< 前のページ | > 次のページ | ▲ 帝国文書館 | 凸 王城 |
【3】 |
_キスは、ほとんどの場合、シロギスという魚を指します。以前は東京湾にアオギスという魚がいたために区別されているのですが、現在アオギスには四国の一部ぐらいしか生息場所がないそうです。この魚が東京湾の…そして日本の環境悪化のバロメータとなってしまっているのですね。実に悲しい話です。 …ヒュ〜… ポチャン… _キスは砂底に群れを作っているので、底を引きずるように、少しずつリールを巻いていきます。20cmに満たないサイズとはいえ、食いついたときの勢いはビクビクッと、それなりに強いので、一度この釣りをすればすぐ慣れることと思います。一度味わうと病み付きになりますよ。 _さて、底をさぐり、糸をたぐり… _ 「来ました!」 _と、思ったのは早とちりで、その感触は釣りのそれとはまったく異なるものでした。ビビビビビビビビ……「い、糸の先に、なにかが絡み付いています!」 _そうです、目に見えないなにかが、糸を海中に、ではなく、空中に引っ張っているのです。空中には一体… 「あれは!!!」
_そ、空から光線のようなものが私の釣り糸を手繰り寄せています、手繰り寄せるもとは…? −Unidentified Flying Object− − UFO!!!−
_そう、あの皿のような形、子供の頃は誰しもがその存在を信じていたあの飛行物体が…まさか実在するとは! _「コレガ、地球人ノ『狩リ』カ?至ッテ原始的ナ狩猟方法ダナ…」 _「狩猟ですか、これが?これは、魚との『駆け引き』を楽しむ娯楽ですよ」 _やはり、釣りは彼らの目には「狩猟」として映ってしまうのでしょうか?どうやら、釣りと「食料調達」を同義と捉えているようです。 _本当に原始的なのは…? _「娯楽ダト?ドウセ捕ラエタ獲物ハ体ニ取リ込ムノダロウ?ソンナ面倒ナコトヲスルトハ愚カシイ」 _いきなり宇宙人に釣りの楽しさを理解するのは、無理なことかもしれません。が、しかし侮辱されたことには腹が立つものです。何としてでも追い返しましょう。 _「つ、釣りを侮辱する宇宙人に、この地球は渡しま…せん!」 _「ホホウ、マズハオ前ヲ記念スベキさんぷる第1号トシテイタダイテカラ、コノ星ノ調査ヲ行オウ。見タトコロ、建造物モ多ソウダシ、コノ星ノ要人モ近クニ居ルコトダロウカラナ!」 _建造物が、多い?一体どういうことでしょう。まったく解せません。 _「ここは地球の中でも極めて面積の小さな国ですよ。おまけに首都から離れていて、建物もそこと比べれば少ないですし」 _どうやら、この方は本来、地球の中心に乗り込むおつもりだったのでしょうか?見当違いも甚だしいものです。 _「ナ、ナニ! ココハ首都デハナイトイウノカ!」 _「は、はい。首都に勤務している私が申し上げるのですから、間違いありませんよ。しかも、侵略するなら、アメリカなどの国を攻めるものと思っておりましたが?」 _体の色が急激に青ざめ、何かもの悲しげな表情を浮かべる宇宙人、侵略者にしてはいささか同情を覚えます。 _「仕方ナイ…。コノ者ノ力量グライハ調ベ、母星ニ報告スルトシヨウ。ソウカ…侵略適地は、『あめりか』カ…ブツブツ…」 _「私の力量?釣りの腕前でよろしければ、ご覧に入れますが」 _せっかくですから釣りの楽しさでも教えて、本来の目的を忘れてくれれば良いのですが、そううまくはいきませんよね? _「ホホウ、デハ、ソノ『釣リ』トイウモノヲ見セテ貰オウカ!」 _かくして、私の釣りの腕前を披露する運びと相成りました。ここで恥をさらしては釣り人として…いや、『地球の恥』です。 _私ひとりの静かな宇宙戦争が、今幕を開けようとしていました。 |
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