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ー前書きー
このページを開いてくだったかたに、まずは礼を。
まぁたらたら堅苦しいこと言うのも嫌なんで簡単に、 【この物語は多大な厨ニ成分と、ワタクシの妄想が含まれております。取扱いには御注意を。】
では、どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。
森の狗
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
…さて、あれから幾年が経ったのだろう。
私の住みかは木のうえ、川辺、民家の付近はたまた火山の河口近くと言うのもあった。
ほぼこの大地の地形全てに住みかを作ったと言っても過言ではない。
…ただ一ヶ所を除けば、だが。
砂丘、
実は私が一番苦手としているその場所は奇しくも私の生誕の場所でもあった。
あの頃は砂の中で気楽に過ごしていたなぁ、と懐かしくおもう。
何時しか私は成長し、大地ーいや、大空までも行動範囲を広めることができるようになったのだが、今度は反対に荒れ狂う砂嵐の中で生活することが出来なくなってしまった。
理由は簡単。
…怖いのだ、砂嵐が。
笑いたければ笑えばいい。 しかし飛翔することが許された代償として地に足を着け、一歩一歩踏みしめることが以前よりも苦手になった私には、それは死活問題だった。
…飛ばされる。
飛ばされる飛ばされる飛ばされる飛ばされる飛ばされる飛ばされる飛ばされる飛ばされる飛ばされる飛ばされる飛ばされる飛ばされる。
砂の性威で前後不覚となり、羽ばたきは嵐に邪魔をされる。
私にトラウマを植え付けるには十分すぎる要素(ファクター)だった。
以来私は砂丘へと足を踏み入れていない。 私は、臆病なフライゴン。
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ー1ー
…そんな私にも転機と言うものがやって来た。 少し大袈裟かもしれないけど。
「ねぇ君、僕と一緒に着いてきてくれない?」
…それはひとりの少年だった。 齢はおそらく16〜18と言ったところだろうか。
彼はそれを言うためにわざわざ私の今の住みかとなっている岩山まで登ってきたのだそうだ。
最初はそんな危険を犯してまでやって来て一体何を企んでいるのだろうかと疑ったが、聞くにただ世界をまわってみたいとの事だった。
拍子抜けしたがそれよりもなぜ私に、という思いが大きかったのだが
「殆どの場所で君を見たっていうことを聞いて、ほら人間なんてさ空も飛べないから君の旅についていけたらなぁって」
…それが少年の言だった。
確かに私は大空を舞い、何処へでも行くことができるけれどそんなことの為にわざわざ頼み込んでくる人間が要るなんて思いもしなかった。
そもそも私は旅の連れ、なんて要らないし欲しくもなかった。 だから、
『あなたの旅を手伝う気も無いし、私にはどうでも良いことです。此処は危険だから早く家に帰りなさい。』
私たちは人間の言葉を理解できるけど、人間は私たちの言葉を理解できない。 でも気持ちぐらいは伝わるもので、彼には私の拒否の気持ちは伝わった様だった。
「そっか…まだ決めらんないか。当然だよね突然来て連れてってなんて言われたら驚くよね。 わかった。また明日来るよ!」
『ちょ、はぇ?』
…訂正。あんまり伝わってなかったみたい。 私の制止の言葉も聞かずにピョン、ピョン、と器用に険しい岩山を降りていってしまった。
ハァ、と息を吐く。 …面倒臭いことになった。
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翌日、早朝。
私は突然目を覚ました。 普段は後一時間は眠っているはずなんだけど….
『!』
そこまで考えたときにある違和感に気がついた。恐らく早く目覚めたのもそれが原因だろう。
『外が、騒がしい…?』
金属の様な物がぶつかる音、それと微かだが威嚇の声が聞こえてきた。
むぅ、と唸る。 …私の住みかの周りにはエアームドの群れが住んでいる。
先程聞こえてきた金属音からして彼らが侵入者か何かを撃退しに来たのだろう。
つと、昨日の少年の事を思い出す。
(あの子は運がよかったわね、たしか昨日はエアームド達は狩りにいってい……っ!)
失念していた。昨日彼はなんと言っていた?
ーまた明日来るよ!ー
彼は別に昨日と同じ時間に来るとは一言も言っていなかった。 いや、むしろ私に会えたことで舞い上がり“早く来たい”と思う方が自然かも知れない。
『不味い!』
エアームドは排他的な種族だ。 人間でも自らが認めた相手にしか接することはない。
故に相手が人間であろうと加減などするはずも…
『ッ!』
そこまで考えて私の体は勝手に動き出した。 ただ昨日一度だけあった少年のために何故こんなにも焦っているのかは解らなかったが強いて言えば、 たぶん、自分の性で人が死の危険にさらされるのが気分悪くなっただけ。
…本当にそれだけ、だろうか?
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
なんとかエアームド達との交戦している場所についたのだけれど、
…はっきりいって最悪の状況だった。 必死に逃げる少年を10は居るであろうエアームド達が襲っている。
少年も上手いこと攻撃を交わし続けてはいるが逃げている方向に行けばたしか崖になっていたはずだ。おそらくエアームド達が誘導しているのだろう。
直ぐに追い付こうとするが、いかんせんあちらも移動し続けているため距離を狭めにくい。
そして
『もう…崖にっ』
全速で飛んでいたがあと一歩及ばず、少年はとうとう崖の目の前にたどり着きその足を止めてしまった。
…そしてエアームド達は少年に殺到し、
彼は、落ちた。
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『させないっ!』
少年にエアームドが体勢を整え襲いかかるその一瞬に出来るタイムラグのお陰で私は追い付いた。
エアームド達からの死角、切りたった崖の側面から飛び出し落ちてくる少年を何とか背中で受ける。
ドッ、という音と共に背中に重みが加わり少年が無事という事を確認した。
…あとはあの子達に引き下がってもらわないとっ
「ー…!?」
私の背から何やら叫んでいるがそんな構っている余裕はない。
『【火炎放射】っっ!』
膨大な熱量を纏った光線がエアームド達のすぐ横を掠める。
…これは、威嚇攻撃。あの子達の近くは通るけど絶対に当たりはしない。
エアームド達は崖下からの突然の反撃に戸惑っていたが私が現れると、リーダーであるエアームドが顔をしかめた。
『…これは我々の問題ですよ。いくら貴女様でも邪魔は困ります。』
その言葉にアハ、と苦笑した。 『それはごめんなさいね。でもあんましこの子を傷つけられたら私も困るもの』
『?わかりませぬな。貴女様は人との交流は行ってなかったはず。それを今更…』
『あー…その、』
まず。ちょっとばかり痛いところをつかれてしまった。どうしようか…
『…それともその小僧は貴女様にとって特別な御方、とか?』
『そ、そうっそれ!この子はね私の、』
あー、と何の気なしに空を見上げる。 いい言い訳が思い付かない、ってそう言えばこの子昨日何か言ってたわね。たしか旅がどうとか…
『あっ、そうだ!この子はね、私の主人よ!』
ビシィッ、多分そんな音がエアームド達からした気がする。 あれ私なにか変なこといったっけ?
はて、と首をかしげているとハァとリーダーから溜め息が聞こえてきた。
『まさか御主人、とは。全く貴女様には驚かされてばかりです』
彼は苦笑まじりにそう言うと他のエアームド達がいる方向へ向き直り、
『撤収!』
そう命令した。
エアームド達が帰っていくなか、リーダーの子がこちらえきた。 何事かと身構えたが彼はただ少しだけ恨めしそうに此方をみあげ、
『お人好しも構いませんが、程ほどに』
そういって仲間の方へ飛びたっていった。
…ばれちゃってた、かな。 アハハ、と一人で苦笑した。
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ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
『全く心配かけさせてくれますね、貴方は』
溜め息混じりにいう。 そんな様子が伝わったのか少年は頭を下げた。
「ごめんなさい!君を見たときからどうしてもそわそわしちゃって…あそこにはエアームドが居るって聞いていたのに…」
ううぅっと少年は涙声になる。 いや、泣かれても困っちゃうんですけど。 ちなみに今は岩山ではなくその麓まで来ていた。だってそっちの方が安全だし。
「それに、それにっ僕は…」 『あぁっ、もうっ!』 「うわっ!?」
もうこのまま放っておいたら絶対に泣きそうだったから彼を抱き上げた。
驚きで声のでない少年をそのまま私の顔の高さまで揚げて言う。
『確かに今回の貴方の行動は軽率でした、愚かと言っても差し支えない程に。』
少年は私の怒りのこもった声に顔を下に向けた。
しかし、と今度は私が顔を下げた彼を覗き込む様にして続ける。
『そんな危険を犯してまで私に会いに来たのは貴方が初めてです。今まで何度か私欲のために接触を図りに来た者は何人かいました。…ですが私が一度断れば「こんな危険な場所来れるか」と、二度と来るものはいませんでした。実を言うと今回の貴方に驚いているのです。そして認めました、それも一緒に旅をしても良いと思えるくらいに』
ハッっと少年が顔をあげる。
「そ、それじゃ…」
私は微笑みながら頷いた。
『ええ、連れていってあげましょう。貴方の望む場所、すべて』
途端に少年の顔が綻ぶ。 現金だな、とは思うがそれはそれでいいかも知れない。
じゃあ、と少年は手を差し出して続ける。
「改めて、宜しくっ」
少年の満面の笑みにつられて私もクスクスと笑いながら、
『ええ、こちらこそ』
…その手を握った。
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ー2ー
「そうだ、シズミに行こう」
さてはて、あれから少しばかりの日にちが経過し少年の身支度、その他諸々の準備を終わらせ後は行き先を決めるだけになった。
晴れて(?)私は気ままな一人旅から少年を連れた二人旅になったわけで、特に行きたいという場所は無かったから行き先はそちらに任せると伝えておいた。
そして冒頭の発言に繋がる。
シズミシティと言えば確か此処から北北西に2日ほど飛べば見えてくる港町であったはずだ。
彼処で獲った魚は中々に美味しかった。
「僕さ彼処で魚を食べてみたいんだ。まだ一回も食べたことないから」
その言葉にへぇ、とほんの少し驚いた。大体の街であったら魚は出回っている筈なのだけれど… それとも彼処が旨い魚所で有名だからそこまで美味しい魚は食べたことないっていう意味でいったのかな? うん。こっちの方がしっくりくる。
『それで、向かう場所はシズミシティで構わないのですね?』
私の問い掛けに彼は困ったように言う。
「無理、かな…?」
『いえ、全然問題ないですよ』
先の私の返事を否定的な言葉だと思ってしまった少年は無理を言ったかもしれないと思ったらしい。 ああ、言葉が伝わらないって不便。
だから今度は分かるようにフルフルと首を横に振った。 とたんに彼の顔が明るくなる。
『…全く本当にゲンキンな子だなぁ。』
まぁ悪い気はしないんだけどね。
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ふむ、と暫し思考する。 大体シズミまで私の翼で一日半ぐらいか。車では二日だが、
っと、あの子を乗せるのを忘れていた。 そうすると少し速度を落として一日半と三刻といったところか。
うん、このくらいならガチガチに固めた荷物とかもいらないかも。 途中で四、五回休憩を挟んで飛べば夜には着くかな。
よし。
『では貴方は一度家に戻り準備をしてきてください。取り合えず必要な物は一日分の食事とあとお金程度ですね。それからは二人で何とかしましょう。』
そういいながら私は近くにあった私の食料と少年の腰についているバッグの中の財布を指さした。
うん、と少年は頷き、
「わかったっ、肉とバッグがほしいんだね!」 『…違います』
貴方が、と少年を指差す事を追加する事でやっと理解してもらえたようだ。 溜め息をハァと吐く。
まったく、もう。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
『ーさて、準備はよろしいのですか?』
場所は変わり今度は少年の住む故郷のーセッチャアタウンと言うのだけど今は全く関係無いーの付近の草むらで私達は出発しようとしていた。
「うん、両親はいないから大丈夫だよ」 『いや別にそんなこと聞いてないのですが…って、え?』
聞き間違いでなければ今彼は両親がいないと言わなかったか。 それってつまり亡くなって…
「あ、ウチの親は海外で仕事してるからいないだけだよ」
…ないのか。 ビックリした、一瞬亡くなったのかと思っちゃった。少年のお父様、お母様ごめんなさい、勝手に殺しちゃいました。
…とと、脱線しちゃった。 フルフルと首を左右に振り少年を見やる。
『じゃあ、行きましょうか』
私は少し微笑み、そして少年もニコッと笑い、
「うん!」
と頷き返すのだった。
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さて、時間は半日と少し進む。 私達が飛びたったのがお昼少し前だから今は夕暮れ、黄昏時の前後になる。
あの子は想像以上に空での移動で体力を使っていそうだったから予定を変更して少し早めの休憩だ。
今居る場所はまるでマンガか、と思ってしまう程に狭い孤島だった。まあ、木屑とかは豊富に落ちていたのでまだましだけど。
そして拾い集めた木屑をかき集め火をおこし(私の火炎放射で。少年が火をたくのを待っていたら夜が明けそうだった)暖と少し早い食事を取っているところだった。
「ほぉころでひゃ」
『口の中の物をちゃんと食べてから言いなさい』
そういうと少年はモグモグと急いで粗嚼し、
「むぐ__っ!」
…喉を詰まらせた。
『ああ、もうっ』
仕方がないので背中をさすりながら少年のバッグの中に入っていた水筒を取りだし渡した。 お母さんか、私は。
「ぷはっ!いやぁビックリした」
『まったく…落ち着きが無いからそうなるんです』
私の非難する様な目に少年はタハハ、とはにかんだ。
「いや、ごめんごめん。ちょっと今大事な事忘れててさ、焦っちゃった」
『大事な事、ですか?』
はて、と首をかしげる。 何かやっていないことなどあったかしら? あるとしたら少年が何か忘れ物をしてきたとかだろうか。
もしそんな事言ったらビンタかな。
と、そこまで考えていたときに少年が割りと真面目な顔で口を開いた。
「僕たち、まだ互いの名前しらなくない?」
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『名前、ですか…?』
確かに今一度考えてみれば私はこの子の名前を知らない。 今まで少年、やこの子などと呼んでいた。 いや、問題はそれ以前なのだ。
(あぁそうか、そういえば)
名前、何てものがあったなあ
「…どうしたのさ?」
私は暫くの間ずっとうつむいていたようで不審がった少年に声をかけられてやっと我に返った。っといけない、いけない。
『なんでもないですよ』
少年に向かって頭を横に振りニコッと微笑む。 途端に少年は不安そうな顔から明るい、いつもの顔に戻り話を続けた。
「やっぱりさ言葉は分かんなくてもお互いの名前ぐらいは知っておいたほうがいいと思うんだ、」
たとえば、えーっと…と身振り手振り私に説得(?)を開始した。 おそらく私がうつむいた事が少年にとっては名前を教えたくない、と言っているのだと思わせてしまったのだろう。
ウフ、と苦笑混じりに笑い彼の頭の上に手をおく。
『気を使ってくれてありがとうございます。…まぁ勘違いなんですけどね』
やっぱり言葉の通じない人間との会話は難しいな、と思う。 あのときだって…
「…フライゴン?」
『あら』
いけない、また一人で思考していた。 少年の頭の上におき続けていた手をどけて少年の顔を見るとほんのり紅くなっていた。恥ずかしかったのかな。
クスリと微笑む私に対してからかわれたのかと思った少年は少し怒り顔で、とはいっても今だ頬は紅いけれど。 プクッと顔を膨らます。かわいい。
「あーもうっ、知らないっ!」
だから勝手に自己紹介する!強制だからね、とまくしたてられる。
勢いに押されちゃったけど勝手に自己紹介するってなんなんだろう? 何となく日本語に違和感を感じる私だった、まる
「僕の名前はコウヤ、風見荒也だよ」
フライゴンは?と問い掛けてくる。 私の名前、か…
『申し訳無いのだけど』
首をフルフルと振る。
「…?」
少年にはいまいち伝わっていないようで首をかしげ頭にハテナのマークがういてそうな顔をした。
『…わかりませんか』
じゃあ、と足下の砂浜に自分の指で文字を書く。 それをみた少年が信じられない、とでも言うかのように目を見開いた。
「…えっ、ちょ、ちょっと、これってどういう」 『ことばの通りですよ』
ーそれは私の願いで、 ーそれは私の絶望で、 ー…それこそが私の希望だった。
<ナイ>
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「無い、って…」
『ええ。私には名前がありません』
そう言って彼、コウヤを見て微笑む。 しかし私の表情とは反対にコウヤはひどく困惑していた。
「…無い、ってどういう事さ。ポケモンにだって皆名前はあるはずだよ。親が名付けたり、なのに、」
ポム、と彼の頭に再び手をおき途中で言葉を切らせる。
『…まぁ正確には捨てた、いえ【消された】と言った方が正しいんですけどね』
私の言葉にコウヤはさらに怪訝な顔になった。 しかし私はそれを無視して続ける。
『いいんですよ。これは、私の…いえ私達の選んだ道なのですから』
「…?」
『わからなくていいんです。むしろわからないでください。あんな事にあなたを巻き込みたくない』
本当にわからない、といった顔でこちらを見るコウヤから一度視線を外しもう太陽が沈んだ地平線を見る。 少し喋り過ぎちゃったかな。
『さて』
少し暗い空気にしちゃった様で忘れてたんだけど今は名前の事だったよね。 そう思い再びコウヤを見る。
『私の事は以前通りフライゴンと読んでください。まぁコウヤが呼びにくいのであればニックネームなりなんなりつけて貰っても構いませんが』
どうします?と問う。 コウヤも先の事はあまり深く聞かない方が良いと察してくれたようで以前通りの笑顔で返事をしてくれた。
「…うーんそうだな、確かに今まで通りでも多分大丈夫だと思うけど…」
でも、と続ける。
「やっぱり旅の相棒なんだからさただフライゴン、じゃ何だか味気ないよね。って事でニックネームつけるよ!…いいかな?」
『ええ、構いません』
コウヤはやった!と笑い じゃあ何にしようかと考え込、
「よし」
まなかった。 即断即決は良いけど大丈夫なのかな。 そんな私の不安を他所にコウヤは自信満々の顔だった。
「えっとねフライゴン、だから少し変えて【フィン】!どう?我ながら良い出来だと思うんだけど」
『【フィン】、ですか?』
なにそれ予想外に良い名前。
『フィン…うん、良いですね。ではコウヤこれからは私の事をフィンと読んでください』
私は満面の笑みで、そして
「うんっ、フィンよろしく!」
コウヤも満面の笑みで。
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ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
さてさて、
またしても時間は半日程飛び私達は【漁村】シズミに着いた。
前に一度来たことはあったんだけど意外とこの村大きいのね。 多分これはもう町、【漁町】と呼んだ方がいいかもしれない。どうやって読むかは知らないけど。
「うわ、すごいねーっ。パッと見ただけでも僕の村のすんでる人の数越えてるや」
『…確かにこれは、凄い人の数ですね…』
今は朝、それも日が出てまだ間もない頃だから多分これはせりをしてるんだろうなぁ。
噂で聞いたことはあったけどせりってこんなに白熱してるんだ。 もう皆大声で喋るもんだから耳が痛くなっちゃいそう…
『…ってあら?』
すこし記憶を遡っていたらボーッとしていたようで気がつけばさっき隣にいたコウヤがいなくなってしまっていた。
『ちょっと、え、嘘でしょう!?』
ちょっと待ってこの中からコウヤを探せって言うの? …さすがにそれは
「あ、いたっ!おーいフィーンー!」 『無理かも…って戻ってきた』
しかもコウヤは両手に発泡スチロールの箱を抱えている。 ハッハッ、と息を荒げながら嬉しそうな顔ー所謂ホクホク顔で帰ってきた。
『コウヤ、見当はついているんですが、一応念のため聞いておきますね。その箱の中身はなんですか』
私がコウヤの持っている箱を指差すと彼はああ、と言って
「勿論、魚だよっ」
『…』
言い放った。
いや、別に私は魚を買うことにどうこうって訳じゃないのよ? …その、ね
『…あまりにも多すぎませんか、これ』
そう彼は両手に箱を持っている。
繰り返すがコウヤは【両手に】箱を持っている。 二箱である。
そんな大量に買ってどうするの。 さすがにこれは頭痛になりそうだ。
「いやーあそこで市場開いてたおじさんがすっごい気前良くてさ!半額にしてもらっちゃった」
未だに興奮冷めやらぬ、といった様子で喋り続けるコウヤ。 この子、魚は痛みやすいこと知ってるのかしら…
『ところでコウヤ、代金は』
「全部使っちゃった。エヘ」
『あぁ…』
めのまえがまっしろになった!
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うん、現実逃避はこれくらいにしよう。まずはコウヤにこれからどうするか聞か「おうぃ、そこの坊主!」あぁ、もうそんな近くで大声あげないでよ… あー耳がいたい…
「?えぇっと何ですか?」
その声に反応したのはコウヤだった。
…いや、私今話し掛けてきた人に見覚えが無かったから他の誰かに話しかけてるのかと思った。それに私の真後ろで話し掛けてきたし。
コウヤの知り合いか何かかな?
そう思ってつとコウヤを見やると彼もこちらを見ていたようでちょうど目があった。
(コウヤ、あの方はコウヤの知り合いですか?)
(…え、フィンの知り合いじゃないの?すごい知った顔でこっち見てくるからフィンと知り合いだと思ったんだけど)
((…))
うむむ、じゃあこのヘラヘラと笑っているおじさん、いやお兄さん?ぐらいの人はいったい何者なんだろう? コウヤも凄く困った顔になってきた。
「…えーと「おぉ、悪い悪い!自己紹介してへんかったなぁ!」…え、あ、はい」
ワイの名前は卦梹ゆうんや、よろしゅう!
とまたしても大声で言った。 どうやらやはりこのケビンと言う男の人とは初対面らしい。 というかこの人テンション高いわね…
ー…あれ、ケビンって横文字ですか?
ー…あーちゃうちゃう、実はワイの親がアホでな無理矢理当て字にしたんや。やから一応漢字やなー。
…などと二人の喋り声を聞きながら暫し思考する。 まず、あのケビンって言う人は何でコウヤに話し掛けてきたのだろうか? 見た感じ何か騙しているとかでも無さそうだし。って、あ
「あの、そういえばケビンさんは何で僕に話し掛けてきたんですか?」
「んー?嫌やったか?」
「いえ、単純に気になっただけですけど」
私が一つの予想がついたところでちょうどコウヤが聞いた。あーそかそかと笑いながらあの箱を指差して言った。
「いやあ、そんな二箱もってる奴がおつったら気になるやろ。それにそれが少年ときたら」
…やっぱりそういうことね。 まぁ、なんかこの人は思ったらすぐに行動しそうなタイプに見えるからわからなくもないけど。
「しっかしコウヤクン、こんだけの魚どうするつもりなんや?」
「食べますよ?」
「えっ?」
「えっ」
『…え?』
うむむ?とケビンさんが唸る。
「そんでもこの量は1、2日ではたべきれへんのやないか?」
「えっ?」 「えっ」 『えぇー…』
「…まさかコウヤクン、魚が痛みやすいこと知らへんの?」
「え、はい」
『…もはや何も言うまい』
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コウヤ、まさかの魚が生鮮食品ということを知らなかったという事実。 っていうか見るからにナマモノってわかるでしょうに…
「そんな早く痛んじゃうんですか!?」
信じられないと顔に書いてあるのが分かるほどに驚くコウヤ。 さすがのケビンもそんな様子に苦笑する。
「ま、まぁこれも社会勉強ってことで そんな落ち込むことないで!」
ワハハ、と今までの雰囲気を払拭するように笑うケビン。 しかし、
「お金全部使っちゃったし…」 「ハ、ハハー」
全く笑えないわね、それは。
助けを求める様にこちらを向くケビン。 顔を背ける私。 途端にケビンも困った顔になったが私にふられてもなんとも出来ないものは出来ません。だって私ポケモンだし。
「せめてお金さえあれば…」 そう呟き何かを考えるように顎に手をあて考え込むケビン。 どうでもいいけどお人好しね、この人。
コウヤはと言うと魚二箱を見て絶望していた。
「あっ」 とケビンから声が漏れた。 彼の顔から何らかの案が思い付いたのだろうと予測する。
「そうやっコウヤクン、君ポケモンバトル出来るか?」
「え?えー・・っと」
突然話題が変わり困惑しながらも此方を見るコウヤ。 確かコウヤは私意外にポケモンを連れているとこを見たことがない。 多分居ないのだろう。
『まぁ、一応私がいれば出来ますよ』
と肯定の意味を含めてうなずき返す。
「ま、まぁ一応は」
今だ話についていけないてのか若干曖昧に返すコウヤ。 すると途端にケビンの顔がほころぶ。
「ほな来てほしいとこがあるんや!ついてきて!」
「うえっ!?ち、ちょっと、ケビンさん!?」
ぐぐぐとコウヤの腕を引っ張り何処かに向かおうとするケビン。
なんだか面倒くさいことになりそうね…
…主に私にとって。
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「…あのケビンさん、どこですかここ」
さてはて、ケビンに(半ば強引に)連れられてやって来たのは、なにやらよくわからないがとてつもなく大きい建物だった。 あ、なんでか知らないけど巨大なモンスターボールのオブジェがきらびやかな装飾と共に建物のてっぺんに乗っかっていてすっごい印象にのこった。 とりあえずつれられるままその建物の中へと入り今の状況に繋がるのである。
「ん!ここか?ここはなぁポケモン・アラバシスエイタっていってな、まぁ、その名の通りや」 ケビンの言葉にあー、とコウヤが呟く。 「えっと闘技場、ですか…?」
その通り!とビシッとコウヤを指差す。
…アラバシス(決闘)・エイタ(遊技場)、ね。 おそらく此処はポケモン同士をトレーナーがバトルさせるところだろう。たしか最近【ポケモンバトル】と言うものが流行っていると聞いたことがある。【遊戯】と名が付いているのもそういうことなのだろう。
「それでな、ここの親会社、ハーヴェスト社ゆーんやけど今な丁度大会を開いとるんや」
…話を聞くにワールド・ポケモン・アラバシス(通称WPA)がその大会だと言う。 仕組みはこうだ。 まずアラバシスエイタ等子会社でパスを発行しWPAへの登録をする。 次には同じくWPAへと参加したトレーナーとバトルし、勝つたびAP(アラバシスポイント)がもらえる。 PASSには階級がかいてあり最下級のディプスから最上級のハイスまで、計七階級存在しAPを一定数貯める毎に階級が上昇する。そして最上級ハイスとなったものはWPAの決勝トーナメントに出場できる。なおAPはより階級が高い者に勝てば大幅に上昇し、逆に低い者に勝ってもあまりAPはたまらない。そして獲得APに比例して賞金が随時支払われるそうだ。
まぁ、つまるとこ強いやつと戦って勝てばお金が貯まるってことね。
「まぁ、そいでコウヤクンが良ければ参加したらどうやって言う話なんやけどな。実際負けても大した損はしぃへんし、決勝トーナメントまでいけば相当の金額も貰える。各地にもトレーナーもわんさかおるやろうし路金に困ることもないやろうなって」
確かにうまい話ね、うますぎる気もしなくもないけれどしかしこれ以外にコウヤがお金を稼ぐということはほとんど出来ないだろう。だってまだ少年だし。 ケビンも嘘をついている様にはみえないしWPAの仕組みも理解した。ということは
「参加しますっ!」
まぁ、そうなるでしょうね。 実のところ私もそのくらいの闘いは案外嫌いじゃないから良かったりする。
するとケビンはにぱーと顔を綻ばせた。
「ホンマか!よっしゃっじゃあ登録しにいこか!」
「わ、わわ、ケビンさんそんな引っ張んないでくださいっ」
「レッツゴーや!」
「は、話を聞いてーっっ!」
それにしてもこのケビンって人コウヤに負けず劣らす暴走するわね。
コウヤが二人いるみたい。
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ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
『カザマコウヤ、登録完了シマシタ』
目の前のやたらとごつい装飾がしてある機械からこれまた機械的な声が流れる。 あれから私たちはケビンに連れていかれ、といってもたいした距離ではなかったけどWPA(ワールドポケモンアラバシス)のポスターがでかでかと、かつところ狭しと張り紙されている登録所についた。 やはり、というかなんというか賞金も出るだけあって参加者もとても多いようで受付すら全て機械での作業だった。 だいたい何処の支部の受付場でもそうらしい。がんばれ機械、超頑張れ。
そして長々と登録情報、そして無駄に長い大会規約を機械音声から聞いたあと(コウヤは途中で集中力が切れてウトウトしていた。まぁ代わりに私が聞いていたのだが、『あれこれポケモンとしての仕事じゃなくない?』とか思ってしまったのは秘密である)ようやく機械から少し薄目の手帳が出てきた。 ようやくコウヤも目が覚めたようで出てきた手帳を不思議そうに眺める。
「何だろう?これ」
『さぁ…?』
いや、私に聞かれたって困っちゃうんですけど。なんも知らないし。 というかそう言うのはケビンに聞けば良いじゃない。あの人の方がいろんなことを知っていると言うのに。
そんな会話(?)を察したのかケビンが説明を始めてくれた。ケビンまじケビン。
「あぁ、それか。それはなトレーナーカードっちゅうんやけど、そん中にコウヤクンの情報が入っとるんや。賞金貰うときやWPAに関連することなら大体それを使えばオーケーって奴」
ま、カードいうとるけどカードじゃのうてノートとかなんやけどな、と最後に付け足す。 …なるほどこれが科学の力って奴かな?便利なものだ、わざわざながったらしい説明やらなんやらを聞いたかいはあったらしい。
「へぇ、面白いですねっ。わ、このページ僕の写真載ってるっ」 「そりゃそうやろ自分の手帳なんやから…」
興奮したように手帳をみてはしゃぐコウヤ。嬉しいのは分からないでもないけどそんなに顔を蒸気させるほどのものかしら。 ケビンだって流石に引きぎみよ?
と、今まで手帳を眺めへー、ほー、と言っていたコウヤだが突然あれ?、と首をかしげて悩み出した。わたしは勿論ケビンも怪訝な顔をする。
「あの、ケビンさん。もし、の話なんですけど仮に僕にポケモンが増えた時にはどうすれば…?もうこの手帳は登録ポケモンを印刷し終わっちゃってますよね」
たしかに、と思う。全然気づかなかったけどそこのとこはどうなんだろう。 と、私がそこまで考えた所でケビンが心配ご無用とばかりに説明し始めた。
「無論、そこんとこは大丈夫や。ほらこの登録ポケモンのページよく見ると他のページと紙質が全然違うやろ?」
コウヤがあ、ホントだ。と声をあげる。
「それはなそのページだけを更新モードにしたあの機械にいれるとな、ええと、なんだったか…そや、【磁気】がなんかすごいことなってそれがこうでああなって書き換えが可能になるんやっ!科学の力ってすげー!」
「科学の力ってすげー!」
…後半の説明があまりにお粗末過ぎてよくわからなかったけれど取り合えず先程の機械に入れればいいのね。まったく、ゴリ押すケビンもケビンだけどそれに流されるコウヤもコウヤね。 まったく、もぅ。
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「…っこほん、まぁそんな感じや。わからんかってもその都度パソコンにでも聞けばおしえてくれるしな。そんな心配せんでいいんよだいたいでやって行けば結構何とかなるもんや!」
「おーっ!」
ケビンがさっきからろくな説明もせずに凄くゴリ押して来るけどコウヤはちゃんとわかってるのかしら、っていうか絶対分かってないわよね。意外に流されやすいのね、あの子。
まぁいいか、わかんなくなったらケビンのいう通りパソコンに聞くとしましよう。何とかならなかったらぶん殴ってやる。
そしてフ、とケビンが少しだけ真面目な顔になった。
「それでやな、コウヤクン …今から俺とバトルせんか?」
「えっ?」
『…!』
突然のことに私もコウヤも目を丸くさせた。 でもまぁケビンの性格を考えれば当然といえば当然かな。 出会ってまだ間もないのに、なんて言われたら言い返せないけど。
驚くコウヤをよそにケビンは話を進める。
「いや、別に他意はないで?ただコウヤクンが早くルール覚えた方がええんちゃうかな思うただけやし」
目を丸くさせたコウヤを落ち着かせるようにケビンがいう。 彼の性格からして恐らく本心だろう。 まぁプラスで私の力が見たいとかもあるかもしれないけど。
うん、大丈夫。 コウヤの頭の上にポン、と手をおく。
「…フィン?」
『コウヤ、やりましょう。私も彼と一度戦って見たいのです』
「おっ、フィンもヤル気やないかっ!どうやコウヤクンいっぺんやろうや!」
ケビンの言葉にコクっと頷くコウヤ。それはバトルの承認を意味していた。 しかしよっしゃっと喜ぶケビンとは逆にコウヤは不安そうな顔をしていた。
『コウヤ?』
つと呼びかけるとコウヤは未だに不安そうな顔をこちらに向け
「フィン、…怪我しないでね」
と言ってきた。
不安の種はそれか、と安心するとともに再びコウヤの頭の上に手をおいた。 少し微笑みながら
『大丈夫。怪我なんてしないわよ』
絶対に勝ってあげる。
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「場所は…そうやな決闘遊技場(アラバシスエイタ)の中央ストリートフィールドでどうや?あそこは障害物もあんまないしスペースもある。初心者フィールドなんて揶揄されることもあるんやけど1番実力が出るとこやからワイはごっつ気に入ってんのや」
軽く今から戦う場所の紹介を受けながら私とコウヤはケビンについていった。 今まで私たちがいた場所が決闘遊技場の東棟中央メインホール(東やら中央やらわかりにくい名前ね)で今から行く中央ストリートは数十メートルさきに位置している中央棟中央サブホール(これも中央やら中央やら…そんなに中央がすきなのかしら)の一番大きなスペースらしい。 一応そんなところでバトルして大丈夫なのか?とコウヤが聞いていたがケビンいわく決闘遊技場の社員たちは黙認しているらしい。とはいっても規約に許可すると書いていないだけで禁止事項とかにははいってはいないらしいが。
「…そーいうわけでな、ここの社長は先代のハーヴェスト社の社長に惚れ込んでわざわざ子会社になったわけや…ってコウヤくん聞いとったか?」
「え?あぁはい。やっぱりアイスはバニラですよね」
「なにいっとんのや、アイスはストロベリー一択やろ。ってやっぱり話聞いてなかったんかい!」
「えへへ、すいません。」
へこむわーと大袈裟にかたを下げるケビン。 どうやらここがどうやってできたかを熱心に説明していたようだけど残念。コウヤはおろか私も全く聞いてなかったわ。ごめんなさいね。
そんなこんなで軽く漫才じみた会話を続けていると中央ストリートの案内板が見えた。はしっこに『バトルはここでお願いします』と書いてあったがまえに一度なにかあったのだろうか。
「ふぅ…漸くついたわ。なんだかあんまし距離はないはずなんやけどえらい疲れたわ…」
「え、大丈夫ですか!?」
「いや、主にコウヤくんのせいなんやけどな…」
へ?とすっとぼけたような顔をするコウヤ。移動する間に何度もした溜息をするケビン。やはりコウヤは強かった。
よっしゃっとケビンは小さく叫び両頬を手のひらで叩く、所謂気合い入れをして私たちに向き合った。
「じゃあやろうや!コウヤくん、お互いまずは最初に出すポケモンを出すんや。ワイは…このサンダースやっ」
ケビンが腰から取り出したボールを投げるとポンっと小気味良い音と共に鮮やかな黄色の体毛をもつサンダースが出てきた。 なるほど、あれがモンスターボールって奴ね。噂でしか聞いたこと無かったから実物は初めて見るわ。
『へぇ、あんたが俺の相手かい?』
『アンタってね…初対面のポケモンに失礼じゃない?ま、いいけど。私はフライゴンのフィン。宜しくね』
『はは、悪い。よく相棒に注意されるんだがどうにも礼儀正しくってのが性に合わなくてね。俺のはサンダースのトパーズ。こちらこそ、よろしく』
「さて、お互いに最初のポケモンを出したら次に後何体のポケモンを使うかを相手に示すんや。合計で6匹以下にしなあかんけどな。今はあんまし連れて来てないからワイは後二体や。コウヤクンは?」
「あ、あの僕まだフィンしかいないんですけど…」
「え、そうなん?ならワイもこのサンダース一匹にしよか?」
「ホントで『ちょっとまって』フィン?」
「なんやフィン?どうかしたんか?」
突然コウヤたちの会話にわりこんでしまいすこし困惑させてしまったがやはりここは言っておきたいことがある。
『ケビン。貴方は自分の手持ち全員使って来なさい。勿論手加減なんかしたらただじゃ済まないわよ』
「…ええんか?それで。いっとくけどワイ別に弱くはないで?まぁそっちの方がスッキリはするけどな」
『えぇ構わないわ。思いっ切り全力できて頂戴。私だって弱いわけじゃないんだからっ』
へぇ、とケビンはニヤッと笑い結局3匹対1匹での対決となった。コウヤにはすごい不安そうな顔をされたけど。
『随分と自信があるんだな』
『あら、別にそういう訳じゃないわよ?体動かすのは久々だから思いっ切り動いておきたいし。まぁ、でも…』
一呼吸置き少し意地の悪い笑顔でトパーズをみる。
『貴方程度には負けないわよ』
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『…へぇ?そりゃあ面白いな』
安い挑発だけど少しは効いたようね。まぁトパーズも挑発されてると分かって乗ってきているけど。 これで恐らく相手の初手は突っ込んでくる攻撃、[電光石火]だろうか。少なくとも遠距離からの攻撃にはならない筈。
「じゃあコウヤクン、いくで…?トパーズ![電光石火]!」
きたっ やはり予想道り電光石火できたわね。 かわす準備は出来てる。後はあの超スピードを直ぐには殺しきれないトパーズに私の[ドラゴンクロー]をあてれば…
「そのまま[10万ボルト]や!」
『!?…うぐっ』
「フィン!」
そんな、技を中断してそのまま別の技を繰り出してくるなんて… 私が地面タイプで無ければ今の一撃はかなりの深手になってたハズ。 効果がない、とまで言われる地面に対する電気タイプの攻撃でこれだけの衝撃がくるのだから大した威力だ。
『中々、やるわね』
苦々しい顔をした私にトパーズはハッと笑っていた。してやったりといったところか。
『舐めてもらっちゃ困るね。簡単に読まれるような手は俺も、ご主人も打ちはしないさ』
『…成る程。挑発に乗ったのもワザとだったのね。見事にやられたわ』
ならば、と私は続ける。
『こちらからも行かせて貰いますっ!』 『[火炎放射]!』
灼熱のエネルギーをまとった光線が真っ直ぐトパーズへと突き進む。
『…くっ』
辛くもこれを横に飛ぶことでよけるトパーズ。 しかし、
『逃がしませんっ』 『なっ…ぅぐっ!』
トパーズが火炎放射に気を取られている間にフィンは飛翔し急接近。そこから自らの尻尾をムチのようにしならせトパーズを弾き飛ばしたのだ。
フィンの尻尾による攻撃を食らったトパーズはその軽い体重故簡単に吹き飛ばされ数メートルは離れたであろう所に体を打ち付けた。
「トパーズっ大丈夫か!?」
『大丈夫、問題無いさご主人。まだまだやれる』
足にダメージを負ったのだろうか、少々ふらつきながらトパーズは立ち上がる。しかしふらついていてもその闘志は全く衰えてはいなかった。 バチバチッと身体中の体毛に電流が流れ始める。恐らくこれからが彼の本気だろう。
『いくぞっ』
パンッ。言葉で表すとすればそんなような音だっただろう。 そんな音と共にトパーズはフィンの身の前から一瞬で消えた。恐らくは自慢の足による超高速移動なのだろう。
『っ…どこへ…』
「フィン!後ろだよっ!」
『もう遅い!くらえ[雷]!』
眩いばかりの光がフィン背後に回ったトパーズから発せられ無防備となった背中へと殺到する。10万ボルトてあの威力、喰らえばフィンでもただては済まないだろう。振り向く時間もなくトパーズが放った渾身の雷は周りの砂をも巻き上げ軽い衝撃波を起こした。
もうもうと砂が視界を遮る中、しかしトパーズは油断せず何時でもフィンが居るであろう場所を睨みつけ立っていた。
(真後ろからの完全に不意をついた攻撃、恐らくフィンは食らっているハズっ!しかし…しかし、何だったんだあの表情は!?)
そうトパーズが攻撃を仕掛けるほんのコンマ数秒前、チラリとトパーズはフィンの表情をみたのだ。いや見てしまったのだ。
(彼女は笑っていた…!)
自ら最高といえるタイミング、技、位置どり。どれを考えても完璧なハズなのにフィンあの不敵な表情だけでもしや効いていないのかと不安になってしまう。
(戦況は圧倒的に俺が有利。10万ボルトでフィンに俺の電気技が効くのは証明済み、その強化版を食らったのならフィンは…)
と冷静にトパーズは考える。 いや、
考えてしまったのだ。
『後ろです』
『っな!?』
即ち一つの物事に気を取られる。それは一瞬ではあるが致命的なスキが生じてしまうのだ。 フライゴンであるフィンは自身の特徴を生かし静かに、しかし素早くトパーズの背後まで移動し、攻撃体制を整えていたのだった。
『こんな砂埃で何も見えないのに…どうして…』
『貴方は私の種族を忘れましたか。私はフライゴン。砂漠の中ですら障害なく大空を舞えるのです』
まぁ、もっとも私は砂漠が苦手なのだけど。とひとりごちたフィンは防御体制の整える事が出来ないトパーズにトドメの一撃を与える。
『[ドラゴン、クローッ]!』
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ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
「いやー、負けた負けた。強いなぁフィンは!」
時は流れて数十分。トパーズを無事(?)撃破したあとすぐにケビンは両手をあげ次のモンスターも出さずに降参だ、と言って戦闘を終わらせた。 それなりに身構えてたから私もコウヤもかなり拍子抜けしてしまったのだが、しかし、正直なところ私の予想よりも遥かに相手が手強かったためそれなりの手傷をおってしまったから少し休憩したいところが本音だったので甘んじて受けることにした。
ケビン曰く”勝てる気がせーへん”らしいが実際のところあと二匹と連続で戦っていたら倒れていたのはこちらの方だった、と私自身感じているから少し過剰に評価されてしまったようだ。まぁ、悪い気はしないのだけれど。
「ホントにフィンはすごいね!なんていうか、スゴイ!スゴイよ!」
…そしてこちらはコウヤ。言うなれば”キラキラ”だろうか。隣に座る彼の目を表すならば丁度そんな感じだろう。てゆーか語彙が余りにもなさすぎるでしょう。まぁそこは多分口が感情に追いついてないだけなんだろうけど。
しかし、こうも褒められると流石に居心地が悪くなってくるものである。目の前の二人は口を開けばスゴイだの強いだのしか言わないし。少しは今後のこととかでも話せばいいのに。全く。
はふん、と一息。
ああ、そういえば私の対戦相手、トパーズは只今絶賛私の尻尾を枕にしてお昼寝中だ。 若干重みは気になるが彼の毛並みはトゲトゲしい外見に見合わずかなり気持ちいい、所謂”もふもふ”なためこちらとしてもなかなかにいい気分になれたから放置する事にする。
「ところでコウヤくん、それとフィン。二人はこれからどうするつもりなんや?」
にこやかな談笑の延長線、楽しげな会話の続きとしてケビンはそんな事を訪ねてきた。 まぁ、お節介焼きのケビンの事だ、多分聞いてくるとは思ったけど。
「これから、ですか…?僕としてはここからは歩きで隣町に移動しながらフィンと旅して行こうと思っているんですけど」
一応、ではあるがこの街にくる以前にこれからの動きというのを決めて置いたのである。コウヤのいうとうり一先ずは隣町にいってみる。 詰まったら詰まったで私の翼があるしね。
「そうか、隣町にいくんか。するとえーっと…たしかここから一番近い街、といえば”ニードホルム”やったよな?」
コクリ、とコウヤが頷く。
”炎の街ニードホルム”
まぁ所謂火山がすぐそばにあるという街だ。たいしてこことは離れていないにも関わらず雰囲気がガラリと変わるから前一度訪れた時には面食らった覚えがある。
と、ここでケビンが一変。少しだけ真面目な表情になった。
「実をいうとな、ワイらもニードホルムに行く途中だったんや。ちょっとした噂を聞いてなぁ」
「噂…ですか?」
「そ、噂や。まぁニードホルムというよりも途中にある火山のほうなんやけどな」
といったん区切ったあと今までよりも声のトーンを落として話始める。
「どうやらなんか悪い連中がその火山にたむろして悪さを企んどるっちゅー話や。詳しくはまだ不明なんやけどな。実を言うとワイはそれを調べるためにきてたんやけど」
「え、ケビンさんって警察の方だったんですか?」
「…んー、まぁ似たようなもんや。とにかく近くを通る時は気をつけぇ ちゅうことや。知っといて損はないやろ」
『悪い連中、ねぇ』
ぶっちゃけそんなことよりケビンの職業の方が余程びっくりな内容ではあったもののしかし中々警戒すべき情報なので頭にとどめておくことにしましょう。 もうそろそろ出発する予定だったので情報が少しでも手に入った方がイイしね。
「わかりました。十分気をつけておきます」
「まぁ、フィンがおるからな。大抵の事は大丈夫やろ。一応は気にしておきや」
ちょっと、なんで最後にプレッシャーかけてくるのよ。もう。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
「なぁ、トパーズ」
それからまた少しだけ時は進みケビンはニードホルムへと出発したコウヤとフィンの背中を見送りながら自身の相棒へと言葉をかける。
『なんだ?ご主人』
「あの二人…戦ってみてどうやった?」
『…ふむ』
と少しの沈黙。 それから俺の考えは多分ご主人と相違ないとは思うけど、と前置きし、
『フィンは確かに強かったよ。俺なんかが全く歯が立たないほどに。今回あそこまで健闘出来たのはある種の奇跡なんじゃないかな』
「そうやろうな。まぁでも今回は奇跡ではなかっけどな」
『うん。今の彼女は一人で戦ってる。ポケモンバトルは基本的にトレーナーと二人で戦って行くもの。だから付け入る隙が出来たわけだけど…その事教えなくて良かったのか?ご主人。そのうち彼女は負けるよ。多分何もできずに。遠くない未来だ。もう次のバトルで負けるかもしれない』
「そうなんやけどなぁ、やっぱりああいうのは言われても多分分からんのや、実際に体験せんと。フィンとコウヤくんの将来のためには」
『会話も出来てないようだったしな』
「道は険し、か。頑張っていければええんやけど」
とそこまでで区切って、つと時計台を見る。 日はもうじき暮れ始める頃だった。
「さて、そろそろワイらも出発するとするかっ。いくで、トパーズ!」
『了解だ。ご主人』
ー2ー了
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ー3ー
『【ドラゴンクロー】っ!』
快音が響き渡る。漁村シズミを出た私たちは次の街ニードホルムへ向かおうとしているのだ、が…
「おうそこの坊主!お前さんのポケモン中々やりそうだな!どれ、この俺がひとつバトルの厳しさというものを『【火炎放射】』ああーっ俺のナッシィィ!」
この通りえらくコウヤに絡んでくる輩が非常に多くそれを私がちぎっては投げ、ちぎっては投げ…とまぁすごぉーく足止めを食らっているのだ。 …大会の参加者も沢山いたから恐らくコウヤがシズミで使った分は取り戻せたんじゃないかしら。はふん。
「フィン、どっかで休もうか?」 『あー…』
別にたいして体の方は疲れてはいないが如何せん精神の方がガリガリと削られていっている。 うん、これは確かに一旦休憩を入れても構わないだろう。流石に木陰で休んでいる人に向かってバトルを挑んでくる人なんて早々いないだろうし。
◯
大通りを外れて道端へ、奥には森が広がっているところまで移動して私はさらにその外れで息をついた。コウヤはさっき道端で眠たいと言っていたから多分まだその辺りにいるだろう。
『んぅー…あふ』
大きく伸びをする。するとそれに合わせるように欠伸が出てしまった。いけないいけないまだ次の街には5分の1ほどしか進んでないというのにこんなところで長居することになったなら一体いつ到着するのか検討もつかない。技術が進んだりしているがなんだかんだ道中には食料品の補充することなどほぼ皆無なのだ。 なるべくシズミで買った分だけで持つようにはしたい。
そこからはボケーっとどのくらい休むか、コウヤは今昼寝でもしているのだろうか、とかくだらないことを考えていて、
そんなときだった。
ビュウ、と凍えるような風が吹いた。今は春のど真ん中、さてはてこれはなんであろうか? と首を傾げているとまたビュウ。
『寒っ』
まるで冬のようだと思った。私は基本的に冬はあまり好きではない。防寒に火炎放射しなきゃいけないしビュウだから寒いってば。
うー、と腕をさすりながらふと気付いた。そういえばこの冷たい風は先ほどから来る方角が決まっている。そうするとおそらく人為的な、そうポケモンの技か何かの影響なのだろうか?
『うーん、行ってみようかしら』
少し離れたところにいるコウヤを見やると案の定スヤスヤと体を木に預けて眠り込んでいる。
『まぁ、少しならいいでしょう。すぐ戻ってくるだろうし』
たいしたことも思わずに森の奥へ進んで行った。
…そう、これが《彼女》とのであい。 トパーズが予期した私に始めての敗北を味合わせた、そしてある《きっかけ》を与えてくれたすこし小さくて、中々面倒見の良い彼女との出会いの始まりであった。
○
『あら』
先に声をあげたのは彼女の方であった。どうやら私の予想は合っていたらしい。どうやらこおり系統の技の練習をしていたようであった。
『珍しいわね、普通こんな森の奥になんて早々くるものじゃないわよ』
『…そりゃだってあなた、こんな春にそんな寒い風ビュウビュウふかしてたら嫌でも気になるわよ』
『あら』
うっかりしてたわ、と彼女はようやく自分の出していた冷気が原因だと思い至ったのだった。
『悪かったわね、新しく習得した技を試しがてら練習していたのだけど』
そういってその長い耳を下に垂らしながら頭を下げてくる。
『ああ、別に気にしないで?ただ単に気になったということだから』
本当は割と寒かったというのもあるが本人は悪気なくやっていたわけだしこれ以上責めるのはなんだかあまりよろしくないという気がしたのでそこから先は言うのをやめておいた。
しかし、
『ふむ…』
『な、なによ』
見たところ割と強い力を持っているようだ。私には届かないが少なくとも午前中に蹴散らしてきた輩などよりもずっと強い。 トパーズも中々強かったがどうだろう。彼女と彼ではどちらが強いのであろうか。というか姿もかなり似てるし実力も拮抗してそうだし。色を除けば本当にトパーズを思い出させる。
『…ねぇ、ちょっと。そんなジロジロ見られると恥ずかしいのだけれど』
ああ、としまった。一人で考え事をしている最中ずっと彼女を見つめていたらしい。 恥ずかしいとかいいつつもどちらかというと迷惑そうな顔をしていたので素直に謝罪する。 うん、ちょっとこの子に興味が湧いてきた。
『ね、私フライゴンのフィン。よければお友達になりましょ?』
突然そんなことを言われた彼女は少しの間怪訝な顔をしていたがハ、と小さく息を吐き笑顔で、それは凛という言葉が一番合うであろう笑顔で
『私はセレナ、グレイシアのセレナよ。まぁ…よろしくね』
というのであった。
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