ぴくし〜のーと あどばんす

物語

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連載[753] 僕の日記帳〜 my diary

ちーちゃん ★2011.10/15(土)16:10
クチートの日記帳(1)

 これは、少し未来の、二匹のクチートの物語…

 ムロタウンは、少しずつ豊かになっていている。
 その小さな小さな島は、昔、田舎だったことは完全に忘れ去られる位にまで発展している。
 とある日、ムロタウン名所の「いしのどうくつ」は、壊されることが決まった。
 目的は、ポケモンバトル施設(しせつ)を建設し、ムロタウンに更なる観光客やトレーナーを呼ぶためだ。
 そして、年々「いしのどうくつ」を訪れる人は減り続け、ムロタウン発展の足を引っ張っているからだ。
 もちろん、壊されることが決まった日は、それに反対する人々が町長に押し掛けたが…
 …結局は町長が説得し、「いしのどうくつ」はムロタウンから消え去る方針に決まった。
 今はまだ、完全に壊れきっていないが、「いしのどうくつ」の入り口には「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた看板が道をふさいでいた。
 …しかし、洞窟内には野生のポケモンがたくさん生息している。
 人間はポケモンのことを忘れ、自分たちのことを中心にして物事を考えていたのだ。
 バトル施設の完成は約3年後。
 そんな、壊される運命の石の洞窟であった…

 そんな中のある日、クチートが、「いしのどうくつ」の片隅に、捨てられいた。
 そのクチートの特徴は、普通のクチートに比べ、背面の口が小さいことだ。
 誰かが理由があって、捨てたのではないのか。
 そのクチートは、寂しそうな目をしていた。
 「いしのどうくつ」の野生のクチート達は、見かけない顔が気になるのか、捨てられたクチートのそばに、集まってきた。
 捨てられたクチートは、辺りを警戒(けいかい)しているのか、集まったクチート達をキョロキョロと見ている。
 それを見かねた一匹のクチートは、優しく声をかけてあげた。
「大丈夫、『いしのどうくつ』に住んでいるクチートたちは、皆優しいから」
 そして、捨てられたクチートは、
「君は…誰?」
 相手のクチートに問う。まだ、不安な顔をしている。
「私は、クト。あなたは?」
「…」
 捨てられたクチートは、考え込み、黙った。
 まずいこと言っちゃったかな…? と、クトは控(ひか)えめになりながら、
「ねえ…どうしたの?」
「クチート…前のトレーナーが名前付けてくれなかった…」
「トレーナーって…! 捨てられたの?」
クトは、目を丸くして言った。

「…うん」

 小さな返事が、洞窟内に響くかのように聞こえた…
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ちーちゃん ★2011.10/12(水)12:45
クチートの日記帳(2)

「名前…じゃあ、私がつける?」
 クトは、少し考えながら言った。
「うーん…じゃあ…『ココア』とか?」
 そして名の無いクチートは、
「ココア?」
 不思議そうな顔になる。
「あ、ココアって、私が昔トレーナーに飲ませてくれたものなの…とても美味しかったわ…!」
 クチートは、驚いた表情で、
「昔、トレーナー…って…! クトも!?」
「そう…」
 消えるような声で答えた。

 数年前の話。
 ムロタウンを訪れた新米トレーナーがいた。
「次は、ここのジムに挑戦よ!」
 頭にアチャモをのせた、赤い服の女の子がジムに向かって走っていった。
「クト。絶対にリーダーに勝とうね!」
 そして、女の子はジムに駆けだした。

 しばらくすると、女の子は怒った顔をしながらジムから出てきて、モンスターボールを取り出し、ポケモンを出した。
「クト! 強いポケモンだと思って期待したのに、弱いじゃない!」
 クトがモンスターボールから出て早々、即座に怒鳴りつける。
 ムロタウンのジムは、格闘使いばかりだ。
 いくら硬い鋼タイプでも、さすがにこのジムには弱い。
「捕まえたばかりで良かったわ! そこの洞窟でずっと幸せに暮らしなさい!」
 女の子は石の洞窟入口に、クトをおいていった。
「…」
 女の子は振り返ることなく、黙って石の洞窟を後にした。

続く。
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ちーちゃん ★2011.10/12(水)13:26
クチートの日記帳(3)

「でも、ジムに挑戦する前に飲んだ「ココア」は美味しかったの…」

 クトが話し終えた後、大きな爆音が鳴り響いた。
 耳がちぎれるような、音。
 グラグラと、天上から石のかけらがコツコツと降ってきた。

「メタグロス、大爆発!」

 爆音の中、一人の人間の声がした。
 また同じような爆発だ。
 更に洞窟は揺れ動く。

「クト…あの人誰? まさか…この洞窟を壊す人?」
 ココアと名付けられたクチートは、クトに聞く。
「あの人は、この洞窟を解体して、報酬にこの洞窟の石を貰うんだ…」
「石…? 宝石とか?」
 会話をしていると、奥から宝石が輝いているのが見えた。
 その宝石は、綺麗に、そして不気味に輝いている。生きているようにも見えた。
 …おや、宝石が動いているのではないか。
「ねぇ。宝石が動いてる様だけど気のせい…かなぁ?」
「ええ。このあたりはヤミラミが沢山住み着いてい…」
 クトが、喋っている間もなく…
 ヤミラミの大群が洞窟の奥から悲鳴のような鳴き声を上げ、クトとココアのそばを駆け抜けていった。
 どうやら、宝石が荒らされてしまい我を失い、無我夢中でトレーナーを襲いにかかっている。
「何百匹いても、勝てっこないよ!メタグロス、地震!」
 どうやら、メタグロスは「げんきのかたまり」で回復していたようだ。

―ヤミラミの悲鳴と共に、さらに地面が揺れ動いた。

続く。
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ちーちゃん ★2011.10/12(水)13:33
クチートの日記帳(4)

――洞窟が揺れ動く音。悲鳴のようなヤミラミの鳴き声。
  その二つの洞窟内での共鳴。
  その音の重なりあいは…まるで、世の終わりのように――

「やっぱり、僕が一番強くて凄いんだね」
 トレーナーは鼻で笑いながら逃げていくヤミラミを傍観する。
 そして、倒れたヤミラミの間を去って行った…

「あのトレーナー、一体何だったんだろう…」
 クトは溜息を吐きながら、
「一応、このホウエン地方では有名トレーナーらしいよ。良い意味で」
 最後の「良い意味で」は、皮肉がこもっていたように聞こえた。

 ココアは、クトの住んでいる横穴に住むことになった。
 理由は「初対面であったが、奇遇にも同じような経験をしていて種族が同じクチートだったから」とのことだ。きっと、他にも理由があるだろう。
 「住む」といっても一時的なものだった…

――その夜の出来事…
「ココア…」
 クトが話しかけてきた。ココアは、返事をした。
「あのさ…今日の事なんだけど…」
「ああ…メタグロスのトレーナーの件か…」
 少し間を置いてから、
「私ね…あのトレーナーに復讐をしたいの…」
「復讐?」
 戸惑いながら、ココアは答えた。
「あのトレーナーさ…毎日のように洞窟を荒らすんだ…洞窟の解体どころか、ポケモンまでも犠牲にして…
 でも、ムロタウンの人々は、人間に迷惑がかからなければいいとか、自慢の海を汚すことがなければいいし、ジムくらいしかない場所にバトル施設ができればトレーナーや観光客が沢山来る…って…あのトレーナー以外の人間にも…」
 クトは、泣きながら話した。
「…」
 ココアは何も言えなかった―――
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ちーちゃん ★2011.10/12(水)13:41
クチートの日記帳(5)

「復讐…――」
 言葉の余韻をしばらく残してから、ココアは話を続ける。
「話は少し変わるけど…明後日…遠く離れた土地に出かけようと思っていたの…」
「それって…『旅』ってことだよね!?」
 急な話にココアは驚いた。
「うん。ムロから出るために…ね」
 洞窟の外から、冷たい風が吹いた。その風に答えるようにクトは、
「ここ…住みづらいからさ…仲間も減るし、住む場所もいずれ無くなるし、こんなに苦しい想いはしたくないからね」

 そして、夜が明けた。
 クトは朝から木の実を沢山持ってきて、それを二人で分けて食べた。残った分は、明日の旅に持っていくと、クトは話した。
「ねぇ…クト…」
 ココアはクトに心配そうに話しかけた。
「旅のことなんだけど…もし良かったら…一緒に…」
「二人で? 勿論いいわよ! 私一人だと、心細いしね!」
 意外な返答に、驚いたココアは、
「でもさ…海、どうやって渡る? 僕は泳ぐことできないし…」
 クトは、自信満々に、
「大丈夫♪ お馴染みのドラゴ君にカイナシティの裏まで、連れていってくれるわよ!」
「お馴染みのドラゴ君?」
「ああ。石の洞窟のポケモンなら皆知っている、ムロの海に住んでいるギャラドスよ」

 ギャラドス。
 この言葉を聞いた時、クトは何かを思い出した。
 ほんの一瞬。頭の中で光が通り過ぎるような感覚。
 その一瞬の中に、人影が見えた。
 嵐の中、一人のトレーナーが…ギャラドス? に…
 これ以上考えても、何も出ない。
 結局、気のせいだと思った。

「ココア…何か、考え事でもしてるの?」
 クトの優しい声で、感覚がほどけた。
「いや。ギャラドスって、聞いた時ちょっとね…」
 クトは笑いながら、
「ギャラドスに乗るのが怖いんでしょ!大丈夫よ。優しいギャラドスもいるから♪」
 安心したような、してないような…この2つの間をかけめぐっている気持ちだった。

 そうしてこうして色々準備を進めているうちに、空が綺麗に黒 く染まっていった。
 月は、人工的な円と言ってもいいほど丸く、雲ひとつなかった。

――旅立ち前夜の時だ…―――
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ちーちゃん ★2011.10/12(水)13:52
クチートの日記帳(6)

―――今日の夜は、長いような気がした。
 美しい満月が、ムロの海を照らす。ココアとクトを見送るように…

「もう行くの…?」
 クトは、寂しそうに、
「故郷から出るのは辛いけど、新しく世界を見直したいし、ここで苦しい想いもしたくないしね…」
 と、言った後、
「ドラゴ君〜!」
 と、月光に照らされた海に叫んだ。
 すると、海が山のように盛り上がり、波しぶきを豪快に立てながら、実に派手な音を出し登場したのは…――ギャラドスだった。
「よぉ!クト!カイナシティまでの直行便だろォ! …っとお連れさんも、いるそうだな!名前は?」
 深夜でもテンションが高いドラゴに、圧倒されたココアは、
「あ…クチートのココアと言います…!」
 と、おどおどと答えて、
「ココアか。俺は、ドラゴだ。宜しく」
 と、普通に挨拶された。意外とノリが良いようだ。
「ココアも、カイナ行きか。そうだよな」
「はい」
 ココアの代わりにクトが返した。
「了解っと!じゃ、早速”背”に乗ってくれ。落ちるんじゃねーよ」
 いらぬ心配までしてくれた。人…ではなくポケモンも見かけによらないことを、改めて実感した。
ドラゴの背に乗り、いざカイナへ。

「…そうか。俺もクトもココアも、皆同じ想いをしているのか」
 月の光に照らされながら、話をしていた。
 ドラゴは、約8年前にトレーナーに捨てられたという。
 名前も忘れよく覚えていないが、その時のトレーナーに、
「赤いギャラドスがいるから、ドラゴちゃんは、いーらない♪」
 と、たまたま通りかかったムロに捨てたという。
 …昔は、とても大切にされたそうだ。
 その頃は、カントー地方という所のチャンピオンに勝利し、他にも沢山の場所を訪れたらしい。
 しかしそのトレーナーは、いつからかレアポケモン集めに夢中になり始めてしまい、そこからおかしくなってしまって…
「俺は、色違いでもないただのギャラドスさ」
 ドラゴは、ため息を吐くように言い捨てた。

続く
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ちーちゃん ★2011.10/15(土)15:58
クチートの日記帳(7)

――この満月が美しく見れたのも、今の内だろう。
 星空は、永遠には輝かないものだ…
 冷えた空気が、空を舞う。初夏だが、夜はかなり冷え込む。
 …いきなり空が曇っていった。
 そして、雲は雨雲と化しポツポツと、雨が降りだした。

 雨粒が顔に当たり、眠っていたクトとココアは目が覚めた。
「ドラゴ君。雨が降ってきたけど…」
 クトは、ドラゴを心配するように、言った。
「ただの雨だ、そのくらい心配しなくてもいいぜ!」
 しかし、雨はいっこうに強まっていった。
 風が、ココアの小さなアゴを振り子のように左右に揺らした。
「ドラゴ君…そろそろ引き返したら…」
 ココアは、何か不吉な事が起こることを察し、止めようとした。
「ここで諦めんじゃねえよ」
 ドラゴの喋り方が変わった。
「最初に決めたことだ。最後までやり遂げるべきだ。少しずつでも成功に繋がればそれでいいんだ」
 風がもっと強まり大雨が嵐になった。
「でも…これじゃ危な…」
 クトは、風に飛ばされないように必死にドラゴにしがみつきながら喋った。
 しかしドラゴは、威勢の良い声で、
「大丈夫だ。いざという時の為に避難する島があ…」
 ドラゴの言葉を打ち消すかのように、突風が吹いた――
 そして、大波がいきなりドラゴの前に立ちはだかった…
「う…うわわっ…! ギャアァァー…」
 大波が3匹と、悲鳴を包み込むように飲み込んだ。

絶望の海へ―

続く
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ちーちゃん ★2011.10/15(土)16:02
クチートの日記帳(8)

――昨夜の嵐を吹きけすかのように、朝日が昇った。

「…う…」
 朝日に照らされ、ココアは目が覚めた。
 どうやら、昨夜の嵐で島に流れついたようだ。
「…クトォ!!ドラゴォ!!」
 ココアは、二匹を呼び叫んだ。
 しかし、声はこだますることなく、静かなままだった。
 ココアは、辺りを見回した。
 後ろを振り向くと、大きな客船が、岸にそびえたつように泊まっていた。
 いや、泊まっているのではない。「止まって」いるのであった。
 そう。ココアが漂着した所は――

 捨てられ船、だった――

 ココアはとりあえず、船内に向かった。これ以外の行き先が無いからだ。
 しばらく、歩いて船に近づくと、
「…ねえ!そこにいるのはココア!?」
 という、聞き覚えのある声が聴こえた。
「クト!?」
 すかさずココアが答えた。
 すると、ココアの背後の草むらから、クトが現れた。
 クトの姿にはケガ一つなかった。
「良かった…無事だったんだ…本当に良かった…」
 感動と喜びをココアに伝えた。
「クト…それよりも、ドラゴ君は?」
 もう一匹の仲間の無事も気になった。
「知らないわ…私は、船の周りを一周してきたけど…ドラゴ君のようなポケモンは…見なかったけど…」
「ドラゴ…君…」
 悔しいけど、涙はながさなかった。歯でくいしばった。
「…クト。船の中に入ろうよ」
 しばらく間を開けてから、ココアが喋った。
「…うん。そこしか行く所がないしね」
 クトとココアが船内へ歩いていった――

 観光スポットの船内だが、やけに人が少ない。と、いうか、誰もいない。
「せっかくだから、色々な部屋を探険しようか」
 ココアはクトに言い、クトはうなずいた。
 観光スポットなので、船の管理をする人は少しだけいるが、見回りなどはしていない。今は、昨夜の嵐で船の外側が痛んでないかチェックしているだけなので、船内を自由に動きまわれる。
「昨日の嵐のせいで、中の家具が欠けていたり、しめっているわね」
 そんな事をのんびり話していると、
「大変だぁ! 嵐のおかげで船の重要な部分が、壊れてしまっている!」
 船の管理人の一人が、騒いで船内に駆け込んだ。
「今日中には、この船が本当の沈没船になっちまうじゃねぇか!」
 もう一人の管理人がやって来た。
「今すぐ管理者全員に…っと…」
 その管理人は、後ろを向いてクトとココアを発見した。
「お前達が、この船に傷つけたんだな! その大きな口で!」
 クトとココアは「違う!」と、言いたかったが、人間にポケモンの言葉なんて伝わらない。
「イタズラも程々に…」
 最後の言葉を打ち消すかのように、クトとココアは逃げていった――

 「出会い」をしたら、必ず経験するもの。
 それは「別れ」――

続く
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ちーちゃん ★2011.10/15(土)16:10
クチートの日記帳(9)

――それは、新たな「出会い」
  そして、「別れ」――

 慌てて逃げたためか、いつの間にかどこかの客室へと駆けこんでいた。
 中は少し狭く、昨日の嵐で倒れた家具もある。
 壁紙の色はシックな茶色。だが、嵐のせいで湿った色になっている。
 幸い人間からは逃げられたものも、今度は…道に迷うという結果をつくってしまった。
「ふぅ…なんとか逃げられたけど…」
 ココアは、辺りを見回しながら…
「…道に迷っちゃったみたいだね」
 そんなことを言っていると…

ズガンッ!

 遠くから何かが崩れるような物音がした。
「クト。さっき変な音が鳴ったよね?」
 クトはうなずき、ココアと同じくあたりを見回した。
 すると、音に続いて近くから
「誰…か…助け…て」
 と、少女の声がかすかに聞こえた。
 それを聞いたココアは
「ねぇ…人間の声がしたよ! この辺から!」
「近くに人がいるのかもしれない! 逃げる?」
 人間の言葉の意味は全く知らない。
「いや、昨日の嵐の被害にあってしまった――」
 クトは、その言葉に反発し、
「違うわ!きっと、さっきの人(管理者)だよ!」
 クトはココアに背を向けて…
「私はもう…こんな思いはしたくない…だって…もう、人なんて…信じられないもの…」
「…」
 ココアは返事ができなかった。
 同じような過去。人はポケモンを信じずに捨てたり、手持ちに入れてもらってるのに、育てられなかったり、何もできなかったり。
 クトは、大アゴをココアに向けて…
「やっぱり、旅は一人でした方が良かったかもしれないね…」
 と言い、その場を走って去っていった…
 さよならも言わずに…
「クトッ! まって…」
 もう、遅かった。止めるにしても遅かった。追いかけるにしても遅かった。

 そして、ココアは気を引きしめて、さっきの人の声も元へと向かった。偶然にも、この客室の中から聞こえている。
 ドン…ドン…!
 何かを叩いている音は人の声と同じ所から聞こえた。どうやら、倒れた家具の下から聞こえる。
 ココアは、その倒れた家具を動かそうとした。しかし、びくともしない。どうやら木製家具で、昨日の嵐のせいで水分をたくさん吸ってしまい、動かないようだ。
「た…すけ…」
 声がだんだんと、かすれてゆく。
 ココアはしばらく考えた。どうすれば、動かせるのか。

――そう。ココアの、小さなアゴがある。
 しかし、それでは力が足りないが…
 これで噛み砕いて、家具を壊すことならできる。
 家具は木製だったため、意外と簡単に砕けた。
 …そして、中から少女が出てきた。
「ふぅ〜助かった〜」
 髪が長く、モンスターボールを腰に付けている。だが、ボールは一個しか持っていない。
 少女はココアに気づいて、
「あ! あなたが助けてくれたの?」
 少女は喜び、背負っていたリュックサックから「新装版ポケモン図鑑」と、いう本を取り出して、ページをパラパラとめくった。
「えっと…クチートだね?助けてくれて…本当に…ありがとうっ!」
 少女はココアにをなでながら、
「ねぇ…私はポケモントレーナーなんだけど、ポケモン一匹しか持っていないから心細いの。だから、一緒に冒険しない?」
 ココアは、このトレーナーは仲良くしてくれると判断して、コクリとうなずいた。
「私は、愛月(あづき)っていうの。なぜ冒険してるかというとね――」
 バタン!と、この客室の扉が開いた。さっきの管理者だ。
「ああ…すいません…お客様…! まさか、残っているとは思ってもいなかったので…このホウエン観光組合ムロ地区、我々の…――」
「いえいえ…でも、この船から出たいんですけど…」
 管理者はココアを見ながら、
「あぁ。この船の大部分が崩れかけているため、一刻も早くここから出ておかなければ」
「分かりました。じゃあ行きましょ! クチート!」
 まだ、ニックネームが付いていない為、普通に呼ばれていて、呼んでいる愛月もちょっと違和感を感じている呼び方だ。
 管理者についていき、外へ出る時、遠くからこんな会話が聞こえた。
「おい!例のクチートを見つけたぞ!海に落そうぜ!」
「これ以上迷惑はゴメンだぜ!」
 …きっと、クトの事だ…
 そして、何かが海へと落ちる音がした…
 しかし、ココアにはその言葉の意味が分からなかった――

 愛月とココアは、管理者の出したボートでカイナシティまで向かった。
 向かっている途中、飲み物のココアが出てきた。
「あ。そろそろ、あなたにお名前をつけなきゃね…」
 愛月が飲み物のココアを飲んでると、
「決まったわ! あなたの名前は、ココアよ!」
 光の速さで決まった。元々、ココアとつけられた為、文句の言いようが無い。
 愛月の連れているポケモンはイーブイのみ。イーブイが、ひょこっと現れ、愛月を見ている。
「この子はイーブイのモミジ。宜しくね」
 ココアはイーブイに、
「モミジ、こっちからも宜しく」
「あ…うん。宜しくね」
 モミジは、照れくさそうに答えた。

 しかし、仲間は失ってしまった。
 ドラゴ。
 クト。
 「出会い」が有るから「別れ」も有るもの――

――これで、クチートの日記が一旦終わった。

次の日記は――「イーブイの日記」
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ちーちゃん ★2011.10/15(土)16:13
イーブイの日記帳(1)

――あたしは、弱くなんかない。
  耐えられる方が強いんだ――

「お前、それでもイーブイなのか!?」
 タマムシシティのはずれの森。
「ボク達、イーブイの恥だね!」
 とても小さなその森に、
「モミジ、だなんて偉そうな名前を…」
 さらに小さなイーブイ達が住んでいました。
「お前だけ、進化できないんじゃないか?」
 その森には決まった名前がありませんが、タマムシシティ周辺の人々からは「進化の森」と、呼ばれています。
「トレーナーに倒されてばかりで、経験も何も積めないんじゃないか?」
 「進化」の名がついたのは、しんかポケモンのイーブイが住み着いているから、だとか。
 でも、イーブイが沢山住み着くより昔も「進化の森」と、呼ばれ続けていました。
 なぜ「進化」と、付いた由来を知る人間は誰も居ないとか…――

「虫取り少年のキャタピーにも勝てないなんてな!」
 冒頭から続く、暴言合戦。
 いったい何が起こっているのでしょうか。
「ねぇ! あたしだって…」
 複数のイーブイに絡まれている一匹の♀イーブイがいました。
「お? 何か言うのか?モミジ」
 その「モミジ」と呼ばれた♀イーブイは、
「あたしだって、コイキングくらいなら倒せるよ!」
 モミジは堂々と自慢をした。
「…ワハハッハハハハッ!」
 他のイーブイは途端に笑いだす。
 イーブイ達の鳴き声が森に、こだまする。
「釣りのオジサンが、腹いせで川に大量に流し込んだコイキング達のこと!?」
モミジは、怒りながら、
「あれは…一応釣り人トレーナーのポケモンでしょ?」
と、説得する。他のイーブイ達には、説得ではなく言い訳に聞こえる。
「オイオイ。あれは確かにトレーナーが捕まえたポケモンだけど…あれは戦いで出しているというより…」
「逃がしているんだよ!」
「しかも、あの釣りのオジサン。ギャラドスやこの辺では見かけないミロカロスまで持っているんだぜ。」
「タマムシシティのジムリーダーにも勝っている凄腕トレーナーらしいし…」
イーブイ達はざわめき始め、モミジは一層気分悪そうな顔になる。
 そして、イーブイ達の中から一匹が仕切るように、
「そうだ! モミジとバトルの練習しようか! 勿論、俺達対モミジで!」
「さんせーい!」「やったー!」
 そして、モミジに向かってイーブイ達は目つきを変え、低くうなり始めた。
 愛らしいイーブイ達の顔が、
 企み、狙うような…顔になって、一匹一匹が鬼のように、モミジには見えたのだった。

「いくぞー!」「かかれー!」「いけー!」
「逃がすな〜!」「オー!!」「待て〜!」
 様々な奇声と共に駆け寄ってくる、イーブイの大衆。
 モミジは怖くて体が思うように動かず、金縛りにあったような感じだった。
 そして、気が遠のけていった――
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ちーちゃん ★2011.10/15(土)16:18
イーブイの日記帳(2)

 …だが。
 襲いかかってくるイーブイ達は全てが一瞬にして…
 凍りついてしまったのだ。
 動きが止まった訳ではなく、本当に冷たい氷に包まれている。
 イーブイ達は凍っていて全く動かない。
 氷の形は直線状に曲がることなく、日に照らされキラキラ光っている。
モミジは声も出さずに、このことに仰天していた。

――さっ、さっ、さっ。

 何かが向こうから近づく、足音が聞こえた。こちらに向かってくる。

 さっ、さっ、さっ。

 草むらを踏みしめる音。この足音の主がイーブイ達を凍らせたのだろう。

さっ、さっ、さっ、さっ。

 そして――足音の主が現れた。
「…リリィさん!」
 モミジはとっさに振り返る。
「助けに来ました。モミジさん」
 リリィと呼ばれた、シャワーズは答える。
 相当昔からこの「進化の森」に住んでいる、先輩のポケモンだ。
 モミジにとっては憧れの存在である。
 リリィは、そんなモミジをいつも助けてくれる。今のように。
 そのためか、周りのイーブイ達は、
「リリィさんがいなければ、何もできないポケモン任せ」
 と、モミジのことを呼ぶ。
「リリィさん、ありがとうございます」
 モミジはきちんと礼をする。
 しかし、
「…モミジさん…ちょっといいですか…?」
 リリィは急に深刻な顔になる。
「そろそろモミジさんも一匹で戦えるようになってもらえると…嬉しいです」
「…えっ…?」
 ピキピキ…
 先ほど凍ったイーブイ達の氷が溶けて、割れそうになる。ひびがいたるところに入る。リリィはそれに気づき、
「まずは、場所を変えてお話しましょう。付いてきてください」
リリィはイーブイ達の氷に目をやりながら、ひとまず別の場所へ とモミジを誘導する。
「どこに行くの?」
 モミジは不安になりながら尋ねる。
「とりあえず、私についてきてください」
 リリィはすぐに歩き出す。若干早足になっている。
「あ、待って〜!」
 リリィはスタスタ歩いている。置いて行かれないように、モミジも必死に歩く。
 …それから、一分も経たないうちに背後から、
「誰? 凍らせたの!」
「多分、リリィさんでは?」
「モミジ…ポケモン任せも程々にしなさい!」
 こんな声が微かにモミジの耳に聞こえた。
 もし、リリィさんが来なかったら…――
 考えるだけで、身体中が凍るような寒気がした。
 しかし、思えばいつもリリィさんに助けられていて――
 れいとうビーム、ふぶき。
 強力な技でいつものごとく、助けられていた…
 そのたびに、あたしは…
 ああ。もっと経験を積んで強くならなきゃって思っていた。
 でも、それが当たり前のようにできなくて…
 どんな相手にでも、即座に倒されてしまうあたし。
 何度も挑戦しても――
「モミジさーん!」
 モミジはリリィの声で気がついた。
 どうやら、考えながら無意識に歩いていたらしい。
「つきました。ここなら、あのイーブイ達も来ないはずです」
 到着した先は池のほとり。この池のそばにリリィが住んでいる。
 池の水は澄んでいて、人間の捨てたゴミなどが全く無い。そして人の気配も無い。
「それで――お話の続きをお願いします」
 リリィはコクリとうなずき、
「実は…明日、この森のあなたたち、イーブイが進化しなくてはならない『進化祭』があるの」
「進化祭?」
 オウム返しで、モミジは答える。
「それは、モミジさんの歳になると必ず参加しなくてはならないもの。進化祭では、さっき言ったようにこの森のイーブイが必ず進化しなければなりません」
「進化…? 必ず…?」
 モミジは疑問を持つように返す。
「進化祭。まさか、知らなかったんですか!?」
 リリィは、ビックリ驚く。
「うん」
 そういえば。と、モミジは振り返る。
 確かにここ最近、この森のイーブイ達が月の光を浴びたり、変わった石を持って何かを楽しみに待つようなイーブイがいた。それは、進化するためだろう。
 きっと、ほかのイーブイ達は戦いの経験の浅いモミジにだけ「進化祭」のことを今まで教えなかったのだろう。
「…ごめんね…今まで教えなくて…」
 リリィは後悔したように謝った。
「いいの。いいの。あたしが聞けなかったのだから。気にしなくていいよ」
 モミジは笑顔でリリィをはげます。
「…それで、また話の続きなのだけど…その『進化祭』の日には必ずイーブイが進化するのだけど、経験を積むために進化せずに旅に出るのもОKなの。進化するための『土地』を探しに行く子もいる」
「土地?」
「そう。いきなり問題だけど、あなたたちイーブイは何種類に進化すると思う?」
 リリィが、突然クイズを出す。
「7種類。これは知ってるよ〜」
 モミジは余裕で回答をする。
「正解。進化後はそれぞれ住む環境が違う。シャワーズなら池や川に住むように、進化後の住む環境を考えて旅に出たり新天地を求めに行ったり…が、ほとんどなんだけど」
 リリィは少し区切り、
「中には「進化後のために」ではなく「進化するために」新しい環境を探す者もいる」
「進化するために?進化する条件が特別な場所で経験を沢山積むとか?」
「正解っ! シンオウ地方のどこかの森と、吹雪が絶えない北の地。そこで沢山経験を積むと森なら「リーフィア」吹雪の地なら「グレイシア」という種類に進化できるの」
「へぇ…」
 モミジは大自然の中で生きるリーフィアを想像した。勿論、その姿を見たことはないが…
「リーフィア、かぁ…」
 モミジは聞こえないくらいに小さく呟いた。

「ねぇ。モミジさん」
「ん?」
 帰りのことだった。
 モミジが帰るとき、帰りも危険だということでリリィもついてきた。
「モミジさんの憧れるものって…何でしょう?もちろん、ポケモン以外で」
「うーん…」
 モミジはしばらく考えた。
「植物とか草木とか…『自然』かな…?」
「へえ…理由とかあるんでしょうか?」
 モミジは先ほどよりもさらに深く考えた。
「…だって、草はどんなにポケモンや人に踏まれても、ちゃんとたくましく生きのびているし…たとえばこの森の、公園にある石畳の道のほんのわずかな隙間から生えている草花とか…だから、自然の植物はすごいなって…!」

――小さな命が、大きな命に憧れました。
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ちーちゃん ★2009.05/22(金)18:46
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>本当に申し訳ありませんでした…
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ちーちゃん ★2009.05/22(金)18:47
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ちなみに「次の作品に期待」をもらって「完結」や「続く」になってる作品を 「次へ」「終了」に変えることもできるけど、その場合、次のテーマを 作るためには、もう一度「次の作品に期待」が必要になります。

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やむをえず、連載を 途中(とちゅう)で やめる場合は、凍結をえらんでね。ただし、凍結をえらんでも、次の物語が 書けるようにはなりません。感想をくれた人や、次回を楽しみにしてた人に、 感想 で おわびしておこう。


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