ぴくし〜のーと あどばんす

物語

【ぴくし〜のーと メイン】 【テーマいちらん】 【おともだちぶっく】 【みんなの感想】

連載[1207] 夢と唄とプリン

プリ佳 ☆2009.01/05(月)18:02
〜あらすじ〜 夢とプリン


『アイ』という名の、♀のプリンがいました。
彼女は『素唄』というミュージシャンを目指す少年と共に暮らしていたのですが、
ある日、別れを告げられます。

船に乗せられて、遠く、遠くへ。

まだ素唄の傍に居たい。
そう思ったアイは、もう一度素唄に会うために歩きだしました。

たくさんの人と出会って、小さくて大きな世界を、仲間と一緒に。

途中、ミオシティからコトブキシティへ行くまでの道で、
アイはミミロルの『カット』、トレーナーの『由宇』とはぐれ、
テンガンざんの方向へ風に乗って飛んでいってしまいました。
そして、吹雪の中凍えていたところをユキメノコのメリィが助け、
今はキッサキシティのポケモンセンター…――。


〜第40話〜 おみくじは良いところだけ信じればいい

メリィが、にっこりと笑って言った。
「探している人、ですか?簡単ではありませんが、占うことはできますよ」
その言葉を聞いて、アイはぱぁっと一瞬、顔を明るくし、またすぐ曇らせた。
「あ…でも…どうしよう」
「何か?」
「いえ。…占ってください…!」
メリィが、わかりました、と言って、目を閉じた。
沈黙。
どこからか粉雪が入り込んで、メリィの体を包みこんでいく。
徐々に雪は増えていき、寒くなってきたアイは手を静かに口元に寄せ、吐息で温めた。
突然、雪が黒くなって、怪しげなラインを床にひいた。
「なるほど…」
静かに響くメリィの声。
急かすように、アイが問う。
「どう、ですか?」
「あなたの探している人…それは少年ですね」
「…はい、そうです」
黒い雪のラインを指でなぞりながら、メリィがぽつぽつと呟くその言葉を、
聞き逃さまいとアイは耳をちゃんと立て、相槌を打つ。
「まだ若い…女性と一緒ですわ」
「…やっぱり…」
『夢』だ。
あの女。
特別恨んでるわけでもないが、気にいらない。
「女性と一緒に、ギターと…どこの町かしら?」
「それがわかればいいのですが…」
「残念ながら、今のわたくしには無理でした。…申し訳ございません。
 あくまで、占いですからあまり気を落とさないでくださいね」
「いえ。大丈夫です」
ありがとうございました、とお辞儀をして、アイはポケモンセンターの外に出た。

――そっか…夢さんと一緒か…。
場所はわからず、何の進歩もないけれど。
とりあえず、カット達にもう一度会いたいと思いつつ、一人、キッサキシティを歩いた。
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プリ佳 ☆2009.03/04(水)14:39
〜第41話〜 言えたら良いのにとか思ったよ


「さすがに寒いな…。サンキュ、オーリン」
テンガンざんのふもと、216ばんどうろに降り立った由宇は、移動に使ったネイティオのオーリンをボールに戻した。
そして、抱いていたカットを踏み固められた雪の上に降ろす。
「…ここからは、一人で行けるな?」
「え。…アタイ一人じゃ」
「じゃ、俺は行くから」
無理、と言おうとしたカットの言葉を遮り、由宇はテンガンざんの中に入ろうとする。
カットは慌ててその足にしがみついた。
「あっ、ねぇ、待って…っ」
一瞬、由宇は立ち止まって、また歩きだす。
「由宇…!」
カットがどこまでもついてくる予感がして、由宇が振り返って、その目線にあうようにしゃがんだ。
「あのなぁ、カット。俺は一回、お前を捨てたの。そこまで義理は無いっていうか――…」
ひとつ説教を、と思っていた由宇の視線の先には、既に涙目のカットの姿。
寒さのせいか震えているその体を温めてあげようと、思わず手が出そうになるのを由宇は必死でこらえた。
「とっ、とにかく、俺はもう知らない。関係ない。だから」
「だから?」
赤くなった目で、カットは由宇を睨む。
「由宇…アタイは、覚えてるよ。由宇に、置いていかれた日のこと」
心なしか恨みごもったようにも聞こえるカットの声。
「由宇は言ったよね。アタイが弱いからだって。ラッシュのほうが強いからって…」
ここで一旦、カットは言葉を切った。その先を言っていいか迷うように。
由宇が、続けて、と言った。
「…そして、アタイの生まれたミオシティで、さよならって言って、オーリンに乗って飛んでいった」
「うん…」
「…アタイ、わかんないけど、その時すごく悔しかった。…それから、船に乗って、アイと出会ったんだけど」
徐々にカットの声が小さくなっていく。
それを風の音に消されないよう、由宇は慎重になって聞いた。
「アイも、捨てられたんだって。…だけど、もう一度、会いたいって意思があった。それをそばで見て、アタイも…」
カットが大きく息を吸いこむ。
「アタイも、本当は、もう一度由宇に会いたいって、思ってたんだ」
「…っ!」
「ごめん…。捨てられたの、わかってて、認めたくない…っ。わがまま、だけど…。ごめんね…由宇…!」
とうとう声をあげて泣きだしたカットを、由宇は優しく抱きしめた。
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プリ佳 ☆2009.03/12(木)17:52
〜第42話〜 温かさは絶えず流れている


キッサキシティから出たのはいいものの、アイは吹雪相手に一歩も前に進めずにいた。
見渡しても、白、白、そのまた白の世界。
最初は気にせず、そのうち止むだろうと思っていた。
――甘かった…。
もっとそういう知識を得ておけば良かったと激しく後悔する。
吹雪は全く止む気配すら感じられない。
おまけに、寒さですでに手足の感覚は失われつつある。
せめて体の上に雪が積もるなんてことはないよう、少しずつアイは足を前に踏みだした。
かすれた声で、小さな歌を口ずさみながら。

216ばんどうろから217ばんどうろにかけての草むらでは、小さなケンカが絶えず続いていた。
「寒い…寒い、…寒いって!」
「…寒い寒い言うからでしょ」
イノムーを思わせるような茶色のロングコートが風に揺れている。
由宇が、しっかりとカットを抱いて、あたりをきょろきょろと見渡していた。
どこかに、プリン――アイの姿はないか。
しかしこの吹雪の中、視界は最悪のレベル、いくらゴーグルを付けていてもそれは難しかった。
だから、愚痴をこぼす。
「カットはいいよなぁ、自分で歩く必要が無くって」
「…由宇が勝手に…」
抱っこしたんでしょ、と言おうとして、恥ずかしくなってごにょごにょとごまかすカット。
そう。
由宇はあの後、探すだけだから、と渋々カットに協力することにした。
寒さを防ぐ為と、はぐれないように、しっかりと胸にカットを抱いて。
――やっぱり、由宇って優しい。
そんな風にカットが思っていると、心を読んだかのように由宇がカットの頭を撫でた。
「早く見つかるといいな」
「うん」
――アイも、こうして可愛がってもらってたのかな…?
カットは想像してみる。
由宇はバトルが好きだから、作戦を練ったり、体を鍛えたり、より強い相手に勝負を挑んだり、そんな日常だった。
アイの場合だと、素唄さんは音楽が好きだそうだから、きっと毎日音楽を聴いたり、歌ったりしていたのだろう。
きっとそれは、アイにとって幸せな日々だったはずだから、早く会わせてあげたいという気持ちがカットの胸を埋める。
今、幸せだと感じている自分の幸せを、早く分けてあげたい。
「絶対…絶対、アイに、もう一度会う…っ」
決して弱くはない声が、しっかりと吹雪の中でも由宇の耳に届いた。
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プリ佳 ☆2009.04/04(土)12:24
〜第43話〜 雪と氷の世界でようやく見つけた


昔聞いた話に、『吹雪の中で寝たら駄目』と聞いたことがあった。
アイは何度も何度も自分に言い聞かせる。
吹雪が止むまでの我慢、我慢、我慢…と。
「寒いなぁ…」
勿論、そんな独り言に返事をしてくれる者も――
「寒そうじゃの。おまえさん、一人かい?」
いた。
アイの目の前に、丸い黒っぽい影が塞がる。
「…どなたですか」
「あぁすまんな。わいはオニゴーリのユッキ。おまえさんは?」
「プリンのアイ、です」
ユッキはアイの名前を聞くと、氷が摩擦するような音を立てて笑った。
「そうか、アイちゃんな。ちょっとこっちにおいで」
頭に二本の角(?)、怒られるような気がする目つき、触れると凍ってしまいそうな冷気に、アイは多少怖気ついた。
――危なそうな見た目だけど、ついて行って大丈夫かしら…。
そうアイが思ったのも束の間、急に足元が浮き、気がつけばユッキの二本の角の間に挟まれ、
「え、えー、ちょっと!?」
ゆっくりと吹雪をかきわけて、ユッキは雪の上をすべるように移動した。
「驚かせて悪いなぁ、ちょっと頼みたいことがあるんだ」

アイ達とそう遠く離れていないところに、由宇とカットもいた。
「…っ! ねぇ、今アイの声がした」
「は?何にも聞こえないけど?」
「したって、あっち!」
カットの長い耳が、先ほどのアイの声をキャッチしたらしい。
由宇はカットを信じるか、それとも自分の耳を信じるかで半秒ほど悩み、結果は勿論。
「…どっちだ?」
「あっちだよ、たくさんのポケモンの声もする」
雪に足をとられつつも、由宇はカットをしっかり胸に抱いたまま、カットの指す方向へ走った。
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プリ佳 ☆2009.05/21(木)16:57
〜第44話〜 ため息をついて幸せになろう


「病気の娘を治してほしい?」
「うむ…わいにもよくわからんのでな」
アイが連れて行かれたのは、オニゴーリ、ユッキの巣だというかまくらのような、氷でできた空間。
そこには足場もないぐらいの、たくさんのユキワラシがいた。
全て彼の息子娘達だという。
「…あの、何かを勘違いされていません?アイはラッキーじゃなくって」
「プリンじゃろ?」
「…わかってるじゃないですか」
――どうしてアイなんだろう…。
何となく、ユッキのやろうとしていることはわかる。
「歌ってくれんか?」
アイの予想は的中。
ひとつため息をついて、アイは投げやりに答えた。
「…アイは、うまく歌えないんです。だから無理です。ごめんなさい」
「…そう…なのか…?」
ユッキが不思議そうにアイを見る。
「おまえさんだったら治せると思ったんだがなぁ」
「そんなこと言われても困ります」
「いいや、わいが見込んだからには治せるはずだ」
アイには看病の経験は無かった。
それなのに、ユッキはアイが治せると思っている。
――でも…このままだと言っても聞かなさそう…。
もう一回、アイはため息をついた。
「…いいです…歌います」
アイが大きく息を吸う。
ごくり、とユッキが唾を飲み込む音が、ユキワラシ達のなく声にかき消された。
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プリ佳 ☆2009.07/12(日)15:01
〜第45話〜 止まない音


歌声が、聞こえる。
「由宇、もっと早く歩けないの?」
「…そう思うなら、お前降りろ」
カットの耳に、微かながらも届く。
アイの声が。
「…ここ、か?」
由宇とカットが辿りついたのは、一つの氷のかまくらのような洞窟。
歌声が、止んだ。

ユッキの子ども達が、氷をこすったような音を立てて拍手をする。
「おまえさん、歌えるんじゃないか」
「…はぁ…」
アイは、自分でも少し信じられなかった。
こんなに、歌えるようになっていたなんて。
やはり少しずつ、なおってきている気がする。
一瞬の安堵、そして、床にふしているユキワラシの子どもを見た。
「さて…ユキノムスメや、大丈夫かい?」
「…お、と…さん…」
「喋るな喋るな。まだ苦しそうだな…」
ユキノムスメと呼ばれたユキワラシは、ゆっくりと首を横に振った。
「ありが…と…」
アイの手を、小さな手が握る。冷え切った手。
アイの胸が、締め付けられるようにきゅうと鳴った。

その時、背後からユキワラシ達のざわめく声がして、
一匹のミミロルを抱いた一人の少年が、すっと現れた。

「…アイ!!」
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プリ佳 ☆2009.09/26(土)20:19
〜第46話〜 このままさらうよ、雪も真っ白なままで


「…カット…由宇…どうして」
ようやく絞りだしたアイの呟きを由宇は無視して、ずかずかとアイの横まで来て、しゃがんだ。
「このユキワラシ、病気?」
由宇がユキノムスメに手を伸ばし、ユッキに向かって問う。
「…あ、あぁ…。…あんた、人間の癖に、何なんだ」
「別に。そこのプリンに用がある。連れて行くから」
アイを指差し、挑戦的な口調で由宇は言った。
カットが由宇の胸からぴょんと飛び出し、アイの手をとる。
「…アイ…!」
「カット…。うん、また会えて…、良かった」
そっと笑うアイと、顔を赤くするカットのまわりに、あたたかい音が鳴った。
「…おい、行くぞ」
タイミングを見計らって、ひょい、と二匹を由宇が抱き上げ、じゃ、とユッキに手をあげて去っていく。
呆気にとられたユッキと、ユキワラシの子ども達は、しばらくその後姿だけを見つめていた。
ユキノムスメの枕元に、緑色をしたきのみが一つ、落ちていた。

「なんじゃったんだろうなぁ…」
ユッキの声が、家に響く。
「ねぇねぇ、お父さん」
「こんなのが落ちてたよ」
ざわめきの中、子どものうちの二匹がユッキにきのみを差し出した。
「こりゃあ、ラムのみじゃないか…」
「ラムのみ?」
「このへんじゃ見かけないがな、これは万能薬みたいなもので…」
ユッキがそうかそうか、と独り言を呟く。
「…いつか、恩返しをしなくちゃならんなぁ…」
「ねぇねぇー、お父さんー、何なのー?」
「はっは、よし、教えような、これは――…」

217ばんどうろのはずれに、ラムの木を見た、という旅人がいるらしい。
どんなに寒く厳しい吹雪が続こうとも、生き延びる勇気をもらったとか、なんとか。
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プリ佳 ☆2009.09/27(日)20:22
〜第47話〜 金の時計にキスをしたなら遅刻は厳禁


キラキラと輝くダイヤモンドダストの下。
キッサキシティの港にあたる船着場。
「…なんで、こんな所に、トリトドンが?」
「どうも〜、トリトンです」

時間を少し前に戻そう。

洞窟を出て、リッシこのほとりに腰を落とす由宇。
その腕から、するりとアイとカットが飛び降りた。
「まさか本当にまた会うことになるとはな…」
「…ありがとうございます」
「いや、お礼されるようなことはしていないけど」
ペコリとお辞儀をするアイに、由宇が頭をかく。
照れ隠しのように、由宇はカットに声をかけた。
「…さ、これでいいだろ?カット」
「…? ――…っ」
息をのむカット。
由宇が言いたいことは、わかる。『お別れ』。
でもそれを認めたくない自分が胸の中にいる気がして、カットは首を横に振った。
その様子を、アイがじっと見つめる。
「――…あの、由宇、さん」
「ん?何だ」
「カットと一緒にいてあげてください」
ちゃんと耳に響く声で、アイがカットの気持ちを代弁した。
「…アイ…」
「ごめんなさいカット、本当はあなたの口から伝えるべきだと、思う。だけど…」
「わかったよ」
由宇の肯定の言葉に、驚くアイとカット。
少し諦めているような、ぶっきらぼうな感じ。
しかし、次の瞬間、アイとカットは由宇に抱き上げられていた。
「カット。ちょっとだけお前のわがまま、聞いてやるよ」
「…由宇…!」
カットが少し照れて、耳で顔を隠す。
きっと顔が真っ赤なんだろうなぁ、とアイは思った。
「その代わり、俺と一緒に行動すること。無断単独行動禁止。…アイも」
「アイも?」
「そうだよ。…とりあえず、キッサキシティに向かうことにしよう。…寒すぎる!」

移動すること、二時間弱ほどでキッサキシティに着いた。
ポケモンセンターで休憩し(その際メリィとも出会った)、海岸へ向かい、
そして冒頭に戻るのである――。
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プリ佳 ☆2009.11/27(金)16:18
〜第48話〜 つなぐ方法ならいくらでもある


一行は今、海上にいた。
アイとカットはトリトンに乗ってゆらゆらと、
由宇はというと、ざっぷりと肩まで海水に浸かって、ミガにしがみついた状態で。
どうしてこういう状況かというと、丁度海を渡るつもりだったし、と由宇が決めたのである。
そして彼は今、
「寒い…早く陸に上がりたい…寒い寒い寒い!」
――酷く愚痴っていた。

「どうしてあなたはあそこにいたの?」
アイの当然とも言えるべき質問に、トリトンはおっとりと答える。
「ぼくの家族はね、このシンオウのあちこちで、海上バスのような仕事をしているんだよ」
「へぇ。じゃあ、あなた以外にもいるのね、こういうことをしているポケモンが」
「変かなあ?」
「全然。アイは、素敵だと思う」
えへへ〜、とトリトンが笑うと、少し波に揺れた。

遠くにぼんやりと灯台のようなものが見えた頃には、辺りはオレンジに染まりかけていた。
「あれはもしかして、バトルタワー…?」
由宇がぼそりと声を発する。
「うん、そうだと思うな。ぼくに乗るお客さんは、あそこへ向かう人が多いみたいだねえ」
トリトンの返事で由宇の顔がぱっと明るくなった。
このまま踊りだしそうな勢いである。
「よし、行こう!」
「ご主人、マジで行くんですかぁ?」
「おもかじいっぱ〜い、だねえ?」
ダルそうにミガがぼやきつつも、その顔はあまり嫌そうではなさそう。

二匹のポケモンは、一人と二匹を乗せて、ゆっくりとファイトエリアへと向かって行った。
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プリ佳 ☆2010.03/15(月)09:31
〜第49話〜 上って、下りて、歩いて、休んで


「ここがバトルタワーか…!」
空の高みを見上げる由宇。
そこには、天にまで届くだろうか、高い高いタワーがどーんと構えていた。
トリトンと海岸で別れ、歩くこと5分ほど。目印は非常にわかりやすかった。
ウィン、と自動ドアの開く音、見渡す限り、ホールを埋め尽くすほどのトレーナーとポケモン、
――冷静な者もいれば、田舎の方から来たのか、観光か旅行か、はしゃいでいる者も様々だ。
「カット…アイね、一つだけ言えることがあるよ」
勿論はしゃいでいる者の内の一人の由宇の後ろで、ぼそぼそとアイとカットが喋る。
「どうしたのアイ?」
「…多分、ここに素唄はいないと思う」
「…うん、そうだね」
やけに生真面目な顔をして言うアイに、カットがくすりと苦笑い。
「由宇って、バトルが好きなんだ…だから、ちょっと寄り道だけど、許してあげて…ね?」
「わかってる」

案外と運が良いのかそれとも本当に強いのか、由宇はかなり高くまで上りつめていた。
バトルメンバーはミガ、ラッシュ、オーリン。アイとカットは『連れ歩いているだけ』の状態だ。
「…ふぅ! 今何連勝だ? ミガ」
「44? とかそれぐらいじゃないんですか」
「違うでしょうミガ。次は54です。…全く、十も数え間違えるなど…一体どういう育ち方を」
「あーもう、オーリンは小言多いっつの、第一なー、お前も」
ミガとオーリンがいよいよ口喧嘩を始める前に、由宇が二匹をボールに戻す。
窓の外の景色は、それはもうシンオウ全土を見渡せるんじゃないかってほど。大分高い所まで来たようだ。
「…でも、まだまだ、だな」
「え、まだやるの」
依然としてやる気に燃えている由宇に対し、アイとカットはもう呆れ気味。
別にバトルに理解がないというわけではなかったが、
それより、おなかがすいた、とか、もう眠い、とか、そっちの方が問題だった。
「…休憩すればいいのに」
アイの独り言のような呟きを、由宇はちゃんと聞いていたようだ。
56連勝したところで、由宇とアイとカットは、空いていたベンチにゆっくり腰掛けた。
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プリ佳 ☆2010.10/08(金)14:52
〜第50話〜 ピンクのポフィンだからって甘いとは限らない


由宇はリュックの中からボトルの水を取りだし、それをごくごくと飲み干した。
飲み終えたボトルを片手にきょろきょろとゴミ箱を探すが見当たらないので、諦めてリュックの中に入れる。
「…あ。そういやおやつ、いるか?」
「おやつっ? 欲しい!」
由宇の提案に、まずミガがボールから飛び出してきて反応した。
幼い子供のように反応する姿に、アイとカットは思わず笑うも、一緒になっておやつをねだりに行く。

「…?」
ポフィンを大きく口に頬張ったアイが、何か気配を感じて振り向いた。
後ろには、誰もいない。
「…カット、何か聞こえたりする?」
「え? …あー…!」
アイがカットに訊いていると、丁度、たたたっと足音がした。
二人はベンチから飛び降り、足音のした方へ向かう。
「おい、お前らどうした? …ちょ、待てよ!」
その後ろを、由宇が慌しく追いかけた。
「ミガ、留守番よろしく!」
「了解っすー」

ようやく由宇がアイとカットに追いついた場所は自販機の前の小さな一角。
「…あーあ、見つかっちゃった」
そこにはリーフィアがいた。
ぺろ、と舌を出して、茶目っけたっぷりで頭を掻く。
「なーにも追いかけることはないのに。驚いて逃げちゃったじゃない?」
「ごめんなさい、つい気になってしまって」
アイが素直にぺこりとお辞儀をすると、いいのよと相手は軽く笑った。
「わたし、今おなかすいてるの。さっきあなた達が食べてたのおいしそうだったから、ずっと見ていたんだ…」
「…ポフィンのこと?」
「うん。一個分けてちょうだい。あ、名前気になる? わたし、ファムっていうの」
「へぇ、リーフィアのファムね…。あげてもいいけどさぁ、」
それまで黙って事を見ていた由宇が、口を挟む。
「トレーナー、いるんだろ? バトルして、お前らが勝ったらやるよ」
――どうやら由宇はとことんバトルしたいようだ。
「わたしおなかすいてるんだけどなぁー…。まぁいっか。今外にいるから、外でね」
ファムもバトルが好きなようで、由宇の出した条件にあっさりと乗っかった。
またバトルなのかと、アイとカットはお互いに顔を見合わせたが、由宇は既にやる気である。
荷物取ってくるから待っていてくれ、と言い残して、Uターン。
すぐにリュックとミガを引きずってやってきた。
「じゃ、外に出たら、バトルだ!」
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プリ佳 ☆2010.11/19(金)14:19
〜第51話〜 こんな感じでいいのかな


「ファムぅー! またどっか行っちゃって…。探したんだよ?」
「あはは。ふーちゃんが遅いだけじゃないっ」
ファムのトレーナーは、由宇よりもまだずっと幼い男の子だった。
アイ達が建物から出てすぐに見つかったのだが、彼は外でファムを必死に探していたらしい。
「ふーちゃん、あの人たちとバトルしてもいいよね?」
「え、うん。いいよ…。あっ、ぼくは冬春といいます。ファムを見つけてくれてありがとうございます」
ファムが冬春に甘えるように縋りつく。
途中でアイ達に気づいたらしい冬春が、ぺこりとお辞儀をした。
「別に俺らが見つけたんじゃないんだけどな…。俺は由宇。このミミロルはカットで、フローゼルはミガで、プリンは」
「アイです」
お互いの自己紹介、完了。

「よし。1対1でいいぜ。始めようじゃないか」
場所を移動しながら、由宇が一通り、バトルタワー内であった事を話した。
ちょうど空いているバトル場を発見した一行は、迷わずそこへ向かう。
「じゃあわたし行ってくるね、ふーちゃん」
「うん…! よろしく、ファム」
「あ。カット、アイ。審判頼めるか? いないよりマシだからな」
――ポケモンに審判頼んでどうする。そこは普通人間なのでは。
とアイは内心思ったが。
バトル慣れしているカットがいるから大丈夫なのだろう。
カットは一応でも由宇のポケモンだが、公平不公平はこの際あまり考えないことにした。
所詮動機はポフィンだ。
「それでは由宇と冬春のバトルを開始します。…はじめ」
アイが両手をあげたのを合図にして、両者は動いた。
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プリ佳 ★2011.07/24(日)21:57
〜第52話〜 ぎゅっと抱きしめたぬくもり


由宇が出したポケモンはミガだった。先手のアクアジェットがファムの細い体にヒットする。
「ファム、リーフブレードだよ!」
「わかってる!」
すぐにファムは反撃の姿勢をとった。
両前足と尾がまるで剣のように鋭く輝いて、くるりと空中で前転。そのままミガに襲いかかる。
体に掠る寸前で、ミガはさっとかわした。
「…こおりのキバ!」
ギリギリまでひきつけておいての、こおりのキバがきまった。
ファムの体は崩れ落ちた。
「っ! ファムー!」
「…ふーちゃん…。わたし…まだ戦えるから…」
それでも、冬春の声に応じてか、まだ鈍く輝くファムの尾の剣。
しかし、立ち上がることはできないようだ。
その光が消えるまで、場の一同は息をするのも忘れて、見つめていた。
やがて、
「ファム、戦闘不能。ミガの勝ち!」

冬春は倒れたファムに駆け寄り、ぎゅっと彼女を抱きしめる。
「ごめんね…ごめんねファムぅ…」
途端、きゅるるるという音。
ファムは照れたように笑った。

「おなかがすいていただけなんだよな。はい」
由宇から冬春にポフィンケースが手渡される。
「え、いいの? ぼくたち負けちゃったのに…」
「ケースは返せよ?」
「うん! ありがとう、由宇さん。ほら、ファムもお礼言わなくっちゃ」
「ありがとう!」
ファムはオレンジのポフィンを口に入れて、嬉しそうに目を細めた。
zaqb4dc16ce.zaq.ne.jp

みんなの感想

この物語に感想を書こう。みんなの感想は別のページにまとまってるよ。


物語のつづきを書きこむ

ここにつづきを書けるのは、作者本人だけです。本人も、本文じゃない フォローのコメントとか、あとがきなんかは、「感想」のほうに書いてね。

物語ジャンルの注目は、長くなりがちなので、いちばんあたらしい1話だけの注目に なります。だから、1回の文章量が少なすぎると、ちょっとカッコわるいかも。


状態(じょうたい)

あんまりにも文字の量が多くなると、 ()み具合によっては エラーが出やすくなることがあるよ。ねんのため、 本文をコピーしてから書きこんでおくと、エラーが出たとき安心だね。

シリーズのお話がすべて終わったら「終了」に、文字数が多すぎるために テーマを分けて連載を続ける場合は「テーマを移動して連載」(次へ)に 状態を切り替えておいてね。この2つの状態の時に、「次の作品に期待」 されて感想が書き込まれると、次のテーマが作れるようになります。

しばらくお話の続きが書けなくなりそうな場合は「一時停止」にしておいてね。 長い間「一時停止」のままの物語は、Pixieの 容量確保(ようりょうかくほ) のため消されることがあるので、自分のパソコンに 保存(ほぞん)しておこう。

やむをえず、連載を 途中(とちゅう)で やめる場合は、凍結をえらんでね。ただし、凍結をえらんでも、次の物語が 書けるようにはなりません。感想をくれた人や、次回を楽しみにしてた人に、 感想 で おわびしておこう。


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