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晩秋の華と涼 −鷹橋晋一の紅葉狩り− 【2】 |
都心に住む方々にとって、紅葉狩りといえば『奥多摩』です。毎年この季節になると、奥多摩町へ続く国道411号線(青梅街道)は私たちのような観光客でごったがえします。 しかしながら、今日はわざわざ有休をとってまで選んだ平日。車を止めて紅葉に見入る客も思ったほどではありません。いつもでしたら愛車YAMAHA−TW200(これは野太いタイヤが特徴のオフロードバイクなんですよ)を独り走らせ、といったツーリングばかりですが、今日は新婚以来の宿泊旅行、久しぶりにカローラのガソリンを満タンにしてのドライブです。 久々の運転であちこちの看板に気を取られるのは良くないものですが、旅行先では見るもの何もかもが面白味あふれるものでして、ついつい脇見運転の危険を冒しそうです…。 と、言ったそばから私の目は、役場へ続く道の角に立て掛けられた『マス釣り場』の看板に目を奪われておりました。そう、休日の私はもっぱら釣りに出かけることが多く、女房や楓を連れて行ったことも何度かありました。親しい社員食堂の方と久里浜まで出かけたこともあるぐらいですよ。 「おい梓、そこの役場の通りに入っていくと釣りができるんだよ、ニジマスを養殖していてな…」 奥多摩駅と村役場の道を日原川にそって行くと渓流釣り場があるのですよ、日原川は、国道沿いに流れる多摩川に流れ込んでいる川です。天然の川を利用してのマス釣り場は、比較的簡単に渓流釣りを味わうことができます。 「ちょっと、アタシはね、せっかくの紅葉を見物に来たんだから、まずはモミジを見せなさいよ…ボリ…ボリ…」 とはいったものの、運転しているのはこの私、女房はいつだって車窓越しの紅葉を楽しめるのです、それなのに… 「いい? 主婦ってのはそもそも休みが…バリ…ボリ…バリ…ボリッ」 女房の手にしっかりと握られたセンベイの袋は、もう2袋目に入ろうとしておりました。 これ以上センベイばかり食べられても正直あとが面倒なので、車を停め、多摩川と山すそとをしばらく眺めることにしました。やはり、日本人の秋といえば、真っ赤に色づいたモミジに限ります。特にその美しさの善し悪しは、春のサクラなんかよりもずっと繊細で、非情に天候に左右されやすいものなんです。猛暑や冷夏の年は、青々とした葉が色づく前に枯れてしまう、なんてこともあるのですよ…。 「これよ、これこれ。いかにも秋っていったところかしら…バリ…ボリ…」 …いささか雑音が気にはなるものの、今年は平年並の気候であったためか紅葉の赤も美しく、山吹色に染まった広葉樹との対比がこれまた味わい深いものです。特に木々に赤々と絡み付いたツタというのも捨てがたいですね。 と、そういえば来週は楓の誕生日でした。ちょうどあの娘が生まれたときもこの奥多摩の山々のように紅葉の美しいときでした。きっと今ごろは東照宮か中禅寺湖あたりで同じように紅葉を愛でていることでしょう。と、このままのんびり景色を眺めるのも良いのですが、やはりここまで来たからには、他にもいろいろ見て回りたい、というのが旅好きの私の意見なんですけどね。 「梓、そろそろ行こうか…。この後はすごい鍾乳洞へ案内するぞ」 「アタシはしばらく紅葉見ていたいんだけどね…バリッ…バリッ…」 「まぁ、景色は後で奥多摩湖あたりでゆっくり見ておくれよ… せっかくこちらまで来たのだから是非とも見せてやりたいんだ」 せっかく奥多摩まで来て、関東最大の鍾乳洞を見ない手はありません。さすがにハンドルを握っているのは私、女房は名残惜しそうにしぶしぶと…センベイ片手に…車に乗り込みました。 するとモミジの葉がいちまい…開けた車窓から舞い込み…。 「まったく、紅葉見に来たのにほら穴見に行くなんて…ねぇ…ボリ…ボリッ…」 「…。…。」 多摩川ぞいの国道から日原川ぞいの山道へと車を走らせます。しかし、走りこそまことに軽快なのですが、なにやら気分がすぐれません。山道のせいもあるのでしょうが、やけに肌寒さを覚えるのです。きっとこのジャンパーの下で、私の二の腕はトリ皮のようになっていたことでしょう…。 「…ちょっと…寒くないか?」 |
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