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晩秋の華と涼 −鷹橋晋一の紅葉狩り−
【1】


 こんにちは、鷹橋晋一でございます。みなさまご無沙汰しております。
 いよいよ秋も深まってまいりましたね。そろそろ仕事のほうも年末の追い込みで忙しくなりそうです。ま、この不況期に仕事に追われて忙しい、というのはいささか贅沢なことかもしれませんが。おまけに借家住まいとはいえ、23区内から通勤しております、ありがたいことに…。
 とはいったもののこの季節、やはり仕事の合間に「秋の味わい」というものがなくては仕事にも身が入りません。そこで残っていた有休を利用して、1泊2日の奥多摩旅行をしてまいりました。
 え? 「ご家族で」と? いやいや、新婚以来の女房とふたりきりの旅行でございました。娘が居てはなかなか家を留守にもできませんでしたからね。
 そうそう、私には娘がふたりおりまして、上の娘は楓(かえで)、小学6年、下は梢(こずえ)、小学4年です。まだまだ可愛い盛りです。楓は修学旅行で日光に、梢は浅川さんというご近所の家におよばれして泊まりに行きました。そこのご主人…千造さんというのですが、平日だというのに梢を預かっていただいて、まったく恐縮してしまいますよ。
 梢のほうは千春ちゃん…そこの娘さんとお泊まりできる、と喜んで出かけて行きましたが、どうやら千造さんの計らいのようです。それというのもつい先日、
「鷹橋さん、たまには夫婦水入らずというのもいいものですぞ」
 などとさも嬉しそうにご夫婦で函館に行かれたときのことを話しておりましたから…。
 丁度そんな折に、楓が修学旅行に行くことを女房から聞いてか、ここぞとばかりに梢を招いた、というわけですね。女房と浅川ご夫婦は高校時代の同級生、なんと手回しの良いこと…
 とにもかくにも、行ってまいりました晩秋の奥多摩。ここ数年気候不順であったために、正直あまり紅葉には期待していなかったのですが、これがどうしてなかなか、山すそに緋色の羽織のごとく広がるイロハカエデの美しいこと見事なこと。たった1泊の旅行とは思えぬ充実ぶりでした。
 正直女房とふたりきりの旅行の話をするなんぞ、照れを隠しに隠せないのですが、ちょっと皆さんにもお聞きいただきたい、まったく不思議な出来事があったのですよ。
「ちょっと、さっきから聞いていりゃ、女房、女房…って、ちゃんとアタシにはアズサって名前が…」
 そうそう、女房の名は、梓(あずさ)といいます…。

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