なかったが、魔族軍の目的に関しては「竜の骨格捜索」という手がかりが得られた。
「さっそくゲイツ司令官に報告したら、次の手を打たなきゃね…あなた達は、どうする?」
そうイアハートが尋ねたのは、レイザとシャクネツだった。
もともとの3匹の目的は達成されており、イアハートは総司令官秘書という立場上、本部に戻る必要があった…レイザとシャクネツも、本来なら本部に戻るところである。
「そうですねぇ…ガモっさん、あなたはどうです?」
「…わしは、こんなにめちゃくちゃにされた村を放って行く事はしたくない。だが、本部でも果たすべき責任があるからな…」
シャクネツは、葛藤していた。
自分は本部をまとめる幹部であるという責任感が、かえってシャクネツを思い悩ませている…すると、レイザはある提案を出した。
「本部の方は、私の方で少しは融通を利かせられますよ。それに、現場をきちんと元通りにするまでが任務だ、という考えは私も同感ですし…私もお手伝いしますから、村の復興、一緒に頑張りましょう。」
そのレイザの思いやりのある言葉に、シャクネツは感極まって流しそうになった涙をこらえた。
「…レイザ、シャクネツ、ほんとにごめんね。本当は、私も協力したいんだけど…」
立場上戻らなければならないからこそ、イアハートはとても心が痛く感じてならなかった。
そんな申し訳なさそうなイアハートにも、レイザは同様に接した。
「その気持ちだけで充分嬉しいですよ。それに、貴方には総司令官秘書という、貴方にしかできない大切な勤めがあります。我々は我々の、そして貴方は貴方のそれぞれの場所で…お互い、頑張りましょう。」
心の痛むイアハートを気遣うその言葉は、イアハートの心を優しく癒した。

「ボクらも協力するよ!困った時は、お互い様だもんね。」
「オレ達も協力するぜ!何でも言ってくれよ!」
リドル達とコーケン達も、村の復興への協力を名乗り出た。
大所帯となったレディウス遊撃部隊のみんなも…リックス達の記憶探しは一旦中断して、村の復興作業を手伝うことにした。

…そして、冒頭の状況に至る。
急に魔族軍がぱったり現れなくなった事もあり、復興作業も順調に進んでいた。
これまで戦闘続きだったリックス達にとっては、ようやく少し落ち着ける状態になったのであった。
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白いメタグロス ★2012.04/30(月)06:51
【第五十七話:思い出の緑龍滝】

ローレンの村の復興作業は今日も行われていたが、フォスター村長は戦い続きだった皆を気遣い、日が少し西に傾くくらいの午後三時以降は休むようにと声を掛けていた。

午後三時を迎え、各自それぞれ休んでいる中…フォギアはただ一匹、村のはずれの西の森を流れる川の上流にある「緑龍滝」に来ていた。
この滝は昔から聖なる場所とされており、滝から発散される特殊なイオンは精神的な疲労に効果がある他、また頑張ろうという再起の気持ちを引き起こさせてくれるパワースポットのひとつとして有名だった。
滝壺は意外とそれほど深くなく、滝も広く優しく降り注いでいるため、以前はローレンの村の子供たちの遊び場としても賑わったらしい。

フォギアは滝壺の水面を泳いで渡り、滝の裏にある岩場に登った。
滝の裏には…残念ながら洞窟は無く、岩場の壁があるだけ。
だが、滝から発せられるイオンを最も多く浴びる事のできるとっておきの場所であり、フォギアはただ静かに目を閉じ、気持ちよさそうにイオンを浴びていた。
「…ふっ、変わらないな、ここの水質は。どこよりも気持ちよく感じるのは、懐かしいからだろうな…」
「あはは、そうだねっ。あんたのその渋〜いカオも全然変わってないもんねっ♪」
ふとフォギアが目を開けると、いつの間にか隣にリースがいた。
ハトが豆鉄砲でもくらったかのような表情になってるフォギアを見て、リースはちょっといたずらっぽく微笑んでいる。
フォギアはだんだん、恥ずかしさと少しの呆れの混じった複雑そうな表情になった。
「…お前の減らず口もちっとも変わってないな…」
「え〜だって、ひとつしかないんだから減ったら困るでしょ?…あ、照れてる?」
もうフォギアは、リースのペースに押されていた。
その問いかけに、今なら「ねっとう」という技も使えるんじゃないかというほど、フォギアは蒸気を上げて赤面した。
その様子に、リースはとうとう笑い出した。
「もう好きにしてくれ…」
「あっははっ、ごめんごめん!なんか、こーやって話すのも久しぶりだなーって思って、つい…」
こうやって話すのも久しぶり…その言葉を聞いた途端、フォギアは表情を戻し、まるで思い出に浸るかのように目を閉じた。
リースの方も、言い終わると同時に笑うのをやめ、どこか穏やかな表情になった。
「ねぇ、フォギア…しばらく、一緒にいてもいい?」
「あぁ、別に構わない。こうして話す機会も、そう多くないからな…」

そして、フォギアとリースはしばらくの間、流れる滝越しに見える滝壺と森の木漏れ日を一緒に眺めていた。
彼らがこうして感慨にふけるのも無理もない…何故ならここは、フォギアとリースが初めて出会った場所なのだ。

当時、フォギアの暮らしていた東の大陸の西端にあるエリーゼ港街は、ローレンの村とはまるで親戚のように良好な友好関係にあり、バケーション(長期休暇)を利用してローレンの村に旅行に出かける住民も珍しくは無かった。

フォギアも夏場のバケーションで、両親とともにローレンの村にいる親戚のところに里帰りしていたのだが…たまたま一匹で緑龍滝に行っていた時に、地元の子供であるリースと出会ったのである。
滝壺で冷やしていた夏野菜を取りに来ていたリースをフォギアが手伝ったことでお互いに友達になり、バケーションの終わりごろにはリースとフォギアの両方の家族も加わり、バケーションの終わりは最高の思い出で締めくくられた。

その後もしばらく文通は続いていたが、ある時を境に交流はぱったりと途絶え…その後の2匹は、19歳くらいになった数年後にポケリウム軍隊員見習いとしてようやく再開したのだった。
「あの時はすまなかった…仕事の跡継ぎの事で少し揉めてたんだ。俺は写真家になりたかったのに、両親は漁師を継げの一点張りで、毎日言い争いが続いていた。それでも、文通をぱったり断ってしまって…その事を詫びるのも、今日まで先延ばしになってしまって、本当にすまない…」
そう言ったフォギアの表情は深刻で、自分に対する罪悪感があった。
すると…そんな様子を見ていたリースが、ゆっくりと首を横に振った。
「そんなの、全然気にしてないよ。家の事情はそれぞれ違うんだし、それで責めるなんて間違ってる。それよりもね…あんたが元気だったって事が、あたし、凄く嬉しかったの。だからほら、自分を責めないで。ね?」
リースは太陽のように元気で、木漏れ日のように優しい笑顔で、そう言った。
フォギアの頬を、ひとすじの涙が伝う…泣きそうになるのをぐっと堪えると、フォギアもまた、静かな水面のような穏やかな笑顔で返事を返した。
「それにしても、奇遇だね〜。あたしもフォートシティに出てアイドルになるーって言ったら、親は大反対!それでも歌やダンスを猛練習してたんだけど、いろいろあってね…。やりたい事を反対されて、結局同じポケリウム軍に入るなんて、何だかあたし達、似た者同士だよね。」
「アイドルって…そりゃ反対するだろ;」
呆れてそう言うフォギアを、リースは軽く小突いた。
失礼しちゃうわねー!と少し頬を膨らませるリースだったが、すぐにフォギアがすまなかったと謝ったので、表情を戻した。
「でもまぁ、似てるかもな…こうして同じ職に就いたのも、何かの縁かもしれない。」
「何かの縁、かぁ…何かいい響きだね♪これからも、一緒に頑張れたらいいけどなぁ…」
嬉しそうなリースだったが、言い終えた途端に不安そうな表情になった。
フォギアは目を閉じて少し思いを巡らせ…やがて何か決意したかのように、目を開いた。
「頑張れるさ、これからもな。決断力の強いお前となら、何があってもやれそうな気がするよ。」
「フォギア…ありがと♪あたしって結構無茶するから、あんたの冷静さと思慮深さに頼っちゃうかもしれないけど…あたしも、あんたと一緒なら全然負ける気がしないよ。」
それぞれの想いを確認し合った二匹は、やがてお互いに笑顔になった。

その後…二匹が滝壺でひとしきり遊んでいると、心配したのか、レディウスとフェンリルも緑龍滝にやって来た。
「あらっ、何だか楽しそうね。おーい、何してんのーっ!」
そう大声で呼びかけたのはフェンリルの方で、レディウスはその急な大声にびくっと驚いていた。
一方、呼ばれた二匹は滝壺から上がると、軽く身震いして水を払い、レディウス達のところに歩み寄ってきた。
「何だか懐かしくなっちゃって、一緒に遊んでたんだ♪」
「そうだったんだ…ね、あたし達もご一緒してもいい?」
遊びたそうなフェンリルに、リースはもちろん!と即答した。
「ねぇ、レディも一緒に遊ぼうよ!」
「そ、そうね…すぐに行くから、先に行っててくれないかしら?」
リースはふと首を傾げたが、どこか空気を読んだようなフェンリルの勢いに押され、リースとフェンリルは先に行った。
残されたのは、レディウスとフォギア2匹だけである。
「珍しいわね、あなたが積極的になるなんて。前はわたしとリースが遊んでても参加してこなかったのに。」
その問いかけに深い意味は無いらしく、レディウスはあくまで気になってそう問いかけただけのようだ。
「少し考えたんだ…俺はもっと、社交的になるべきだ、と。それに、心の中のもやもやも吹っ切れたし…あいつと一緒なら、何があってもくじけずに頑張れる気がするんだ。」
レディウスは、フォギアが前からよく表に出している「心の中に痛みを隠したような表情」がずっと気になって仕方がなかった。
だが、今のフォギアの表情にそれはなく、むしろその心の痛みを克服したかのように、すがすがしく感じられる。
その様子を見たレディウスは、どこかほっとしたような表情になった。
「フォギア…今のあなたは、もう十分社交的よ。わたしも最近、もっと前向きにならなきゃって思ってたけど…今のあなたを見てると、何だか吹っ切れそうな気がするの。これからも、一緒に頑張りましょう。」
「そうか…お前も、大切な存在と再会したんだったな。頑張れる仲間が一緒にいるのは、何も俺とリースだけじゃなかったな…あぁ、これからも一緒に頑張ろう。」
言い終えると、二匹はお互いに笑顔になった。
そして、はやくおいでよー!とリースに呼ばれる前に、レディウスとフォギアは滝壺へと駆けて行った。

まるで移り変わるみんなを見守るかのように、緑龍滝は少しも変わらずに佇んでいる。
思い出の光景のままに優しく清らかに流れる滝は、滝壺で一緒になって楽しそうに遊ぶレディウス達の心を、よりいっそう成長させたのだった。
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白いメタグロス ☆2012.05/28(月)06:49
【第五十八話:ほんとの幸せ】

あたしはミルキー、種族はキルリア。
もともと孤児だったところを、おもに西の大陸を中心に活動しているサーカス団に拾われて…最初はちょっとした手品を、だんだんクルクル回る激しいダンスを取り入れた曲芸を覚えて、観てくれる観客のみんなに披露していたの。
孤児と言っても、ひとりぼっちじゃなかったんだ。
メイプルっていう、同じキルリアのお姉ちゃんがいてね…あたしが芸を覚えようと思ったのも、戦いの動きも取り入れたお姉ちゃんの華麗な曲芸に憧れたからなんだ。

でも、サーカス団は何の前触れもなく、突然ハイド=ジョーカーっていう恐ろしいヤツに乗っ取られた。
あたしは逃げ切れたけど、お姉ちゃんはあたしを逃がそうとして、ハイドの…あいつの怒りに触れて、一番過酷な重労働を課せられてしまった。
悔しかった…あいつに対して、何もできなかった自分が何より悔しかった。
あいつを倒して、この悪夢を終わらせるチャンスを伺ってた時に、ラティアスのティス、そしてリオルのリックス達と出会ったの。
すべての始まりは、あいつに囚われていたティスを助けたこと。
上位魔族のあいつはそう簡単には倒せない…そんなあいつと唯一渡り合える切り札を求めて、あたしとティスは危険を冒して「真実の剣」を手に入れた。
でも、その剣をもってしても、あいつはとても強くて、だんだんこっちが不利になって。
そんな時、ティスを想うクルスが聖獣エルセオンに進化して…ずっとあたし達を苦しめてきたハイドを、その翼からの聖なる光で倒してくれて、やっと悪夢は終わったの。

ティスやリックス達は、その後に空から攻めてきた魔族の軍勢「嵐ノ魔族分隊」との戦いにも巻き込まれた。
あたしはサーカス団のみんなと避難してたんだけど、あの時みたいに、ただ守ってもらって、ただ逃げてばかりいる自分が悔しかった。
ちょうどその時に…後で聞くと軍の間で行方不明になっていたらしい、翼を持ったブラッキーのフェンリルと出会ってね。
フェンリルと一緒に決戦の舞台に乗り込んで、とどめまでは行かなかったけど…あの時からずっと大切にしてる真実の剣、そしてフェンリルと力を合わせて戦って、ようやく魔族軍に立ち向かう勇気や決心がついたんだ。

…それから、今に至るってわけ。
あたしは、ローレンの村の復興に励むみんなを少しでも元気づけたいと思って、ちっちゃいころにお姉ちゃんから教わった料理を作って、みんなに振る舞っているの。
午後三時からは自由時間になるけど、そこからはあの悪夢を終わらせるために力を貸してくれた愛剣の手入れをしたりして…あとは、物思いにふけっている事が多いかな。
「いつか、きっと…ほんとの平和を取り戻して、ほんとの幸せをみんなで分かち合えればいいな…」
なんだか、ちょっとした独り言でも声が大きくなってるような気がするけど…それって、思っていることをみんなにも聞いてほしいって、無意識に思っているからなのかな…。

「どしたの?なんか元気がないきゅ〜。ほら、これでも食べるきゅ!」
いつものように村の外れの小高い丘の切り株に座って物思いにふけっていると、後ろからそう声を掛けられた。
そこにいたのは…ウパー?しっぽで器用にローレン名物の「葉っぱまんじゅう」を持ってるけど、よく見たらまだ一口もかじってないみたい。
「えっ、でも…キミの分は?」
そう遠慮するけど、そのウパーに「気にしないで食べるきゅ!」って言われちゃった。
返事に戸惑っていると、そのウパーの親…なのかな、ヌオーが駆けつけてきた。
あっ、よく見れば村の防衛ラインにいたヌオーのリドル…そっか、このコはリドルのコだったのね。
「こら〜、食べてる途中で遊ばないでって、いつも言ってるでしょ?」
なんか、ほんとに親みたい…そのウパーの説明で、なんとか事情は伝わったみたいね。
う〜ん、でもやっぱり全部もらっちゃうのは悪い気がするし…。
「ね、それじゃ…半分こしようよ?」
「うん、分かったきゅ。先に好きなだけ取るといいきゅ!」
手に取ってみると…葉っぱまんじゅうは文字通り葉っぱをモチーフにした形で、大きめだけど少し薄めのまんじゅうの皮は薄めで、中につぶあんがいっぱい詰まってる。
皮はヨモギが練り込まれてるらしく薄緑色で、ローレンの村では新鮮な野菜と同じくらい大人気なんだとか。
それを真ん中から綺麗に半分こして、片方をウパーに渡して、もう片方をさっそくひとくち食べてみた。
「はむ…んっ、これ、とってもおいしい…!」
これはもう、材料や作り方がどうとかいうレベルじゃない…なんだか懐かしくて、心から純粋においしいって思える。
「元気になってよかったきゅ!やっぱり元気が一番きゅ♪」
葉っぱまんじゅうを幸せそうに食べていたウパーからそう言われて、何だかうれしくなった。
こんなに幸せな気持ちになるのも、すごく久しぶりな気がする。
そのウパーを見ていたリドルも、どこか安心したような穏やかな表情になってる…あたしを心配してくれたそのウパーは、何だかリドルの心優しさを受けて、その気持ちをあたしに分けてくれてるように思えた。

その後、きっと仲間なのだろう、やっぱり葉っぱまんじゅうを持ったウパー達が駆けつけてきた。
そういえば、リドルも手に葉っぱまんじゅうを持ってるし、まだそんなに食べ進めてないみたい…食べる事より、ウパー達とのコミュニケーションの方を大事にしてるのかな。
「ねぇ、リドル…このコ達とは、いつもこんな感じなの?」
気になったから、そう聞いてみた。
「うん、そうだよ。この子達は戦闘中はすごく頑張ってるから…お礼に、戦いが終わったら好きな事をさせたり、おいしいものを食べさせたりしているんだ。いろいろあったから、この子達にはいつも幸せでいてほしいもんね。」
…親みたい、じゃなくて本当に親代わりだったのね…。
きっと、リドルだってつらい思いをしていたはずなのに、ウパー達をこんなに気にかけて、こんなに愛情を注いであげてるなんて…この子達にはいつも幸せでいてほしい、その言葉がずっとあたしの心に強く響いていた。
「リドルは、ほんとに優しいんだね…ありがと、何だか少し気が楽になったよ。」
率直に思った通りの言葉だけど、今、あたしに言えるのはそれくらいだった。
あぁ、あたしってばまた変な事言っちゃった…と思ったけど、リドルは聞き返すどころか、どこかほっとしたような様子で、とても優しい表情になっていた。
「君も何だかつらそうだったもんね…ボクも、君の助けになれて良かったよ。」

その後も会話は弾んで、いつしか話題は持っている剣の話題になった。
「そういえば、リドルも剣を持ってるのね。あたしも真実の剣っていうのを持ってるけど、刃のない剣なんて初めて見たよ。」
…うーん、さすがにハリボテみたいな剣、なんて言えなかった。
剣は相手を斬り付ける武器だから…刃のない剣なんて、どうやって使うのかな。
「あー、コレね〜…恥ずかしい話が、コレ無理やり押し売りされちゃってさ。先端は銀箔みたいなもので覆われてるんだけど、これがアンデッド系の魔族だけはスパスパ斬れちゃうんだ。スケルトン、ゾンビみたいな実体のある魔族から、悪霊のレイスみたいな実体のない魔族まで…アンデッド系との戦いでは頼りになるんだけど、言ってしまえば使い道はそれだけなんだよね〜;」
…ちょっと待って、それって凄くない!?
アンデッドっていえば、ちょっとやそっとの攻撃じゃ倒せない強敵ばかりよね。
そんなのと有利に渡り合えるなんて…ハリボテみたいだなんて思っちゃってごめんなさい;
「そういえば、君も何だかカッコイイ剣を持ってるね。」
今度は、リドルの方があたしの剣に興味を示してきた。
「これは…もう、あたしにとっては救世主としか言えない剣なの。後で調べてみて分かったんだけど、幻獣系や悪魔系の魔族に効果バツグンなんだって。あ、でもアンデッド系にはあまり効かないかも…」
まだアンデッド系と戦ったことは無いけど、ものの本には確かそんな記述があった。
幻獣系や悪魔系の魔族はそんなに多くはないから、この剣だって活躍の場は限られている。
そう思うと、リドルの銀の剣に似てて、何だか親近感を感じちゃうかも。
「凄いね…幻獣系や悪魔系の魔族は上位クラスの実力を誇るのに、その魔族達と渡り合えるなんて。ボクの銀の剣と、君の真実の剣…場合によって凄く頼れる存在になる辺り、何だか親近感を感じるね。」
はぅあ、リドルもそう思ったんだ…ってことは案外、この二つの剣は似た者同士なのかもしれないね。
「あ、でも最近はこの剣に頼りっぱなしで、ポケモンとしての技はあんまり使ってなかったかも…やっぱり、たまにはもともと覚えてる技も使った方がいいのかな。」
「それ、ボクもそう思ってたんだよね…せっかく苦労して「かげぶんしん奥義」を体得したのに、このままじゃ忘れちゃいそうで怖くってさ〜;」
え…その奥義って、もともと素早いポケモンが編み出したものよね。
リドル、かげぶんしん奥義使えるんだ…何だか、すごく尊敬しちゃうな。


それにしても、こんなに会話が弾んだ事なんて、そうそう無いかも。
ひとしきり会話してたら、もう日が沈みそうになってて…一緒に村に戻っている間も、じゃれついてくるウパー達と楽しそうに遊ぶリドルの様子に和まされながら、あたしはふと、そう思いを巡らせた。
きっと、幸せっていうものはすごく身近にあって…身近すぎるから見失いやすくて、見失っちゃうとすごく遠いものに思えてしまうものなのかもしれない。
たとえ平和を取り戻せても、ほんとの意味を見失っちゃった幸せなんて、何だか寂しい。
それに、幸せと一口に言ってもいろんな形があるって事も、リドル達との会話の中で気付かされた。
同じ幸せを分かち合うばかりでなく、それぞれ異なる幸せを持ち寄って共有し合う事も、大切なのかもしれないね。

ほんとの幸せ、かぁ…それをじっくり考えるためにも、今はこの戦いを終わらせる事に、集中しないとね。
そう心の中で小さな決意を固めているうちに、あたしたちは黄昏に染まるローレンの村に帰り着いた。
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白いメタグロス ☆2012.07/29(日)07:10
【第五十九話:影の支配者、揺らめく野望】

目的の物は手に入れたとはいえ、それはやはり、敗走以外の何物でもない…

デス・ダークライと呼ばれる俺は、エウス様を腕に抱え、亜空間に位置する我らが居城「エウス城」へと帰還した。
もう気付かれているかもしれんが…今回の竜骨奪還は魔族軍における重要任務であったため、普段は城にいるエース級の魔族のほぼ全員を各地へ出撃させた。
…だが、我々はあまりにも、ポケモン達のチカラを侮りすぎていた。
戦死者は出なかったとはいえ、全治までに数か月もの時間がかかる重負傷者が続出し…我々魔族軍は、その数か月もの間出撃できない状態。
その中で唯一の頼みは、すでにポケリウムの影に棲みつかせてある潜伏型の部隊だけだが…ポケモン達も無力ではなく、彼らも偵察が関の山。
もはや反撃できるほどの余力は、魔族軍には残されてはいなかったのだ。

『…竜骨は溶液ポッドに入れ、魔導保存してありますゆえ、いつでも復活させられます。エウス様…どうかゆっくりお休みになられてください。』
エウス様を玉座の間の奥室のベッドに寝かせ、俺は奥室を後にした。
我ら魔族は生命力が高い…一定の処置さえ施せば、後はしばらく眠れば全快できる。
最も、そう簡単に療養しなければならない状態になる事など無いはずなのだが…。
『…くっ、何故だ…我らはポケモンと対等以上に渡り合えるほどの戦闘力を持っているはずだ…何故こんな事に…ッ』
玉座の間の壁によりかかり、そう言い放って壁を殴る。
今、まともに動ける者は俺と、城に残してきた医務担当の魔族やダークライ達のみ…数日前に比べると、ずいぶんと無様になってしまったものだ…。

『クヒャハハハ…何とも無様なものよのぅ!どうじゃ、やはり貴様だけでは無理があるじゃろう!?』
その声は…イデアル…ッ
年老いた魔導師にしか見えない彼は、魔族軍を操る影の支配者…それまで中間種を護っていたエウス様に闇の力を与え、武力によって中間種を護る道を示した張本人。
俺は…こいつが嫌いで、こいつだけは許せなかった。
冷酷無比で残忍なイデアルは、敵対者だけでなく守るべき中間種達ですら、目的達成のための駒程度にしか見ていない…つまりこいつは、俺達を道具として見ている。
だが…こいつの高い戦闘力に対しては俺やエウス様でさえも抗えない。
俺らは…このイデアルには決して逆らえないのだ。
『イデアル…言ったはずだ。魔族軍の権限はすべて俺にある…お前は参謀として奥に居よと言ったはずだ!』
逆らえないが、こいつに我々の権限をすべて握られてしまっては終わりだ。
この毅然たる姿勢は、決して崩しはしない…!
『クックック…まぁそういきり立つな。確かに、今回の貴様の行動はあまりにも無謀すぎた。竜骨ごときに、軍の多くの戦力を費やしたのじゃからな。じゃが、わしはそれを責めに来たのではない。…むしろ、窮地に立たされた貴様を救済するために来たのじゃよ。』
救済、だと…!?
確かにお前の言う通り、我々は多くの戦力を費やした…だが、そうだとしても、お前から救済を受ける筋合いなど…!
『救済を受ける筋合いなど…そう顔に出ておるぞ?
言っておくが、もうすでに手は打っておる。貴様らが力を取り戻した後に活動しやすいよう、ポケリウムの随所に秘策を打っておいた。数か月、じゃったかのう…その間はわしらに任せ、貴様らは療養に専念するとよい。』
おのれ…すでに手を打っていたとは…ッ
俺達を道具程度にしか見ていないこいつに全てを任せたら、好き放題にやられてしまう…俺は、それを看過するしか出来ないというのか…!
『イデアル…貴様は何を望んでいる…!』
『クックック…決まっておろう。わしの望みはただひとつ、貴様ら中間種の繁栄じゃ。さぁ、デス・ダークライよ。貴様の愛する中間種は、いまやどの世界も忌避しておる。欲しいのじゃろう?存在理由を…中間種を繁栄させたくば、今はそのための力を静かに蓄えるのじゃ。』

…俺は、それ以上反論する事は出来なかった。
イデアルは用意周到すぎる…話を持ちかけられた時は、すでにこちらの選択余地は皆無だ。
再起の厳しい我々の悔しさを横目に、イデアルは自ら信頼を置く造魔を次々と呼び寄せ、ありとあらゆる秘策を打ち出していく。
イデアルの決定に意を唱えられぬ屈辱さえも、イデアルはあざ笑い、瞬く間に魔族軍をその手中に収めてしまった。
『クヒャハハハッ!実に悔しそうじゃな、デス・ダークライよ…わしらの完璧なる秘策を、療養しながら見届けるがよい。貴様らの存在価値は、その暁に証明してくれようぞ!』
ヤツの助力を受けねばならぬ今の状況が…自分の不甲斐なさが、何よりもつらく悲しかった。
その我らを見下ろすイデアルは、俺とは対照的に余裕で、どこまでが本気か分からぬほど、今の状況を楽しんでいる。
ヤツの好き放題な言動を、今はただ見逃すほかない…これほど、悲しく悔しい事は無かった。

『さて…わしらは感情を持たぬ伝説のポケモンを操る技術を開発した。これで奴らを配下に置けば、もう手を下さずともポケリウムの全ての大陸を支配下に置くことができる。…魔族軍よ、その様を楽しみに待つがよい!!』
俺達の悔しさのこもった視線を全く物ともせず…イデアルは、打つべき一手を次々と打ち始めた。
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白いメタグロス ☆2012.09/12(水)07:21
【第六十話:これでも軍なのです☆】

クルスが脱退してから、もう数か月か…月日は早いものだ。

俺は…サンダース♂のハリーが隊長を務める特殊部隊に所属するイーブイ、ジャック。
かつてのクルスと同じく、生まれながらに進化できない障害を患っていた…というか、ハリー特殊部隊に属するのは、全員同じ障害を持ったイーブイ達だ。
クルスは進化のきっかけに触れ、エルセオンに進化し、進化できないイーブイという俺達との共通点を失った…結果としてクルスは脱退せざるを得なくなったが、俺達の中にクルスを悪く言う者はいない。
そう…これで良かったんだ。
あいつはこれから、エルセオンとして苦楽の中を生きていく…その門出を祝うのが、きっと仲間ってものだろう。

一時レディウス達と行動を共にしていたハリー隊長殿も、我らの特殊部隊に再びお戻りになられた。
…だが、今までと同じ日々に戻った、というわけではない。
我々ハリー特殊部隊に、またも他の特殊部隊と違う極秘任務が言い渡されたのだ。
その内容は、「知識の賢者ユクシーに会い、今の争いを終わらせるための知恵を借りよ」というもの。
ユクシーといえば…他の世界ではどういう存在なのかは分からないが、少なくともポケリウムでは「ポケリウムのすべての住人に様々な知識を伝え、さらなる知識を得たいという探究心を教えた」という伝承があり、特定の伝説ポケモン達を束ねる上位層の神様として崇められている。
そう…今回の任務は、もはや伝説上にしか出てこない幻の存在を探せ、というものだ。

もうひとつ、俺達特殊部隊への通達があった。
それは他の特殊部隊で孤立した♂のモウカザル「ユーリ」を迎え入れてほしい、というものだ。
…まぁ、クルスもそうして仲間に入ったわけで、あいつとも最初はいろいろとトラブルがあった。
今回は雲をつかむような難しい任務が入っている中の加入だが…まぁ何とかなるだろう。

「今回、ハリー特殊部隊に加入するユーリとは、君のことか?」
現在、俺達ハリー特殊部隊はフォートシティにいる。
ユーリとの合流場所は都市全体を見渡せる高台の広場…合流時間に指定した午前11時は都市の住人は教育施設や職場、または自宅にいる事が多く、この時間帯のこの場所には意外と誰もいなかったりする。
今日も案の定誰もいなかったから、ユーリとの接触は比較的簡単だった。
「…そうだ。という事は、合流場所を指定したジャックは、あんたで間違いねぇって事だな?」
…ただ、ユーリと打ち解けあう事は、どうやらクルスの時よりも時間がかかりそうだ。
とりあえず、話を進めるか。
「あぁ、それで間違いない。…君は今日からは、我らハリー特殊部隊の一員だ。これから…」
「―ハリー隊長の指示に従ってもらう、か?んな事ぁいちいち言わなくていいんだよ。縦社会の軍なんだからよ…問題児として見られてる俺でもそれくらい分かってんよ。」
何故か不敵な笑みを浮かべながら、そう切り返された。
不敵…というか、今までさんざん言われてきていて、もう耳にタコができるくらい聞き飽きたよ、という感じだ。
「残念だが、ハリー隊長の場合はこれまでとは訳が違うぞ。何が違うかは付いてきてもらってのお楽しみだが、単なる縦社会ではない、とだけは言っておくよ…」
すると…ユーリの表情が一変した。
「なッ…どういう事だよ、それ…!?」
「ふ…まぁ来れば分かるさ。」
何か腑に落ちないユーリの目前で、今度は俺が不敵の笑みを浮かべた。
今思えば、クルスにもこんな感じで同じような事を話したな…これも、ユーリが後で気付くであろう事を、俺自身が身に染みて分かってるからかもしれないな。
「さて…隊長殿は現在他の特殊部隊長との会議の最中だから、それが終わる午後七時に面会してもらう事になる。だから、まずは俺の仲間達と会ってもらうよ。」
「会議?…あぁ、週に一度やってる、一日中かけてやるアレか。前の部隊じゃその間はすげー暇だったわけだが、ここはどうなんだ?」
「俺が隊長代理を務めて、隊長不在時でも活動している…だが、今取りかかっている任務は面白いぞ?まるで探偵のようだからな。」
いまいちピンと来ないのか、ユーリは目を点にしている。
まぁ実際ユクシーに関する調査ばかりになってるから、あながち嘘ではないだろう。
打ち解けるには、まずは意表をついて気を引いてから…たまにそれでいいのかなと思ったりもするが、それが俺のやり方だ。
とりあえず、ちょっと困惑しているユーリを俺達の仮の事務所へ案内するとしよう。

事務所に戻った俺と、事務所に入ったユーリを待ってたのは…片づけておくようにあれほど言っといたのに散らかり放題の有様だった。
現在、ハリー特殊部隊の隊員は俺を含めて3匹で、全員進化できないイーブイで構成されている。
…もう正午だというのに、2匹のイーブイはまだ寝たまんまである。
「…おいおい、もう昼だぜ?どんだけ緊張感ねえんだよ…」
ユーリはこの惨状を目の当たりにして、目を点にしたままボーゼンとしている。
くぅ…さすがにこの有様だけは見せたくなかった…。
「…いい加減起きろぉぉーッ!!」
だから、心の底からそう叫んでやった。
うっとり夢見心地だったイーブイ達も、これにはさすがに飛び起きたようだ。
「ふわぁっ…あ、ジャックおはよ〜…」
「…んぅ、何よもぉ…せっかくいい夢見てたのにぃ…」
まだ寝ぼけがちに、それぞれ思い思いにぼやいている。
呆れながら隣に目をやると…すっかり取り残されたユーリは、何とも言えない表情で立ち尽くしていた。
「…これでも軍かよ…」
「…まぁ、こんなんだけど宜しく…」
とでも言うしかなかった…。

その後、俺達とユーリは改めて互いに自己紹介し合った。
俺の仲間は、イーブイ♂のウィーグと、イーブイ♀のネルヴィ。
さっき慌てて飛び起きて俺におはようと言ってきた方がウィーグで、いい夢を邪魔されて不機嫌そうにしていた方がネルヴィだ。
2匹とも、これでも戦闘では別人のように切れ者になるのだが、普段は本当にマイペースで緊張感のキの字も無い。
…でも、もう慣れました。
胸張ってそう言える自分が悲しい今日この頃である。
「ふぅん…あんたも大変ねぇ。ま、今日からはあたしらも仲間なわけだし、とりあえずよろ〜。」
初対面でもお構いなしと言った感じで、ネルヴィがそうユーリに話しかける。
「ま、こっちこそ宜しくな。んで、今はどんな任務に当たってんだよ?」
「それはね〜、これだよ♪」
ユーリの問いに、今度はウィーグが何故か楽しそうに答える。
うきうきしながらウィーグが広げたのは、ユクシーの想像絵の載った分厚い大きな本。
まずこの段階で、俺達がユクシーの事を調べているという事はユーリには伝わったようだ。
「…いるかどうかも分からないモンを探してる、ってのか?おいおい、これ軍の任務としてアリなのかよ?」
思った通りの返答だった。
ウィーグだけでなくネルヴィも、ユーリのその反応ににんまりしている…引いてる俺を差し置いて。
「ま、アリなんじゃない?魔族軍の動きがヤバくなったらソッチに当たればいいし、緊張しっぱなしってのも体に悪いっしょ?」
…緊張感ゼロのあんたが言ってもなぁ…。
「それに、楽しいよ♪ポケリウムの神話って、どれも面白いものばかりだしね〜。」
言ってる事にまるで説得力のないネルヴィの傍ら、ウィーグはひとりで目をキラキラ輝かせている。
すると…引きっぱなしだったユーリは、何となく納得したような表情になった。
「…なるほど、単なる縦社会じゃねぇってのはこういう事だったんだな。へへ、ここ何だか気に入っちまったぜ。」
「まぁ、それなら何よりだ…」
あまり見られたくないものまで見られてしまったが…まぁ、何のトラブルも無く迎え入れられたし、これでいいか。


…こうして、モウカザル♂のユーリを新たに仲間に加え、俺達のユクシー探しは始まった。
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白いメタグロス ☆2012.09/22(土)07:16
【第六十一話:フランキーにしてルーズリー 〜ハリーと愉快な仲間たち、時々苦労人たち〜】

夜7時を回ったころ、仮の事務所に会議に出席していたハリーが帰ってきた。
部屋はと言うと…最低限片付いてはいるが、隅の方はまだ散らかったままである。
「今戻ったよー。…おや、さっそく来たみたいだね。」
と、さっそくユーリに声を掛けるハリー隊長…もはや散らかってるのには慣れきっているらしく、突っ込む気も無いようだ。
「あんたがハリー隊長か…聞いてると思うが、俺はユーリだ。宜しくな。」
隊員が隊長に対してここまでフランクに話しかけるのは、まず有り得ない事である。
ジャックもハリー隊長に対してはきちんと敬語で受け答えしている…のだが、ウィーグもネルヴィもユーリに負けず劣らずフランクに接しているので、事実上ジャックの気苦労はもはや日常茶飯事だった。
もちろん日常茶飯事になるくらいなので、当然のようにハリーはフランクな接し方を気にしていないのだ。
「あぁ、宜しく。さーて、歓迎パーティーでも始めようか。」
ウィーグ&ネルヴィの歓声とジャックの溜息がシンフォニーを奏でる中、ここでもユーリは凄まじいカルチャーショックを受けるハメになった。
「っておーい!あんた、会議の事言わなくてもいいのかよ!」
「もちろん、それも大事だけど…今は始まりを祝う時。会議の事は、それから話しても遅くないよ。」
ハリーまでフランクな感じであれば、ジャックにも突っ込む余地はある。
だが、ハリーの行動決定にはちゃんと意味があり、理にも特に反していない。
加えてハリーが普段からどちらかといえば真面目とくれば、もう突っ込む余地は無い。
「じゃじゃ〜ん♪今回はあたしが腕によりを掛けて準備しといたよ☆」
いつもどちらかといえばアンニュイでのんびりなネルヴィも、○○パーティーと聞いた途端に目を輝かせるようで。
そこ「だけ」は綺麗に片付いているテーブル上には、散らかってる周囲とは裏腹に本格的なごちそうが並んでいた。
ネルヴィは片付けは苦手(というか、ほとんどしない)だが、料理は得意なのである。
「ボクも頑張ったよ〜」
「…アンタはつまみ食いしてただけでしょっ」
そのお隣、ウィーグのほっぺたにはマヨネーズやらケチャップやらがしっかり付いていた。
ふつう味見…というかつまみ食いすれば拭いてごまかすくらいするものだが、ここまで付いたままだと「つまみ食いしました」と暴露しているようなものである。
「お、美味しそうだね。ネルヴィの手料理なんて久しぶりだから、とても楽しみだよ。ウィーグも、しっかり味見してくれてありがとね。」
ハリーに褒められ、ネルヴィもウィーグも嬉しそう。
いつしかジャックもどこかほっとしたような感じになっていた。
「…ただ他の部隊のポケモンが異動してきただけで、こんなにしてもらえるなんてな…前の部隊じゃ、こんな事は全然無かったぜ…」
「ふふ、だからこそ用意したんだよ。さ、今夜のパーティーの主役はキミだ。今までの分まで楽しんでもらえると嬉しいな。」
と、不意打ちとも言えるハリーの意外すぎる一言に、ユーリは思わずぐっと来そうになった。
だが、同時に「ぐっと来るにはまだ早いんじゃないか…?」という気持ちもあってか、ユーリは涙を浮かべなかった。
むしろ、何だかパーッとはしゃぎたくなるような気持ちから、彼の表情はいたずらっぽい笑顔だった。
「…っかー!今の、すっげー気に入ったぜ!あんたの部隊に入れてラッキーだったよ!」
そのユーリの一声が招いたのは、歓迎パーティーに相応しいお祭り風。
それが合図となり、ハリー達とユーリによる愉快なパーティーが始まったのである。

…さて、小一時間過ぎた。
ハリー達はリキュネードを呑み交わし、パーティーも最高潮の盛り上がりにまでハッテンしていた。
ここで復習タイム。リキュネードとはポケリウムにおいて広く愛飲されている、いわゆるノンアルコールチューハイである。
材料となるリキュラの実の果汁には飲むと幸せな気分になってテンションが最高潮にまで上がるという変わった特徴があり、それが酒に酔った時とよく似てはいるが、アルコールなどは一切含まれていない。
アルコール一切無しなのに幸せな気分になれるリキュラの果汁は、そのまま搾ってジュースにしても美味しいのだが、これをいろんなもので割って飲むのが通の飲み方という訳である。

呑み過ぎても二日酔いとかになって頭が痛くなるわけではないが、幸せな気分に満たされると眠くなってしまう。
その効果がモロに出て、ウィーグとネルヴィは大の字になって眠りこけてしまった。
真面目で悪く言えば仏頂面のジャックでさえ、テーブルに突っ伏してにへら〜と笑ったまま寝てしまっている。
起きているのは、ハリーとユーリだけ。
「へぇ、あんた強ぇな…大抵俺が最後まで残ってるんだが…」
「いやいや、親友のフレイの方がもっと強いよ…彼と呑んでるうちに強くなったんだ…」
起きてるとはいえ、ユーリは顔を真っ赤にして笑っている…だがどうだろうか、一方のハリーはユーリよりも普段の笑顔に近い。
そう、幸せそうではあるが、全く崩れていないのである。
だが、この幸せの席では、リキュネードへの強さとかはあまり気にされないようだ。
「…そういやよ、何かユクシーってのを探してるって聞いたんだが…状況はどうなんだよ?」
と、唐突に核心に迫ってきたユーリは、少し表情を普段のものに戻していた。
聞かれたハリーも、普段の真面目な表情に戻って答えを返す。
「やっぱり、気になるよね…調査を進めて、ユクシーが西の大陸のどこかにいる事までは掴めたんだ。ポケリウム上でのユクシーは湖に住まうって云われているけど、草木のほとんど育たない西の大陸にある湖は、大陸の西方にあるノーレッジ湖だけなんだ。その周辺だけ例外的に草木が豊富に茂って密林になってるから、そこが怪しいと思うんだけどね…」
ハリーがそこまで情報を掴んでいた事に、ユーリは目を瞠らずにはいられなかった。
伝承には湖に住んでいる事以外に具体的な事は書かれていないはず…それなのに、西の大陸のどこかにいるとまで調べを付けていたのだ。
もしかしたら、現代は幻とされるユクシーに本当に会えるかもしれない…そう思い、ユーリはゴクリと唾を呑みこんだ。
「…もう少し調査に参加してみたかったってのが正直なトコだが、面白くなってきたって感じだな。んで、そのノーレッジ湖とやらはここから遠いのか?」
もうすでに、ユーリは現地入りする気満々である。
そりゃあ伝説や幻とされる存在と対面できそうであるとくれば、ユーリのその反応も当然と言えば当然だ。
「普通に行けば、ね。でも、飛行艇の造船ブースが直営しているフォートシティ空港から、ノーレッジ湖周辺の密林にあるヴォッサ村までを結ぶ民間の飛行艇が出てるんだ。知ってると思うけど、特殊部隊は隠密活動に備えて、飛行艇を所有する事は禁じられている。とりあえずヴォッサ村までは民間の飛行艇で飛んで、そこからは歩くしかないよ。」
もちろん、特殊部隊は飛行艇を持てない事はユーリは知っていた。
だから最悪の場合はノーレッジ湖まで野宿を繰り返しながら歩いていく事も覚悟していたが、その近くまでひとっ飛びで行けると聞き、ユーリは安堵した。
「特殊部隊は飛行艇を持てないからいろいろとメンドーなワケだが、近くまでパッと飛んで行けるのはありがたいぜ。んで、出発は明日か?」
「まぁまぁ、慌てない慌てない。ヴォッサ村から湖までどれだけかかるのか分からないし、どんな危険があるのかも分からない。それに、物資も必要でしょ?出発は必要な分の物資と、村から湖までのルート調査が完了してからだよ。」
ハリーはあくまで慎重な行動を重視している。
そもそも、ノーレッジ湖は地元のポケモンでも滅多に立ち入らない場所であり、いわば未知の場所である。
慎重に慎重を重ねるハリーのやり方にどこかまどろっこしさを感じるユーリであったが、そういう事も考え、そうならざるを得ない事を理解したようだ。
「それに、今夜はもう遅い。早く休もう。」
「まぁ、それもそうだな。…つーか、片付けないでいいのか?」
ユーリはいまさらながら、昼間に見たアノ惨状が出来上がるまでを思い知った。
リキュネードに酔い、さんざん夜遅くまで騒いだ挙句に、片付けもしないまま酔いに任せて眠る…そりゃあ起きた時に散らかってても何の不思議もない。
昼間は唯一のしっかり者(苦労人?)に思えたジャックも、今は酔った勢いに身を任せて寝入っている。
「…明日にしよう。明日は僕も特に何の予定も無いからね…」
そう言い残すと、ハリーは控えめのあくびを残し、そのまま夢の世界へと旅立ってしまった。
楽しそうな寝顔…どうやら、旅先の夢の世界は「楽しい夢」のようである。
「…気に入ったとは言ったが…この部隊、いったいどんだけなんだよおぉぉ!!」
もう、残された苦労人はユーリただ一匹である。
その後…ハリーの後を追う形で、ユーリも適当に寝場所を作って就寝した。

こうして、ハリーと愉快な仲間たちと苦労人の一風変わった特殊部隊に異動したユーリの、ある意味長く感じる一日は静かにふけていくのであった。
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ここにつづきを書けるのは、作者本人だけです。本人も、本文じゃない フォローのコメントとか、あとがきなんかは、「感想」のほうに書いてね。

物語ジャンルの注目は、長くなりがちなので、いちばんあたらしい1話だけの注目に なります。だから、1回の文章量が少なすぎると、ちょっとカッコわるいかも。


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ちなみに「次の作品に期待」をもらって「完結」や「続く」になってる作品を 「次へ」「終了」に変えることもできるけど、その場合、次のテーマを 作るためには、もう一度「次の作品に期待」が必要になります。

しばらくお話の続きが書けなくなりそうな場合は「一時停止」にしておいてね。 長い間「一時停止」のままの物語は、Pixieの 容量確保(ようりょうかくほ) のため消されることがあるので、自分のパソコンに 保存(ほぞん)しておこう。

やむをえず、連載を 途中(とちゅう)で やめる場合は、凍結をえらんでね。ただし、凍結をえらんでも、次の物語が 書けるようにはなりません。感想をくれた人や、次回を楽しみにしてた人に、 感想 で おわびしておこう。


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